アジト
「それじゃ北林君。失礼します。」
近藤さんは北林の額に手を当てた。
「リメンバー」
黒い魔法陣が発生した。
この魔法には俺も見覚えがある。
三年前、父親が買ってきたプリンを無くしたと騒ぎ出し、お前が食べたんだろ! と的外れなことを言ってきたことがある。
俺は違うと言ったが父親は聞く耳を持たず見かねた近藤さんが他人の記憶にアクセスする魔法、『リメンバー』を使い、プリンの場所を探し出してくれた。
この魔法のすごいところは一度体験したことを例え本人が忘れていたとしても近藤さんが再び擬似体験し、読み取れるという点である。
結局、プリンは父親が洗い場に置き忘れていたということで事件は解決した。
たく、あのバカ親父が。
とにかく、このリメンバーを使えば、魔法が使えなくなった経緯を分かるというわけである。
今回の事件を解決するには近藤さんのリメンバーの魔法が欠かせない。
三分後、近藤さんは魔法を解除した。何やら複雑そうな顔をしている。
「あの......どうでしたか?」
真っ先に訊いてきたのは北林だった。
「結論から言うと、北林君は不純異性行為をしていませんでした」
「ほ、本当ですか! 良かったぁ......」
北林は安心した顔をしている。いや、この近藤さんの顔を見るに何やら事情は複雑そうである。
「しかし......どうやら魔法使いの仕業というわけでもありませんでした。北林君の記憶では女性に襲われてどこかの施設に運ばれています。そして、何やら人体実験のようなものを受けていました」
「人体......実験......?」
マリー先生は驚愕しているようだ。俺も同感である。人体実験なんていう可能性は全く思いつかなかった。
「ええ、おそらくはどこかの研究所だと思いますが、何やら装置がたくさんあるところでした。必死に北林君は抵抗していましたが、体を縛られて人体実験されています。恐らくはその影響で魔法が使えないと思われます」
襲われた前後の記憶がないのは人体実験の影響なのだろうか。
「その女性の顔の特徴は掴めたんですか? あと、どんな風に襲われたんですか?」
俺は気になることを訊いた。
「女性の特徴は恐らく緑髪の二十歳前後の女性。白衣を来ていました。北林君が人目のつかないところに移動したところを機械? みたいなもので攻撃して気絶させています。その後は女の仲間と思われる者が車で二人を迎えに来ています」
「それで......その研究所とやらの場所は分かりましたか?」
訊いたのはマリー先生だった。場所さえ分かればそこに赴くことができる。
「すみません......そこまでは。北林君が女性に襲われて研究所に着くまでの間、気絶しています。そのため場所まではちょっと......」
それを聞き、マリー先生は残念そうな顔をした。
「それではアジトを探す方法はないわけですか。困りましたね......」
アジトって。ちょっと表現が子供っぽいな。
「他の退学した生徒の記憶も読み取るってのはどうでしょう?」
俺はそう提案した。もしかしたら襲われてからアジトに到着する間、気絶していない生徒もいたかも知れない。
俺の言葉を聞き、マリー先生は頷いた。
「そうだな。他の四人の生徒の記憶を読み取れば何かが掴めるかも知れない。近藤さん、すみませんがご協力いただけますか?」
「ええ、もちろんです。ただ、今日はもう遅いので明日でもよろしいでしょうか?」
「はい。明日、九時に学校に来ていただいてもよろしいでしょうか」
「了解しました」
すると、マリー先生は俺の方を見た。
「藤嶋。お前は明日、鈴鐘と近藤さんと一緒に退学した生徒の元へ向かってくれ」
「いいですけど......なんで鈴鐘も?」
「近藤さんの魔法を間近で見ればいい発奮材料になるんじゃないかと思ってな。あいつは魔法の筋がいいから」
「なるほど」
分かったような、分からないような。
そんなわけで今日はとりあえず帰ることになった。帰る前、北林がみんなにこんなことを言った。
「お願いします......どうか、僕から魔法を奪った女性を捕まえてください!」
「よしんばその女性を捕まえたとしてもまたお前が魔法を使えなければ退学は取り消されんぞ」
相変わらずマリー先生は無慈悲な声質でそう言った。
「それでも......僕はその女性は絶対に許せません! 捕まえて欲しいです」
「そうか。まぁ捕まえれるように努力はする。藤嶋、明日九時に鈴鐘と一緒に職員室まで来てくれ。遅れないようにな」
マリー先生は部屋から出て行った。
「二人共、どうかよろしくお願いします!」
北林は深く俺と近藤さんに対してお辞儀をした。
「ああ、任せてくれ」
近藤さんは優しくそう答えた。
「まぁ......努力はするよ」
俺はぶっきらぼうにそう答えた。
近藤さんは今日はホテルに泊まる。
俺は途中まで近藤さんと一緒に帰ることにした。
「いやぁ、藤嶋君も面倒なことに巻き込まれてるみたいで大変そうだねぇ」
「本当......勘弁して欲しいですよ。それにしても、今日出会った、あの科学者と名乗った男は何者なんですかね?」
すると少し近藤さんは不機嫌そうな顔になった。あの男に負けたのがそれなりにこたえているのだろうか。
「今はまだ分からないな。だけど、少なくとも目的はドクロクリスタルなのは間違いない。けど、それを使って何をしようとしているのかが不明だ......」
ドクロクリスタル。この世界に十三個存在しているという秘宝。
全て集めるとどんな願いでも叶うと言われている。この秘宝を巡って戦争が勃発したこともある。
今は全て集めようとする国なんてイギリスくらいしかないのだが。
「ドクロクリスタルを全て集めると本当にどんな願いでも叶うんでしょうか? 俺には未だに信じられません」
「信じられないもなにも一度、平賀工がドクロクリスタルを全て集めて願い事を叶えたって言われてるからね。昔、藤嶋君に教えたよね? さて問題です。平賀工はドクロクリスタルで何を叶えたでしょう?」
なぜか、突然近藤さんが問題を出してきた。
「魔法使い同士でも子供が作れるようになること......ですよね?」
平賀工はドクロクリスタルの力を使い、契約魔法を生み出した……と言われている。




