3話 約束
俺が孤児院に来てしばらく経ったが、俺にできた友達は未だスティア一人だった。
俺のことを避ける人はまあまあ多いのだ。
もともと無愛想ではあるし、口下手な上に目つきが悪いがために、怖がられるのだ。俺の目は珍しい金色だった。それもあって怖い。そう言われた。
少し悲しくて、髪で目を隠すようになった。さらに怖いと言われた。
スティアは気にすることはないと言うけれど、それは無理な話だ。
そして、三年経って、未だ友達は一人だった。
「おはよう、ディオ君。どう? 生活には慣れた?」
建物の色と同じ白いワンピースに緑のエプロン、白のボブに緑色の目。そんな孤児院のメリー先生。何かと気にかけてくれて、唯一普通に話せる人。
「おはようございます。はい、まあ……」
「そう、ならよかったわ」
どこか嬉しそうな様子で歩いていく。そのたびに白い髪がふわふわと揺れる。そして、他の子達にも声をかけにいく。
孤児院にある本でも読んで暇を潰そうかと思ったが、まだ八歳で、孤児院育ちで満足な教育も受けていないものだから文字が読めない。何もすることがなく、ただぼんやりと過ごしていた。ときにはスティアも一緒だが、スティアには他にも友達がいたのでいつもというわけじゃなかったのだ。
いつだっただろうか。裏でイジメがあったことに気がついた。
そして、俺はその対象がスティアなのに気がついた。スティアは唯一の俺の友達だった。でも、こんなことは初めてだ。どうすればいいかわからなくて、時はただただ過ぎていた。
その日、まだ朝のうちから俺はいつものように孤児院の庭を散歩していた。そよそよと吹く風は気持ちが良く、ちょうどいい木陰で休もうとふらふらしていると、スティアがいるのを見つけた。声をかけようと思ったところで、足が止まる。 スティアはしゃがみこんで俯いて、肩を震わせていた。泣いているのだ。慌てて足を動かす。 ただ、近くまできたところでなんと声をかけるべきかがわからなくなってまた足が止まる。 何度かそれを繰り返していると、スティアの方が俺に気づく。「ディオくん……?」
「な、泣いてたけど、どうしたの?」
「ええっ、いやご飯が……無くって」
「ご飯?」
「私の分だけ、無くなってて……」
ご飯は1日2食。4、5人で過ごす部屋に人数分もらえる。先生達が確認して置いていくのに無いなんておかしい。
「先生には聞いた?」
「うん、聞きに行ったら同じ部屋の子達が一緒に来て、「さっき食べてたじゃない」って言われて……」
「でも、食べてないんだ?」
「うん、ひと口も……」
嫌がらせをされてる。先生達もなんでそんなのに気づかないんだろう。
「毎日1回はこれがあるから……空の食器まであるから先生達も信じてくれなくて……。昨日の夜から食べてないから……も、もう死んじゃうよぉ」
そこで自分がさっき残したパンを持っていることに気づいた。
「残り物のパンなら少しあるから……」
「ほんとっ!?」
光の消えかけていた目が一瞬できらきらと輝きだした。まるで食べることに命をかけてるかのようだった。希望を見つけたかのような目の輝きよう。俺は1日食べなくても大丈夫だから、なんでそこまで目を輝かせるかわからない。
「はぁ〜……おいしい!」
乾燥してパサパサの何もつけてないパンひと切れでここまで幸せそうな顔をするスティア。おもしろいなぁと思う。
「ふぅ……おいしかった、ありがとう! えーと……」「な、何がだよ…」
「ディオくんは私の命の恩人だよ! ありがとう……」
「別に…そんな大袈裟なことじゃないだろ……で、でも。あとでスティアの同じ部屋の子達には話しに行くから」「なんで?」 スティアが首を傾げる。「なんでって……普通に嫌がらせされてるのは放っておけないだろ」「……でも」「でもじゃない。なんかあっても俺がいるから」「ほんと?」「うん、ほんと」 俺の言葉にスティアは嬉しそうに笑って、小指を差し出してくる。「じゃ、じゃあ約束! ずっとお友達でいてね! ずっと私と遊んでね!」「……そういうことじゃ、ないけど……いいよ。約束」
「約束!」
そのあと、スティアへのイジメは無くなり、スティアの天然も少し収まった。スティアのおかげで俺も友達は沢山できて……。とはいかなかった。相変わらず、俺はだいぶ怖がられていた。