陽魔法
そんじゃまずはあいつを呼び出すか。
「マジカルビーストサモンズ」
俺は両手を地面に置いて、呪文を唱えた。
目の前に黒い魔法陣が発生し、俺と契約している魔獣のブロが現れた。
「またまた呼び出された。暢、今度はなんだ?」
顔を近づけてきて訊いてきた。
「あのライトセーバーっぽいものを持っている奴をぶっ倒してくれ」
単刀直入に伝えた。
「うわぁ! 大きいドラゴンだなぁ! すごいね君」
科学者の男はブロに感動しているようだ。
「あいつを倒せばいいんだな?」
「ああ、頼む」
するとブロは飛び上がり男めがけて炎の玉を吐き出した。
男は高速移動でかわしていく。
「小癪な人間め!」
ブロは立て続けに何発も炎の玉を発射していくが、全て避けて行った。
「おい! ブロ! 近藤さんに当てるなよ!」
「たく! 注文多いな!」
近藤さんはまだ気を失っている。
するといつのまにか男はブロの背中に乗っていた。
「お前、いつの間に......?」
ブロは長い首を後ろに回し、男の方を振り向いた。
「ごめんね〜ドラゴンさん」
男はライトセーバーっぽい剣で思いっきりブロの頭を叩きつけた。
ドスンとブロは地面に落ちて行った。
「そんじゃ、そろそろ終わらせるか。安心して、君を殺す気はないから。気絶させるだけだからね」
来る......そう思った瞬間、俺は呪文を唱えた。
「リフレクション」
精神を落ち着かせ小さく唱えた。
リフレクションは属性魔法とは異なる陽魔法と呼ばれる魔法。
陽魔法は相手ではなく自分自身にかける魔法である。
以前、若松が使ったエンハンストも自分自身にかける魔法であり、陽魔法の一種である。
強力な効果を得られる代わりに魔力の消費も大きい。
男が後ろに周り、呪文を唱えてきた。
「フェイント」
男が発生させた魔法陣が俺の頭に触れた。
しかし、魔法陣は男の頭に移動し、男の頭に触れていった。
「なに?」
男は気を失った。
「勝った......」
俺は胸を撫で下ろした。
リフレクションは唱えてから数秒間の間、相手の魔法を跳ね返すことができる。
しかし、発動時間が短いため、タイミングが肝となる。
もう少し発動するのが早かったり遅かったなら失敗していただろう。
「や、やったんだな?」
よろよろと近藤さんが近づいてきた。どうやらもう立てるようだ。やれやれ、相変わらずすごい人だ。
「はい、まぁ」
「よく勝てたもんだ。褒めておくよ」
「たまたまですよ。少なくとも近藤さんがいなかったら大敗してました」
近藤さんと男の動きを見ていなかったら全く対応はできなかっただろう。
「とりあえず、この男を政府に引き渡そう」
近藤さんは気絶している男の手をとった。
「が......!」
すると、男が近藤さんの顔にパンチをかましてきた。
近藤さんは尻餅をついた。
「あっぶねー! やるねぇ君。危なかったよ」
「くそ! もう起きたのか!」
しかし、あまりにも起き上がるのが早すぎる。
近藤さんですらもう少し時間がかかったのに。
「倒れる直前に回復魔法をしておいたからね。おかげさまで早く起きれたよ。ただ、もう身体能力倍増装置はしばらくは使えないから今日はおさらばしておくよ」
男は笑顔でそう行った。
「逃すか!」
近藤さんは男に迫った。
「スモッグ」
黒い煙が俺と近藤さんを包み込んだ。
「ごほ! ごほ!」
突然の煙に思わず咳き込んだ。こいつ、こんな魔法もできるのか。
煙がなくなると男はどこかに逃げていた。
「くそ! 逃げられた!」
近藤さんは地団駄を踏んだ。逃げられたのがよほど悔しいのであろう。
「近藤さん、あの男はなんだったんでしょうか?」
「さぁ、分からない。最近、他の国のドクロクリスタルが盗まれているという事件が発生しているからその関係者かもしれないな」
そんな事件が起きていたのか。俺はあんまりニュースをみないため、初耳だった。
「とりあえず逃げられてしまったものはしょうがないか。後で国に連絡をしておこう」
「はい、それで学校はどうします? 明日にしますか?」
俺は近藤さんのコンディションを考えた結果、明日にした方が良いのではないかと思った。
激しい戦闘の後では記憶を呼び覚ます魔法が使えないと考えた。
「いや、大丈夫だ。ちゃっちゃっとやってしまおう」
おいおい、ものすごい回復力だな。俺なんかもうヘトヘトなんだが。
時刻は六時、学校に戻り職員室のマリー先生の席に向かった。
「待っていたぞ、藤嶋。その方が例の魔法使いさんか?」
「はい。紹介します。近藤遥歩さんです」
すると、近藤さんは礼儀正しくマリー先生に対して深いお辞儀をした。
「初めまして、近藤遥歩といいます。去年まで藤嶋君の家庭教師をしていました」
それを聞いた時、マリー先生の目は丸くなった。
「なるほど、藤嶋君の家庭教師でしたか......」
「藤嶋君はどうですか?」
近藤さんは学校での俺の様子について訊いてきた。おい、やめろ。
「そうですね。いつも授業で手を抜いて困ったものです」
「ほう、後で気合いを入れてやる必要がありますな」
近藤さんは笑顔で俺の方を見てきた。
う......この人の笑顔怖えんだよな。マリー先生と近藤さん、会わせちゃいけない二人だった。
「それよりも先生、さっそく退学した生徒のところに案内してくれませんか?」
痺れを切らした俺が早く案内するように促した。
「それもそうだな。生徒も待っていることだし」
俺たち三人はとある部屋に向かった。
その部屋は視聴覚室だった。
部屋に入ると、背の低い黒髪の地味目な座って待っていた。
「この生徒が先月退学した北林五郎さんです。一年松組の生徒でした」
マリー先生が説明してくれた。一年。俺と同学年か。
「初めまして。北林五郎です」
淡々と北林は俺たちに挨拶をした。真面目そうな生徒でとても不純異性行為なんてするようには見えない。
近藤さんは北林に近づき、じっと彼を観察した。
五秒くらい観察した後、言葉を発した。
「なるほど......確かに彼に魔力を感じませんね」
すると、北林が顔色を変えた。
「ぼ、僕は不純異性行為なんてしていません! 信じてください!」
「まぁまぁ、北林君落ち着いて。もちろん、最初から君が不純異性行為をしたなんて思っていないさ。魔力を封じる魔法をかけられた可能性もある。君の記憶を辿らせてもらうからね」
諭すように近藤さんがそういった。俺は近藤さんの言葉に疑問を持った。
「近藤さん、魔力を封じる魔法なんて存在するんですか?」
「ああ、隠魔法を使った魔法でかけた相手の魔力を完全に防いでしまう魔法使いも存在する。だが、そんなことができる魔法使いは滅多にいないのだが......」
「近藤さん、悪いですが不純異性行為だろうが何だろうがもう魔法が使えなければこの生徒の退学の取り消しはありません。あくまでこの学校は魔法使いを育成する学校ですから」
マリー先生は冷たく言い放った。
「そ、そんなぁ......」
北林は絶望に満ちた表情を見せた。これは......正直あまりにも可哀想だ。
「どうやったらその隠魔法を解除できるんですか?」
「隠魔法をかけた魔法使いを殺すか、魔法使いに解除してもらうしかない」
「ならその魔法使いを早く見つけましょう」
俺はその魔法使いを捕まえてやろうと考えた。退学した生徒が可哀想というのもある。
だが一番は......
「分かった。早速、北林君の記憶を辿る」
俺の平和な日常を邪魔をするやつは排除してやる。




