鬼の終焉
~鬼の終焉~
モニターに映っていた赤鬼の反応が消えてから一時間。最初は生存者が動き回っていた事から首輪の故障だと思っていたが、まだ機能しているカメラには赤鬼の姿はなく、生存者二名がさほど動きを見せない事から赤鬼はどうやら死んだようだ。
「あ~あ、また新しい子作らなきゃな」
この鬼ごっこの黒幕、柳薫は背もたれに身を預けて背の背伸びをする。
「さて、楽しい楽しい鬼ごっこも終了だね」
スイッチを押し、マイクに向かって宣言する。
「は~い、鬼ごっこ終~了~。さて、まずは生き残った二名様おめでとう! 見事生還した二人にはとびっきりの商品を上げちゃおうかな。まぁ、まずはスタート地点に戻ってほしいから音のする方に歩いてきてね」
スイッチから手を離し、椅子から立ち上がった薫はかけてあった白衣を羽織って薬品や注射器を忍ばせた。
スタート地点に着いた薫は周りを見渡す。まだ誰も来ていないのかと思っていると、肩から布を垂らし、見えないほど包帯で巻かれた腕をぶら下げる悠馬の姿を見つける。
「やっほー! 元気? 元気じゃない? どっちでもいいや。とにかく生還おめでとう! まだ一人来ていないみたいだけど、まずは君に商品を上げようかな」
「その前に聞きたい事がある」
低い声で話しかける悠馬に対し、調子を崩さずににっこりと笑みを浮かべる薫。
「うんうん。何でも聞いて」
「これはあんた一人でやったのか?」
「そんなわけないじゃ~ん。一人でどうやってこんな人数運ぶの?」
両手の平を天に向けやれやれと言った仕草を見せる。
「あの赤鬼を作ったのはあんたか?」
「うんそうだよ。一人で作ったんだ。凄いでしょ」
「……なんでわざわざ娘を鬼になった父親が殺そうとしなきゃいけないんだ」
その言葉に薫の目つきが変わった。
「へー、気づいたんだ」
「答えろ! 何で浅見さんにあんな手紙を」
さっき程よりも闇を含ませた不敵な笑みを浮かばせる。
「何でって……面白いからに決まってんじゃん」
薫の正体。薄っぺらな皮がはがれていく。
「元々は兵器として赤鬼を開発したの。それで実験場所がここ。普通にやってても退屈だからこうして鬼ごっこをさせてるの。狂気的な場面は凄く楽しいけど、そこに複雑な関係が加わればもっと面白くなる。だからあの子を連れて来た。ホント、映像で見られなかったのは残念。赤鬼が殆どカメラ壊しちゃうから」
「あんた、人をなんだと思ってるんだ!」
「私以外はおもちゃ。それ以外何でもない。そして、貴方もそう」
「赤鬼は鬼なんかじゃない。本当の鬼はあんただ!」
「確かに、無邪〝鬼〟って鬼を飼ってるのかもね」
白衣から注射器を取り出そうとすると悠馬はすぐさま薫に抱きつく。
「ありゃ? もしかして興奮しちゃった?」
引き剥がそうとするが、腕ごとガッチリと抱きしめられて動けない。
「ああ、確かに興奮してるのかもな」
ニッと笑いながらも目には憤怒の炎が灯っている。
「あんたを殺せば全部終わるからな!」
右腕を横に勢い良く振ると、肘から下が悠馬から離れて気にぶつかる。その衝撃で巻かれていた包帯がはらりと解け、中からはのっぺらぼうの人形が現れた。二人を見つめると規則正しく手を鳴らし始める人形。
「これでいずれ眠ってる赤鬼が来る。そうすればあんたは終わりだ」
嫌な汗をかきながらも動揺を必死に隠す薫。
「ふーん。でも、それだと君も死んじゃうでしょ? 後先考えなよ。今この手を離してくれたらちゃんと家に帰らせてあげるからさ」
だが悠馬は頑なに手を離さない。むしろ強める一方。
「ちょ、ちょっと」
流石に焦りを感じ始め、声を荒げ始めていく。
「俺は死ぬ覚悟だ。どうせ俺も赤鬼にするつもりだったんだろ? なら、俺は浅見さんのためにここで死を選ぶ!」
「クソが! さっさと離せ! 死にぞこない! 何おもちゃが持ち主に歯向かってんだよ! さっさと死ね!」
気性を荒くし、殴るけるをするが緩まない悠馬の拘束。そして響き渡る赤鬼の咆哮。
薫の後方から赤鬼が走ってきているのが分かるとより一層激しさを増す。
「お願いだから離して! 私は死にたくない! 死にたくない!」
「あんたはその言葉を何度聞いた」
腕を振り上げた赤鬼。
「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「グアアアアァァァァァァ!!」
鬼の悲鳴が島中に響き渡った。
数日後、信号をキャッチした海上保安庁が鬼ヶ島へ上陸する事になる。
酷い惨状に吐き気を催しながらも必死の捜索で生存者を発見し、保護。
施設の研究所からある組織と密接に関わる機密書類が次々と見つかった事でその組織は壊滅的な被害を受ける事になった。