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ウィザードオブバージン  作者: チャンドラ
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ようこそヴァージンたち

 ーー三十歳まで童貞を貫くと魔法使いになれる。

 ひと昔前、そんな都市伝説がネット上で流れていた。

 あくまで都市伝説に過ぎなかったのだが、魔法の存在がある日を境に天才科学者によって証明され、その後、魔法使いという職業が徐々に普及し始めていった。


 ある者は天気を操り災害を抑える。

 ある者は魔法を利用し、とても偉い人の警護を務める。

 そして、ある者は魔法を使い戦争の兵器となる......

 そんな職業が当たり前になってきた。

 しかし世間一般、魔法使いになることはあまり良い印象を持たれていない。

 理由は魔法使いになる条件。

 これがなかなか凄まじいというか、ぶっとんだ条件だからである。


 この俺、藤嶋暢ふじしまとおるは今日から国立東京魔法高校に通うことになった。

 この高校では魔法使いになる資質を持つ者、魔法使いになりたいものが入学する。

 しかし、毎年の卒業率は五十%以下らしい。

 俺は魔法高校行きのバスに乗った。

 このバスの運転手も魔法使いで、魔力を使って操縦しているらしい。

 なんでも、電気もガソリンもかからないエコなバスだそうだ。

 バスの中にはたくさんの魔法高校の生徒が乗っていた。

 金髪の髪の者、赤い髪の者と普通の高校であれば完全アウトな髪型をしている者が多数いた。

 校則には髪型の規定は特にない。

 中々、自由奔放な学校なのだろうがそれでも卒業率が五十%以下というのはやはり授業が過酷な学校なのだろうか。

 ちなみに俺の髪型は普通に短めの黒髪である。


 ガタンと大きくバスが揺れた。

 どうやら運転手がバスに強いブレーキをかけたらしい。

「おっと......悪い」

 手すりに捕まっていた俺は隣にいた女子生徒にぶつかった。

「大丈夫です。気にしないでください」

 無愛想にそう言われた。

 女子生徒は切れ長の大きめな目、長くさらさらとした黒髪、整った顔立ちと個人的に美人だと思った。

 手には本を持っている。

 その後、俺は無言のままバスに乗っていた。


 自分のクラスである一年梅組の教室に入ると、机に名前が書かれているシールが貼ってあった。

 自分の名前が書いているシールを探し、席についた。

 その数分後、バスでぶつかった女子生徒が隣の席に座った。

「さっきはどうも......」

 一応、挨拶をした。

「ええ」

 女子生徒は相も変わらず無愛想な返事をした。

 鞄から本を取り出し、読書を始めた。

 この人、どんだけ本が好きなんだろうか。

「あの、何を読んでるんだ?」

 暇だった俺は女子生徒が何を読んでいるのか尋ねることにした。

「ハリーポッターよ」

 ハリーポッター。俺はあんまり詳しくないが主人公のハリーが仲間たちと充実した学生生活を送るみたいな話だった気がする。

「そうか。あんまりちゃんと読んだことないな」

「そう。面白いから読むべきよ。私はこれを読んで魔法使いになろうと思ったわ。あなたはどうしてこの高校に入学したの?」

 突然、自分語りを始めた女子生徒は俺の入学動機を尋ねてきた。なんだこれは。面接か。

「うーん。普通のサラリーマンになるのが嫌で」

 すると、女子生徒は侮蔑の表情で俺を見つめた。

「そんなくだらない理由で入学するなんて魔法使いの卵の風上にも置けないわね。途中で辞めるのが関の山よ」


 まぁ、そうかもしれない。

 俺は別にそこまで魔法使いになりたいなんて思ってなかった。

 俺の父親は魔法使いではないが、俺に魔法使いになれと勧めてきた。

 俺はなんとなくそれに従った。


「席につけ」

 教室に魔女帽子を被った若い女性が入ってきた。

 ブラウン色の長い髪、ブルーの瞳という日本人離れした容姿だった。

「私は担任のマリーアンティヌス。マリー先生と呼んでくれ。そこから順番に自己紹介をしてくれ。名前と趣味とか好きなことを各々で述べるように」

 そういうわけで自己紹介が始まった。

明石秋鹿あかしあいかです。えーと、趣味はお料理です! 一年間よろしくお願いします」

 明石という生徒は可愛らしいお辞儀をした。

 赤がった髪色と赤い瞳。

 制服越しからも分かるほど胸が大きいなと思った。隣の女子生徒よりは確実に大きいと思う。というか隣は貧相である。


 何人か自己紹介をしていき、隣の女子生徒の番が来た。

鈴鐘凛奈すずがねりんなです。趣味は読書です。よろしくお願いします」

 淡々と自己紹介を終え、着席した。

 うわぁ......愛想のない自己紹介だなぁ。


 そして、いよいよ俺の自己紹介がやってきた。

 まぁ、ここは無難に挨拶を終えるのがいいだろう。

「藤嶋暢です。趣味は昼寝です。どうぞよろしくお願いします」

 よし、無難に終わったな。

「ふん......趣味が昼寝って」

 凛菜が馬鹿にした感じに呟いた。

「いいもんだぞ。昼寝」

 睡眠こそジャスティス。寝る子は育つのである。まぁ、身長は平均くらいだが。


 全員の自己紹介を終えるとマリー先生は右目に手を当てた。

「ディアグノシス」

 メリー先生の手から小さめの魔法陣が発生したのが見えた。

「お前ら、魔法使いのなる条件は知ってるよな?」

 突然、マリー先生が厳しい表情を浮かべた。

 クラスのみんなはしん......となった。

「魔法使いになれるのは童貞と処女だけだ。不純異性行為は即退学! 分かってるな?」

 魔法使いになれる条件は性行為をしていない者だけである。

 つまり、マリー先生も立派な処女ということである。

 ただ、別に三十歳という年齢は関係ない。

 性行為さえしなければ誰でも魔法使いになれる可能性がある。

 逆に言えば性行為をすればたとえ優れた魔法使いでも魔法が一切使えなくなる。

 これはすでに証明されている。

「それでお前らは梅組。面接は私が同席していたと思うが、その時、お前たちのアークミー量の数値を読み取った」

 すると、明石が手をあげ質問した。

「先生、アークミー量とは?」

「アークミー量とは簡単に言えば魔法が使える量だ。この数値が高いほど使える魔法の規模が大きくなる」

 マリー先生は説明を続けた。

「入試テストは受けたよな。筆記試験と面接。ぶっちゃけ筆記試験は余程のアホを切り捨てるためで肝心なのは面接だ。アークミー力が低いのばかりを集めたのがこの梅組だ」

 なるほど。

 つまりお前たちは落ちこぼれの集まりだ! と言いたいわけか。

「そこのお前! アークミー量を鑑定したところ1024とでた。お前がこのクラスで一番数値が高い。参考までに、面接でのこの梅組の平均アークミー量は800前後、竹組が1200前後、そして、松組が1500だ」

 先生に指を差されたのは金髪の若干ハーフっぽい顔立ちのイケメンだった。確か、佐々木准ささきじゅんという生徒である。

「しかし、心配しなくていい! 私の指導でお前たちを立派な魔法使いにしてやる! 私の授業は厳しいから覚悟しておけよ」


 あれ? なんか予想とは違った。

 普通にいい先生っぽいな。

 お前らはクズだ。教えるに値しないゴミどもだ! くらい言ってくるのかと思った。

「それでは一時間目は魔法の歴史から始める。みんなノートと教科書を出すように」

 俺は魔法使いの肖像画が描かれている教科書を机に置きノートを広げた。

 今日から魔法学校での生活が始まる。

 まぁ、ぼちぼち頑張っていこう。

 え? 魔法使いはどうやって子供を作るのか?

 それは後で教えよう。多分な。

  


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