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ウィザードオブバージン  作者: チャンドラ
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近藤遥歩

 近藤さんと電話をした二日後、学校が終わった後、俺は東京駅へと向かった。

 東京駅にはたくさんの人がいる。たくさん改札口もあるし待合場所としてはあまり良くなかったかもしれない。

 俺は八重洲中央口のところで待っていた。そろそろ四時になりそうだったので電話をかけることにした。

「さてと……電話するか」

「必要ない。目の前にいるじゃないか」

 すると突然、俺の目の前に近藤さんが立っていた。

「うわぁ! びっくりした!」

 坊主頭で和服そして溢れ出る迫力、間違いなく近藤さんだった。


「久しぶりだね、藤嶋くん。元気してた?」

「ええ、まぁぼちぼちです......よくここがわかりましたね。魔法を使ったんですか?」

「うん、まぁね」

 さりげなくすごい魔法を使ったんだな。それにしても相変わらず強そうだ。俺は一度も近藤さんと対人戦闘で勝利したことはなかった。

「それじゃ、学校にご案内します」

 俺は早速、近藤さんを学校に連れて行こうと思った。すると突然、小さな声で話をし始めた。

「ごめん、ちょっとついてきてもらえる?」

「え......はい」

 そう言われ俺は近藤さんと一緒に歩き出した。

 一体どこへ向かうのだろうか。


 着いたのは人目のつかない空き地だった。

「そろそろ出てきたらどうだー?」

 突如、近藤さんは叫んだ。

「誰か近藤さんをつけてるんですか?」

「うん、新幹線に乗り始めたときからつけられてた。っていうか藤嶋くん気づかなかったの? まだまだだなぁ」

 気づくか。俺は結構、察しのいい方だが気配一つなかった。かなりの実力者と思っていいだろう。


 すると突然、男の人が前に立っていた。何もないところから急に現れたという感じだ。

「あれぇ? ばれちゃった? たまげたなぁ」

 男は年齢的に俺と同じくらいで黒いヘルメットとジーパンとやけにポケットが多い茶色のコートを身につけていた。身長は百七十後半くらいだろうか。なかなかの男前の顔である。

「透明化装置を使ってたのに気づくなんて、何か魔法でも使ったのかな?」

 透明化装置? というと、魔法ではなく機械で隠れていたということか。しかし透明化装置なんて初めて聞いた。少なくともそんな機械は一般的に売っていない。

 もしも売っていたら男たちが大金を叩いてでも買うことだろう。

 ま、俺は買わないけどね?

「いやぁ、魔法なんて使ってないよ。なんとなくつけられている気配があったからね」

「へー、すごいなぁ。さすがに国直属の魔法使いってわけだ」

 近藤さんは政府の元でいろんな仕事をしている。中には命のやりとりをする機会もあると直接聞いたわけじゃないが事情は知っていた。

「それで、目的は何かな?」

「ドクロクリスタルって持ってるかな?」

 男が訊いた。

 ドクロクリスタル? 確か十三個集めると願いが叶うという髑髏型の水晶だっただろうか。

「いや、残念ながら俺は持ってないな」

 すると男は心底、残念そうな顔をした。

「そっかー、残念だな。持ってたら頂戴しようと思ったのに。ねぇ、どこにあるか場所教えてくれない?」

「断る。お前は何者だ?」

 ドスの聞いた声で近藤さんは言った。

 うわぁ、怖え。指導してもらってた時のことを思い出した。

「ただのしがない科学者だよ。まぁいいや。それじゃ帰るね」

 男はその場から離れようとした。

 近藤さんは高速移動をし、男の行く手を阻んだ。

「お前を逃すわけにはいかん。ここで捕まえておく」

「はーめんどくさ。ドクロクリスタルも手に入れられないし、そんじゃいっちょ戦いますか」

 やれやれという感じでとあるリモコンのような物を取り出した。そしてとあるボタンを押した。

「まずは十倍で様子を見るかな」

 そういうと、男はものすごい速さで移動した。近藤さんの後ろに回り込み、殴りかかった。

 しかし、近藤さんは後ろを向いたままパンチを避けた。

「あれれー、あかしいな?」

 男は立てつづけにパンチの雨を繰り出した。

 しかし近藤さんはこれは片手で防いで行った。

「なかなかいいパンチだ。だが俺には無意味だ」

 近藤さんは男の腕を掴んだ。

「オラァ!」

 男に背負い投げをした。

「いたたー、容赦ないねぇ」

 しかしこの男、劣勢なのに余裕そうである。掴みどころがなく不気味である。

「おとなしく捕まるんだな。勝てる見込みはないぞ」

 すると、男はニヤリと笑った。

「あれー、まさかあれが全力だとでも思った? もっと速く動けるんだけど」

 するとさっき使っていたリモコンのようなものを取り出し、再度ボタンを押した。

 さらに円方形上の装置を取り出すと装置はライトセーバーのような形に変形した。

「さっきの十倍は速く動けるのでそのつもりでね?」

「それは面白そうだな、ソードサモン!」

 近藤さんは呪文を唱えた。紫の魔法陣が発生し、魔法陣の中から日本刀が出現した。

 ソードサモンは呪文を唱えると武器の日本刀を取り出せる大変便利な呪文である。

 いちいち持ち運ぶ必要がなく、職質されることもない。

「そんじゃ、やろうか!」

 男は先ほどとは比べ物にならないスピードであたりを移動し始めた。

 やばい、本当に速い。

「ふん、俺も本気を出すか」

 近藤さんも男を追い高速移動した。速い。本当に速い。俺がギリギリ視認できるほどのスピードである。

 ちょくちょく剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。

 俺の周りには何度か火花が散った。

 しかし、あの男何者なんだろうか? 


 十秒ほど戦闘した後、二人の動きが止まった。男の肩からは血が出ていた。

「いてて、容赦ないねぇ......」

「降参しろ。お前ではどうやっても私に勝てない」

 近藤さんの方は無傷である。

「嫌だね。捕まりたくないし」

「そうかなら容赦はしないぞ!」

 すると男は近藤さんのほうに両手を突き出した。

「サンダーストーム」

 男は呪文を唱えると右手には緑色の魔法陣、左手には黄色の魔法陣が発生した。

「二つの属性の魔法を同時に!?」

 俺は驚きのあまり声をあげた。

 まず、男が魔法を使えたことも驚きだが雷の属性と風の属性の魔法を同時使用し合わせるなんて芸当は俺はおろか近藤さんでもできない。

 近藤さんはサンダーストームを耐えるのに必死で身動きがとれないようだった。

 やがて、近藤さんは後ろの方へ吹っ飛ばされた。

「うわ!」

 日本刀は近藤さんからはるか遠くに飛ばされた。

 そして、男は一気に近藤さんの近くに迫り、自分の右手を近藤さんの頭に近づけた。

「フェイント」

 黒色の魔法陣が発生し、近藤さんの頭に触れた。

「う......」

 近藤さんは気絶した。あの魔法、俺のドランクと似た魔法だが俺の魔法よりも強力そうである。

 ジロリと男は俺の方を見た。

「お前も戦うの?」

「......」

 くそ、全くもってどうしてこんなことになったんだ。あのまま学校に連れて行ったらこんなことにはならなかったのではないのだろうか。

 だが、難儀なことに俺は二人の戦いを見ていてこう思った。

 楽しそうだと。全くこんなことでは平和な日常なんて程遠いだろう。

「ファイアーストーム」

 男の立っているところに赤い魔法陣が発生した。火柱が生まれるが、簡単に男に避けられた。

「しょうがない、二回戦と行こうか。お手柔らかにねー」

 相変わらず飄々とした態度である。

「こちらこそ、科学者さん」

 俺は笑った。

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