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ふわっと体が浮かぶ。花の優しい香りに 包まれる。とても落ち着くこの感じ。
目を開ければ、それは、もう夢の中。
昨日見た夢の続きだろうか。私の目に写る、球体とそれを守る2体の獣。
なぜか、私は、それに付いて移動しているようだ。
(あれ?いつもは、好きなところへ行けるのに。なんだろう、離れられない?)
疑問符が頭に浮かぶが、まあ、仕方がない。
どれだけ移動したのだろうか。町や村をいくつも通りすぎていっただろう。たぶん。
たぶんというのは、あまりにも移動が早くて、下を見ていたら、酔ってきて途中ダウンしたからだ。でも、体は勝手に付いていったけど。
やっと止まったと、周りの様子を見れば、カストレア王国の中央都市からは、大分離れた田舎だった。
2体の獣は、そっと下へと降りた。
(えっ、そこに降りるんですか。)
降りたそこは、牧場のような場所だった。
馬たちが気配を感じたのであろう。寝ていただろうに、2体が降りるその場所を開けて、囲むように居直す。
警戒しているかと思えば、そうでもない。ビリビリ感ではなく、なんというか慈しむかのような温かな眼差しだ。
それは、馬たちだけでなく、騎獣として活躍する、ヤコンやカトーラ達もだ。普段、絶対一緒に関わることがない獣たちが、その輪に集まってくる。
2体の獣が、角を球体に押し当てる。
獣たちが、一斉に膝をおった。
光輝く球体は、みるみるうちに、その光を膨れさせていった。
(巻き込まれる‼)
思った時には、既に遅し。
気づくと光の中だった。
「「お目覚めに」」
私は、確かに、そんな声を聞いた。
「 」
誰かが答えるその声も。
光が収まったその先にあったものは、いや、あったのは、
赤ちゃん・・・・・
白く柔らかな布に包まれて、すやすやと眠っている。その赤ちゃんを囲むように2体の獣。
でも、その姿は、先程までの神々しさを全く感じさせるものはない。
巨体は消え去った。
その代わりに1体は、大人が一人乗れる位の大きさに。もう一体は、肩に乗る位の大きさに。
しかし、さすがは神獣。大きさは変わっても、威厳は変わることがない。
スッとその目が私を捕らえたような気がした。
どきっ。
でも、びっくりしたけど、不思議と悪い感じがしない。それよりも、なんだか懐かしいような。
その目がやっと私を解放したとき、いきなり1体が、空へ向かって啼いた。
それに合わせるようにもう一匹も。
囲んでいた獣たちは、さらに身を低くし、頭を下げる。
(何なの、これ)
その光景は、なんとも異様だった。
一瞬の静寂。そして、その後の咆哮 。
(もしかして、私、すごい場面見ちゃったかも‼)
気持ちが高揚していくのが分かった。
どれくらい啼いていたのだろうか。
その後、2体の獣の 一啼きで終わりを迎えた。
静かになった獣たちは、身を寄せあいながら、そっとその場にて眠りについた。
(今日は、ここまでかな。起きたら、すぐに書き留めなきゃ)
私もまた、ふかふかの獣に寄りかかって、そっと眠りについた。
・・・・・いつもなら、これで、夢が覚めるはずだった。
でも、目覚めて、私が見た景色は、自分の部屋ではなく。あの夢の世界だった。
(ここは?)
周りを見渡すと、そこには、幼女が寝ていた。
そして、その子の側には、2体の獣が寄り添っていた。
(じゃあ、この子は、あのときの赤ちゃん!時が進んだってことか)
すやすやと眠る幼女を、そっと見る。
神獣たちは、私の存在が分かっているのであろう。近付くと素早く反応したが、襲いかかることもなく、ただ見守ってくれるようだ。
幼女は、2歳になったかどうかって位の姿をしていた。
黒い髪に黒い眉。
真っ赤なほっぺに、ぷくぷくした体・・・・・
どう考えても、一般的な日本人の子供だ。
でも、それだけでなはく、すごく、引っかかることがある。
見覚えがある、その子に。
似てるのだ。どこから、どう見ても。
私の子供の頃に。
え。
えっと、どういうこと。
かわいいわぁ、なんて言ってられない。
何か気味が悪い。
バッと、その場から離れる。
部屋を出ようとしたが、出られない。
何か強制力が働いているかのようだ。
幼女に引き寄せられる。
離れようともがく私。
それを見つめる、2体の神獣。
何度も試すが、結果は変わらず。
もがき疲れて、もうその場に座り込む。
諦めて、幼女をもう一度見れば、閉じていたその目がぱっちりと開いていた。
その目には、私が写し出されている。
見れば見るほどそっくり。
幼女が私に向けてだろう。両手を伸ばしてきた。
ついつい反射的にその手にタッチをしてしまう。
「お帰り」
声が聞こえた。
その声がどこからきたかは、もうわかる。
頭に流れ込むあの記憶。
「「これは、私だ」」
この幼女は私で、あることに間違いない。
「「よくぞお目覚めに」」
神獣たちがいう。
そっか、私だったんだ。なーんだ、そっかあ。そっかあ・・・?
私の意識は、ブラックアウトしていった。
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