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夜に星が瞬けば、  作者: 銀タ
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 早いもので、鴇尾が金衛門の所へ来て五年が経った。鴇尾もすくすく成長し、今では自他共に認める立派な美少女である。そして十歳になった鴇尾の生活ときたら、下手をしたら本物の猫よりもだらけているかもしれない。

 勝手気ままに猫生活を満喫している鴇尾だったが、そんな鴇尾にも最近困っている事がある。困っている、というよりも、面倒臭いと思っている、の方が正しいかもしれないが。


「それでのぅ、思いきって結婚を申し込んだんじゃがな、門前払いを食らってしまったんじゃ。どうしたもんかのぅ」


 出会った頃より確実に増えた贅肉に、肩を竦めたつもりなのだろうが只顔を埋めただけになっている金衛門は、むぅぅと不細工な顔をして唸った。

 

「父上殿は、ワシのような男には会わせんと言ってな。顔を見ることすら出来んかったわい。ああこんな事してる内に、あの娘が好い人を見つけたらどうするんじゃ~」


 しくしくと蹲って泣き出した肉の塊に、あぁまた始まった、とげんなりする。

 そう、鴇尾が最近困っている事とは、正にこれなのだ。

 なんとこの金衛門、つい最近恋をしたらしい。外出先で道の石ころに躓き、怪我を負った金衛門を優しく介抱してくれた美しい娘。にっこりと微笑まれたその瞬間に、恋に落ちたのだと聞いたときは、何言ってんだこのじじいっ年を考えろ! と思ったものだが、話を聞かされる内に知った金衛門の年齢には、ついうっかり顎を外しそうになった。

 菰乃屋金衛門、二十四歳菰乃屋店主、ちょっぴり太ってはいるが、ピチピチの若人である。

 おい、ちょっとまてそれなら私を買った時はまだ未成年だったのかこの野郎! と思わず叫びそうになってしまったのは、記憶に新しい。


「のぅ猫や猫、どうすればいいと思う?」


 最近ずっと座敷牢に入り浸り、ぐちぐちと悩むその男は、はっきり言ってウザイ。こんな子供に相談してどうすんだ、友達に相談しろ友達に! と思わなくもないが、小悪党のこの男に友達なんて居る筈もないか、と考えを改める。

 だが鴇尾とて、前世では恋愛経験があるとはいえそれも豊富とは言いがたく、人に恋愛指南するほどの経験は積んでいない。この時代に恋の指南書なんて物もなく、鴇尾は金衛門の相手をするのにほとほと困っていた。


「ううっ、今頃何処の馬の骨ともしれん奴と、上手く行ってたらどうしたらいいんじゃぁぁぁ」


 わんわんと叫ぶ金衛門に、いい加減面倒になった鴇尾はぽつりと小声で呟いた。


「身辺調査」

「ん?何々?あの娘の身辺調査を?……いかんっ!それはいかんっ!そんな事してあの娘にバレたらどおするんじゃっ!嫌われてしまうかもしれんっ!」


 いや、嫌われるもなにも好かれてもねぇよ、と苛っとする。普段は商売敵の身辺調査やら弱味を探るやらをさせている癖に、まったく今更な話である。


「ワシは正々堂々と!あの娘と結婚したいんじゃっ!あまぁぁぁい夫婦になりたいんじゃっ!」


 何やら馬鹿な事を抜かしている金衛門に、もう一度呟く。


「……痩せたらいいと思う」

「ん?何っ、ワシは太っておるのか!?」


 気付いてなかったんかいこの豚め! と白い目を向ける。


「なんと、やっぱり女子は細い方がいいのかっ!?」


 まぁガリガリは微妙だがお前は太りすぎである。うんうんと頷く鴇尾に、金衛門はガバリと起き上がった。


「よしわかった!ワシは今すぐ痩せてくるっ!」


 ドスンドスンと音をたてて去っていく後ろ姿に、ああやっと厄介者が居なくなったと大あくびをする。


『ねぇ鴇尾ちゃん、私も痩せた方がいいかしら?』


 ふいに聞こえてきたその声に、視線を横に向けるとそこには、丸々と太った黒猫が寛いでいた。


「んーん、クロ、可愛い」

『あら、そお?でも人間のおなごは細い方がいいんでしょ?』

「クロ、好き」


 痩せるなんてとんでもない、クロは太っていても可愛いのだ。グリグリと顔をクロのお腹に押し付けた鴇尾は、ああこれぞアニマルテラピー、と幸福に浸っていた。


『おいこら鴇尾!俺の時とはえらく態度が違うじゃねーかっ!』


 そんな至福の時間を壊したのは、相変わらず空気の読めないブチだ。


『あらぶちにゃん、ご機嫌よう』

『誰がぶちにゃんだっ!俺にはなっ、はす向かいのちびっこがつけた、福太郎ってぇ有難い名前があるんだっ、断じてぶちにゃんなんて変な名前じゃねえっ!』


 福太郎だと? 完璧に名前負けしている上、なんと似合わぬ名前なのか、そのちびっことやらのセンスを疑う。ブチはぶちにゃんで十分である。


『あぁん?なんだと鴇尾!俺のどこが名前負けしてんだっ!見ろこの福を呼びそうな愛らしい顔をっ』


 顔の辺りに頭突きをかましてくるぶち猫に眉をよせ、うえっと呻き声をあげた。まったく、毛が口に入ったらどうしてくれる。


『ったく、失礼な!お前ほど俺の扱いが雑な奴はいねーよっ!』


 ぶつぶつと文句を垂れるその姿は、どう考えても福を呼びそうには無い。福を呼びそうな猫というのは、クロのような猫をいうのだ。


『それよりぶちにゃん、何か用があって来たんじゃないの?』

『ん?おお、そうだった!金衛門が懸想してる相手、どこの娘かわかったぜ!聞きたいかっ!?』


 なぜかわくわくしているブチには申し訳ないが、まったく興味は無い。どうせ上手くいく筈ないのだから、関わる気も起きやしない。


『そーかそーか、聞きたいか!しっかたねぇなぁ、話してやるよ!』


 いやだから興味ねぇよ! と苛つく鴇尾などお構い無しで、ブチは得意気に話し出した。


『なんと聞いて驚くな!相手はあの緒雄物屋(おおものや)の次女、玉緒ってぇ娘だ!』

『あらあら、まあまあ……』

 

 クロが思わず言葉を失うのも無理はない、緒雄物屋といえばこの辺りで一二を争う大店だ。菰乃屋のように、こそこそと悪事で金を稼ぐような商いではなく、世間の評判もすこぶる良い真っ当な店である。

 しかし小物が大物にちょっかいを出すとは、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは。そりゃ門前払いされるわな、と鴇尾も呆れた。

 

『ついでにいうと、どうやらほんの僅かだが治癒の力を使えるらしい。まぁつまり、光属性の異能者って訳だ』

『……』

「……」


 これには流石に、クロも鴇尾も絶句である。金衛門はなんと無謀なのだ、そんな高嶺の花と上手くいく筈無いだろう。たとえ痩せたとしても、その娘が金衛門に靡くとは思えない。

 天地がひっくり返ってもあり得ないが、もしその娘が金衛門を好いたとしたら、鴇尾は真っ先にその娘の思惑を探るだろう。

 恨みだけは無駄に買って回っている男だ、その娘が何かしら腹に一物抱えている可能性は、二人が上手くいく可能性よりよっぽど高い。


『まぁ、初恋は上手くいかないって言うしね』

『おい鴇尾、はっきり身の程を知れって言ってやれよ』

「……うむ」

『……』

『……』





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