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夜に星が瞬けば、  作者: 銀タ
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 ――恩を仇で返すとはまさにこの事である。


 目の前でピーチクパーチクと喧しく騒ぐ雀に、五歳になった鴇尾がここ最近思うのはそんな事だった。


『それでね、私言ってやったのよ!あんたみたいな浮気者、もう知らないってね!』

『え~!うっそぉ!あんなにラブラブだったのにぃ?』

『そうそう、すごく仲良かったじゃない!』

『そんなことないわ!何だか最近愛情が薄れてきてるって、ずっと思ってたのよ!』


 短い尾羽をプリプリさせ、他の雀達に愚痴っているのはあの時の雀である。そこにはなぜかあの雀だけでなく、沢山の他の雀達もいるのだが。



 あの初めて雀と言葉を交わした日の翌日、もう会いたくないと思っていた雀は、あろうことか仲間を引き連れ、鴇尾の目の前に現れた。なんでも、話ができる珍しい人間を仲間に紹介したかったらしい。鴇尾からすれば、まったくもって迷惑な話である。

 しかも、雀のみならず他の森の生き物まで連れてくるのだからたまらない。お陰で鴇尾は全ての動物と話ができるという、有り難くない事実を知る羽目になったのだ。


 何よりもっと有り難くないのが、何故か鴇尾が、やけに動物達に好かれるという事だ。別に優しくした訳でも、餌をやったわけでも無いのに、奴等は最初から無駄に懐いてくるのだ。

 鴇尾がちょっと腹が減ったと呟けば鳥達が果物の山を作り、あぁ魚が食べたいと溢せば熊が鮭をくわえやってくる。

 この変な力が目覚めたのは、十中八九前世を思い出した事が切っ掛けだろう。そしてどうやらこの力を持つのは、この世で鴇尾ただ一人らしい。日本を飛び回る鳥達に聞いても、海を渡ってくる鳥達に聞いても、動物と話すことができる人間は居ないそうだ。


 動物の情報網とは案外侮れない物で、動物達が鴇尾以外無いというのなら、本当に無いのだろう。そしてそんな鴇尾の能力は、稀に生まれるという炎や雷、その他の力を操る者達とはまた違った力のようで、鴇尾の噂を聞き付けた動物達が、全国からわざわざ会いにるのだ。


 そんなこんなで、野生の動物が幼女に集まるという不思議な光景が、周囲に見つからないはずがなかった。比較的早い段階で両親にばれ、それからはまるで化け物でも見るかのような目でみられるようになった。

 鴇尾だって、別に動物達と話したかった訳ではない。しかし、あまりにしつこく話しかけられて、たまたまついつい返事してしまった現場を、運悪く目撃されてしまったのだ。

 鴇尾を可愛がったくれていた兄弟達も、最初は動物になつかれる鴇尾を憧れの眼差しで見ていたが、熊や狼が妹の為にせっせと貢ぎ物を持って来始めた頃には、目に恐れの感情を浮かべ、距離を置くようになっていた。


『それにしても、人間の親っていうのは薄情なものね!私たちですら、まだ雛みたいな年頃の鴇尾をほっぽりだしたりなんてしないわ!』

『ほっぽりだしたんじゃないわ、売ったのよ!』

『どっちにしたって一緒よ!大丈夫よ鴇尾、私達がついてるから!』


 むしろ諸悪の根元は貴様だと思いながら、鴇尾を励まそうと狭い駕籠の中で飛び回る雀を睨み付ける。狭いのにこうも飛び回られては、いずれ顔面に嘴が突き刺ささりそうだ。そんな事を考えていると、いきなり駕籠の外から衝撃が走った。


「おいっ、うるせぇぞっ!ぶっ殺されてぇのか!」


 バンバンッと天井を叩かれ、やれやれと肩を竦める。まったく、少し位はドナドナ気分に浸らせてくれたらいいのに、どいつもこいつも五月蝿いったらありゃしない。

 大体騒いだのは鴇尾ではない、勝手に駕籠に乗り込んできた雀なのに、とむっつりしながら、今更ながら改めて自分が置かれたこの状況を鑑みる。


 若干現実逃避に走っていたが、どうも鴇尾は、実の両親に売られたらしい。いや近い将来そうなるかも、とは考えてはいたが、まさかこんなに早くに売られるとは思わなかった。朝早くから母親に叩き起こされ、なんだなんだと思っているうちに、豪奢な駕籠に乗せられ囚われの身だ。 

 この時代にこんな駕籠あるの、とか、どこに連れていかれるの、とか、頭をよぎる疑問は多いが、そのどれにも答えは見つからない。取り合えず酷い目にあわなきゃいいな、と流石は元現代人と言える危機感の無さで、大人しくドナドナされているのである。


 こんな豪奢な乗り物に乗せられたんだから、行き着く先は貴族の所だろうか。この世の事はよく分からないが、まさか花街に売るのにこんな豪奢な駕籠は用意しないだろうと考えた鴇尾は、その自分の考えに少しばかり安心した。別に前世はいい年した大人だったのだ、恋人が居たこともある。自身の貞操にそこまで拘りはないが、この時代の花街は勘弁してほしい。主に衛生面やら性病やらが心配である。

 だがしかし、花街ではないとしても売られた身だ。今はまだ五歳という年齢から安心だが、いずれ年をとれば貞操の危機に晒されるかもしれない。


 ちょっとまて、まさか幼女趣味の男に買われたなんて事はないだろうか?ちょっとそれは勘弁してほしいなぁ、と呑気に考えていた鴇尾は、ガタリと駕籠が揺れた衝撃で舌を噛んだ。

 じんわり広がる血の味に、これだから昔の乗り物は! と乗り心地の悪さに文句を垂れながら、またもや思考に耽る。

 幼女趣味は勘弁だが、殺されるよりかはマシな筈。そして鴇尾が殺される事は無い筈だ。だって殺す為に子供を探していたのなら、今この時代は乱世なのだ、その辺りにいくらでも孤児が転がっている。態々金を払ってまで鴇尾を買う必要は無い筈だ。

 一人自問自答しながらウンウン唸っている鴇尾は、端から見れば只の呑気な馬鹿である。真っ当なこの時代の子供なら、とっとと駕籠から飛び出して逃げようと、一度は試みてているだろう。しかしそこは平和呆けした現代人、なんとかなるだろうと開き直った鴇尾は、為せば成るさ、為せば成る、と一人呟き、駕籠の中でだらけきっていた。






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