表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜に星が瞬けば、  作者: 銀タ
20/28

二十






 それからというもの、夜飛は毎夜土産をもって鴇尾の元を訪れた。最初は警戒していた鴇尾も、最近ではその訪れを少し楽しみにしている。なんせ、夜飛が持ってくる土産は、鴇尾の好みをピンポイントで突いてくるような物ばかりだったのだ。昨日の夜も可愛らしい手鏡を貰った鴇尾は、朝から上機嫌だった。


『あいつもよくやるよな~、毎晩毎晩、貢ぎ物もってよ~』

『ほんとね~。それになにが凄いかって、今までの貢ぎ物全部売ったら、小さい城が一つ建つんじゃないかってことよ』

『おいおい、まじかよ。凰間ってのはそんなに儲かってんのか?』

『そりゃ、あの箕雲の国に仕えてるんだし、貧乏ではないんじゃない?』

『じゃああれか、鴇尾は玉の輿ってやつか!』


 そんな会話をする二匹を尻目に、鴇尾は手鏡に夢中だ。せっせと鏡を磨くその姿は、ほんのり上気する頬と相俟って、この世のものとは思えぬ程愛らしい。きっとこの場に夜飛や玉緒がいれば、可愛い可愛いと撫で繰り回しているだろう。


 そんな玉緒と言えば、最近は栄次に付きっきりである。またこの辺りで、夜飛の情報探る阿山の忍の動きが活発なのだ。

 まったく阿山の奴もしつこいが、このまま夜飛に気を向けてくれていた方が、栄次の事を考えると良いのかもしれない。

 しかし、だからと言ってこの辺りをずっと忍にウロチョロされていては、栄次が見つかってしまう可能性も増え、何とも難しい所だ。


 そもそも、鴇尾は栄次のいつまでも隠し通せるとは思っていない。もし阿山が本気で栄次の捜索を始めたら、鴇尾の力では時間稼ぎがやっとだ。箕雲の国に仕える夜飛を頼るか、と考えた事もあるのだが、いかんせん本当に信頼できる人物かわからない為諦めた。鴇尾だけなら頼っていたかもしれないが、栄次を道連れにはできない。だが他に何か打開策があるのか、と言われても、さっぱりお手上げなのである。 


 なぜ生まれ変わった時にチートな能力を授けてくれなかったのだ、と愚痴る。しかし世間的には動物と話せる異能の方がよっぽど稀少で、その力があるだけかなり優遇されてるような物なのだが、そこで感謝の念を抱かないのが鴇尾である。


『でもよ、今日から奴は来ないんだっけか?』


 思考に耽っていた鴇尾は、ブチのその言葉に頭を切り替える。そういえば、昨日の夜にそんな事を言っていた気がする。


「何か、どっか行くって」

『何か、じゃなくて、諜報!どっかじゃなくて、南の方!南の方に諜報に行くから、一週間ほど顔をだせないって言ってたでしょ!また話を聞いてなかったのね!』


 クロがプリプリと怒っているが、逆に何故そんなに詳しいのか疑問である。


『あのね、いちゃいちゃしてて忘れてるかもしれないけど、私達もちゃんと見張ってるんだからね!』


 ぽんっ、と思わず手を打つ。なるほどそうか、しかし聞き捨てならない台詞があるぞ……いちゃいちゃとはなんぞ。


『あのな、無自覚かもしれないが、お前ら十分いちゃいちゃしてるぞ』


 呆れた顔を向けるブチに、目をぱちくりと瞬かせる。いつそんな事していたっけか、と頭を捻っていると、二匹が顔を見合わせやれやれと肩をすくめた。二匹のその態度にむっとして、鴇尾はくるりと背を向け不貞腐れる。


『まぁまぁ鴇尾、拗ねないでちょうだい?今日は久しぶりに一緒にねましょうよ!』


 主に嫉妬深い誰かのせいで、最近夜は近くに寄れなかったクロが、上機嫌に提案する。その魅力的な提案に、鴇尾もたちまち機嫌を直した。一緒に寝たのなんてずいぶん前、むしろ昼間このように近くで会話するのさえ、久しぶりなのだ。

 例の獣避けを、毎度毎度訪れる度に撒いている様子の夜飛だが、数日間鴇尾の元へ来れない為、渋々撒くのを止めたらしい。なんでも、自分の居ない間は代わりに護衛する事を許可する、だそうだ。

 偉そうに宣うその男に、許可するもなにも、夜飛に護衛された事などないのだが。そう思いつつも、下手に口答えするのは藪蛇である。


『おー!久しぶりに全員で丸まって寝るか!この毛皮気持ちいいんだよな~』  


 ゴロンゴロンと毛皮の上で転がる小さな体を押しやり、鴇尾も横になる。


『なんだよっ!もっとそっちいけー!』

「や、ここ私の部屋」

『にゃんだとぅーー!』


 毛を逆立てて怒り始めたブチに、ふと小さく笑った。こんな他愛も無いやり取りも久しぶりである。今日の夜は久々に動物達と遊ぼうか、と少し楽しく思いながら、心地よい微睡みに身を任せた。






「まっこと!あなた様には感謝しておるのです!あのっ、女に興味が無かった長に、よぉぉぉやくっ好いた方ができたとは……。いや実際、里の相談役達も長のあまりの女っ気無さに、これは優秀な血が途絶えるのでは、と気を揉んでおったのです。過去には、何とかその血を残そうと全国から見目美しい娘を浚って来て、代わる代わるあてがったみたり、手練手管に長けた里の女達をけしかけたりしたのですが、どれも失敗に終わり……我々はもう諦めるしかないと思っておりました……。しかし、そんな時です!あなた様が現れた!」


 うぉぉぉっ! と男泣きする目の前の男に、鴇尾はドン引きである。


「これは是非とも感謝をお伝えしたいとっ、長の居ぬ間に馳せ参じた次第でござる!」


 あぁ、なぜこんなことになっているのか。鴇尾は遥か彼方に意識を飛ばす。今日は久しぶりに動物達とふれ合おうと考えていたはずなのに、現実とはなんとも残酷である。

 おかしい、途中まではよかった筈だ、と現実逃避がてら振り返ってみる。途中までは当初の計画通り、順調に進んでいた筈なのだ。それが狂い始めたのは、さあいざ寝ようではないか! と皆で丸まった時だった。






『それにしても、川の字で寝るなんて久しぶりねぇ』

『おいおい、ちっとも川の字になんてなってねぇよ。いいとこ小だぜ』


 確かに鴇尾の両側に寝転がる二匹は小さすぎて、とても川の字には見えない。むしろ、二匹においてはただの点である。

 

 ――コンコン


『あら、三人で横になったら問答無用で川なのよっ!これだからブチは、情緒がなくて困るわぁ』

『誰が情緒がねぇって!?』


 いや、もう何でもいいから早く寝よう。何だか早く寝た方が良い気がする。


 ――ゴンゴンッ


『……あー、さっきから空耳かと思ってたんだけど……』

『……まぁなんだ、これは気のせいじゃねぇな』

「……」


 誰か嘘だと言ってくれ、天井裏ならの来客なんて厄介事の臭いしかしない。頑として反応しない鴇尾に、両側から視線が突き刺さる。


『あー、あのね鴇尾、私誰かに見られながら寝るのはちょっと……』

『そうだな、すっげぇ視線感じるし、おちおち寝れねぇよ』

「……はぁぁぁぁぁ」


 二匹の言葉に腹の底から空気を吐き出した鴇尾は、ひどくゆっくりとした動作で起き上がった。そして数秒間その体勢で固まった後、億劫そうに上を見る。


「……」


 ――ガタンッ


「これはこれは、天井裏から失礼致しますっ!拙者、凰間夜飛の右腕、凰間忍の東助と申す!」


 別に声もかけていないのに天井から顔を覗かせ、そう叫んだのは、ザ・ニンジャ! という格好をした、暑苦しそうな一人のおっさんだった。

 スチャッと効果音をさせて、目の前に立ったそのおっさんは、まじまじと鴇尾を見つめてくる。そのやけに熱い視線から、何か圧力の様なものを感じ、思わず三歩程後ろに下がる。一息じっくりと見つめていたおっさんは、満足そうに大きく頷いた後、何を思ったかいきなり頭を床に打ち付けた。


「っあなた様にお伝えしたい事があり、里一同を代表して不肖この凰間東助、山を越え野を越え、やって参りましたっ!」

『おうおう、なんだコイツやけに気合いはいってんな』


 いきなり叫び始めたおっさんに、ブチが口を挟む。


「ここに来ること、長にはお伝えしておりませぬ!知られたら腹を切る覚悟でありますが、是非ご内密にしていただきたく!御願い申し上げます!」

『あらあら、内緒なの?この人、烏さんに殺されるんじゃないかしら』


 クロの冷静な一言には鴇尾も深く同意する。夜飛に内緒で何かしようなんて、このおっさん中々勇気があるようだ。


「と、申しますのも、長はあなた様に並々ならぬ執心のご様子!先日も、無礼にもあなた様のご尊名を口にした愚かな同胞が、三日三晩飲まず食わず、逆さ釣りの罰を受けました故、この事が知れたら……お怒りは必須!」

『おい、こいつ泣いてんだけど』


 うげぇっと仰け反って嫌そうに言うブチの頭上から、おっさんの涙は降りかかる。


「しかし!それでも成し遂げなければならぬ事が、拙者には、あるっ!ズズズッ」

『……それに鼻水も出てるみたいね』


 ピクピクと髭を震わせるクロは、ちゃっかり安全な場所に避難済みだ。


「拙者は!あなた様にっ、感謝の!感謝の言葉をぉぉおあぁぁ!」

「……」

『……』

『……』


 と、いう流れで、あの男泣きへと繋がっていくのである。この間、鴇尾は相槌どころか、身動き一つしていない。良くわからない事を叫ぶむさ苦しいおっさんに、ただただ圧倒されていたのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ