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夜に星が瞬けば、  作者: 銀タ
18/28

十八






『このっ大間抜け!よりにもよって鴇尾の見張りを、モグラに頼んでたですって!?馬鹿じゃないのっ!?』

『仕方ねぇじゃねぇかよ~!情報収集に皆出払っちまってて、手が足りなかったもんでよ~』

『だからといってモグラは無いでしょうが!』


 そうだそうだ、もっと言ってやれ! と大きく頷いている鴇尾に、今回ばかりは己に非を自覚しているのか、ブチが肩を落として謝ってくる。


『すまなかった鴇尾、次からは気を付ける』

『まったくよ!鴇尾に何も無かったからいいものを、何かあったらどうするの!』


 クロに怒鳴られ耳をションボリ倒す姿は哀れだが、鴇尾とてさらさら許すつもりはない。ぶっちゃけ本当は、かなり怖かったのだ。あまりの緊張状態に窮鼠猫を噛むを実践したのだが、内心いつ殺されるかとビクビクしていた。


『でもよー、真面目な話、あの烏面に忍び込まれたら、打つ手がねぇぜ?相手は凰間の頭領だ、俺たちが敵う相手じゃねぇしよ……』


 それを言われると正論すぎて、返す言葉が見つからない。確かにあの男にかかれば、動物達など相手になら無いだろう。


『別に鴇尾を殺そうとしたわけじゃないんだろ?もうこれは開き直って、普通に対応すりゃいいんじゃねぇの?』


 馬鹿を言え、対応するのは誰だと思ってるんだお前じゃないんだぞ、と睨み付ける。クロも鴇尾に同調し、ブチを睨んだ。


『そうよ!たまたま殺されなかっただけで、次はどうだかわからないじゃない!実際、鴇尾は首を噛まれて怪我してるんだからっ!』

『う、そう言われてもな……じゃあ今晩から、金銀兄弟と一緒に寝ればいいじゃねぇか』

『……そうね、それなら少しは威嚇になるかもしれないし……それより鴇尾、首は栄次に治して貰わなくてもいいの?』


 いや鴇尾も最初は治してもらおうと思っていたのだが、朝起きてから鏡で確認してみると、到底人様に見せられるような傷ではない。えぐい状態という訳ではなく、主に鴇尾の羞恥心の問題だ。幸いな事に血は止まっているので、自然治癒に任せるのみだ。


『まったく、あの烏のせいで鴇尾が傷だらけじゃない!今度来たら噛みついてやるんだからっ!』


 そう言って歯を剥くクロを見て、あの時噛みついた手首の太さと、口に広がる血の味を思いだし、鴇尾は密かに体を震わせた。






 もう来ないで欲しい、という鴇尾の願いも虚しく、目の前にはあの男が佇んでいる。いつのまに入り込んだのやら、仄かな月明かりに照らされて、黒い烏面が不気味に光る。

 万年ぐーたらしている鴇尾が、不意の来客に素早く影に隠れるなんて芸当ができる筈もなく、まあ夜だしバレやしないだろう、と変に開き直った鴇尾は、ちょこんと毛皮の上に鎮座する。その両側には、低く唸り声をあげる二匹の狼が控えていた。灰色の狼たちの首元には、其々襟巻きの様に金と銀の毛が混じっている。


「なんだ、今日は番犬付きか?」


 からかうように言った男に、金銀兄弟が唸りを大きくする。どうやら犬と言われた事が、誇り高い狼の矜持を傷つけたらしい。

 

「せっかくの逢瀬なのに番犬付きとは、つれないな」


 誰と誰が逢瀬だよ、と内心突っ込みを入れながら、呆れた顔を向ける。そして殺気立つ金さんの、金色の首元を宥めるように優しく撫でた。


「なぁ猫、俺を妬かせたいのか?そんな犬っころを撫でて……」


 意味不明な事を言いながら、鴇尾に向かって、ゆっくりと近付いてきた。そんな男に向かって、狼達が唸りながら姿勢を低くする。部屋の空気が最高潮に張り詰めた、次の瞬間だった。


――キャンキャンッ


 空気がビリリと震え、突如二匹の下に現れた黒い穴。その穴へ、ずるずると吸い込まれていく狼達。その異様な光景に、鴇尾は息を止めて後ずさった。


「なあ犬っころ、誰のもんに触ってる。殺されたいのか」


 すでに首辺りまで呑み込まれた狼達に、男が笑いながら話しかける。必死にもがく狼達は、涎を垂らしながらも男に牙を剥いた。


「元気が良い事だな。どうせ抜けられんだろうが」

「……やっ!」


 今まで恐怖のあまり固まっていた鴇尾が、慌ててその穴に駆け寄る。そして溺れるように喘ぐ二匹を、引っ張り上げようとした時だった。

 フワリと体が浮き上がり、手が宙を掻く。突然の事に驚いて振り返ると、男が鴇尾の腹に腕を回し、片手一本で抱き上げていた。


「危ないぞ、猫。死にたいのか?」


 ニヤニヤと口を歪ませる男の腕に爪を立て、抜け出そうと必死で足掻く。早くしなければ二匹が完璧に飲み込まれてしまう。焦って唇を噛む鴇尾を見ながら、男は愉快そうに笑った。


「ははっ、なぁ猫。俺の名前を呼んだら、あいつらを助けてやっても良いぞ?」

「……っ!?」


 その言葉に驚いて、思わず男の顔を凝視する。しかし次の瞬間には、躊躇うこと無く頷いた。目の前で二匹の命が失われるのは、到底耐えられなかった。


「いい子だ。……俺の名は夜飛(やと)。凰間夜飛、逢魔が時の薄闇に蠢く、忍達の親玉だ」

「……ゃと、夜飛!あの子達を助けて!」

「あぁ、可愛い声だな」

「早くっ」


 腹に巻きたく太い腕を腹立ち紛れに叩く。二匹はすでに穴に呑まれて、見えなくなっていた。


「仕方ない、可愛いお前の頼みだ」


 そういった夜飛は左手を前に出し、ふっと持ち上げた。


――ドサッドサッ


 先程穴に飲み込まれた狼達が、空中からいきなり現れ、床に叩きつけられる。二匹の無事を確認しようと、二匹に駆け寄る鴇尾の後ろから、声がかかった。


「ああ、そいつらに触るなよ。死なせたく無かったらな」


 何か不穏な気配を察知し、触れそうになっていた手を慌てて引っ込める。死なせたく無かったら触れるな、とはどういうことだ。もしや二匹は危ない状態なのでは、と鴇尾の胸に不安が過る。


「はやくこっちに戻ってこい」


 手招きする男を睨み付け、渋々二匹から距離をとる。だからといって、素直に夜飛の方へは行かないが。

 なんて、そんな些細な抵抗を見せていた鴇尾だったが、ふと体に何かが巻き付く感触がした、と思ったら直後体が宙に浮き上がり、気がつけば夜飛の目の前である。 

 一体これはどういう事、と目を見張るのを、夜飛が小さく笑いながら抱き寄せる。


「驚いたか?俺は闇の異能者だからな」


 そう言った男の背後には、黒い影がうぞうぞと蠢いている。そのあまりのおぞましさに、鴇尾はぶるりと震えた。


「ふふっ怖がるなよ猫、俺はお前を傷つけない。それよりも、いい加減名前を教えろ」


 な? と首を傾げた男にツーンと顔を背けてやる。誰が教えるものか、と口を閉じていたが、黒い影が床に倒れる狼達に忍び寄るのを見つけ、慌てて男を振り返った。

 わかってるだろ、とでも言いたげに口許を歪め、首を傾げてくる男に舌打ちがもれそうになる。


「……ときお。私の名は鴇尾」

「鴇尾か。ああ、やっと名前が呼べる」


 嬉しそうに笑う夜飛に反し、鴇尾はひどく不服そうだ。しかし、そんな態度を気にする事なく、夜飛は鴇尾にすりついてくる。


「なぁ鴇尾、今度からは他の奴は来させるなよ?今日みたいになりたくないだろ?」


 なんだそれは脅しなのか、そしてまた来るつもりなのかコイツは。頭を過った考えに、目をすがめる。


「あまり俺を妬かせるな。また明日来る、いい子にしてろ」


 話は勝手に進められ、鴇尾は口を挟む隙さえ与えられない。気がつけばいつのまにか夜飛の姿はなく、ついでに狼達の姿も無かった。

 一人ポツンと残された鴇尾は、よくわからない自身の状況に何故か怒りがこみ上げてきて、ダンダンと大きな音をさせて地団駄を踏んだのだった。






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