7話 雛とマシロの一日①
前回までのあらすじ
シロウの能力を自分に取り入れる事が出来るようになった雛。
段々と人間離れしていくことに頭を悩ませる。
休日の昼下がり、私は現在、自分の部屋の窓から外を眺めている。遠くの景色を見る事で心を落ち着かせて、考え事をまとめるためだ。先日、動物の言葉が分かるようになった私だが、一体自分とは何なのだろう。しかし、いくら考えても答えは出ない。考え事を変えてみた。
(どの動物とまで話しが出来るんだろう?)
そもそも犬と猫って言葉は同じなのだろうか?
何かこう、ニュアンス的な感じで通じるのだろうか?
すると目の前にスズメが降りてきた。私は試してみる事にする。
『 魂 の 循 環 』
『 動物語 インストール 』
シロウは現在お散歩中でいないので、実際動物語が理解できるようになっているかは分からないが、まぁ成功しているだろう。
私はスズメに話しかけた。
「スズメさんこんにちは、えーっと、いいお天気ね」
スズメは何も答えない。そのうちパタパタと飛んで行ってしまう。
すると突然声が聞こえた。
「フフ、小鳥に話しかけるなんて、メルヘンね」
驚き周りを見渡すと、木の枝にマシロが座っていた。
「 見 ら れ た ! 」
まるで雷に打たれたかのような衝撃を受け、硬直する私。
「ヒナ。あたなが人間の歳で、まだ少女なのはわかるわ。けど、いつかは必ず大人になる。その準備を少しずづ進めるべきじゃないかしら? 手始めにその小鳥に話しかける癖を治してみてはどう? そもそも人間というのは……」
クドクドクドクドクドクドクドクドクドクド……
あぁ、何で私、厨二病の猫に人生を説かれているんだろう……
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「それはそうとヒナ、今日はあなたにお願いがあって来たのだけれど」
マシロが木の枝からこちらの屋根に飛び移って来る。
雷に打たれ、麻痺状態だった私も我に返った。
「私に?シロウじゃなくて?」
「えぇそうよ。少し散歩に付き合ってくれないかしら?」
「……言っとくけど、外では話しかけたりしないでよ? 誰かに見られたら私、痛い子だし」
私の心配をよそに、マシロは軽く返してくる。
「安心して。誰もいない時に話しかけるわ。それに、スズメさんに話しかけている時点で十分痛い子よ」
「違っ! あれはどこまで言葉が通じるか実験してたの! いつも話しかけてるわけないでしょう!」
「あら、そうだったの。まあ何でもいいわ。日が沈む前に帰れる様にしましょう。ハデスの領域になる前にね」
マシロは得意げに言い放つ……
「いや、あんたのセリフの方が痛いんだけど……」
私は渋々マシロと外に出た。魂の事も、自分の事も、これ以上考えても分かりそうもないのでとりあえず気分転換に散歩を楽しむ事にした。
周りに誰もいない事を確認してからマシロに話しかける。
「どこに行くつもりなの?」
「一度私の家に寄っていいかしら?荷物を取りたいの」
猫のクセに荷物を持って散歩にいくのだろうか。いや、荷物を持たせるために私を呼んだのか。疑問に思いながらもついて行くと、マシロは垣根の隙間を通って一軒家の庭に入っていく。
「ここがマシロの家?」
「いいえ。ただの近道よ。さぁヒナもくぐってきて」
「通れるわけ無いでしょう! ちゃんと道なりに案内してよ!」
「そう? 人間は不便ねぇ」
段々と不安になってくる私をよそに、マシロは歩きだす。何度か私の通れそうにない道を進もうとしては呼び止める行為を繰り返し、ようやくマシロの家に到着する。
「着いたわ。あの門の向こうよ」
見ると大きな門がそびえ立っており、その奥にはやたらでかい屋敷が見え隠れしている。ここから見えるだけでも相当な広さだ。そういえばマシロはでかい家に住んでいるとシロウも言っていた気がする。
「ちょ、ちょっと待ってマシロ!」
トコトコ歩くマシロを持ち上げ、私は物陰に隠れる。
門の前には見回り中の男達がウロウロしており、こちら異常なし、とか言っている。
え? 何? この屋敷には何かが攻めて来るの?
「ヒナ? 早く入るわよ?」
「いや、あのねマシロ。人間には不法侵入っていう罪があって、人の家には勝手に入っちゃダメなのよ? 私なんか速攻で取り押さえられるから」
「大丈夫よ。私に招かれたといえば通してもらえるわ」
「いやいや、冗談はその厨二病だけにしてよ。そんな事言っても誰も信じてくれないから!」
「では、私とヒナが意思疎通できるところを見せれば信じてもらえるのではなくて?」
「そうかもしれないけど、それはそれで面倒くさい事態になるから却下よ!」
結局マシロ一人で取りに行かせる事にした。
マシロの姿を見ると、見回りの男達が騒めき立つ。
「あ、マシロ様!お帰りなさいませ!」
門の前で見張りをしていた男がインターホンを使って内部と連絡を取り合っている。
「マシロ様の帰宅! 門到達まであと8秒!」
ゴゴゴゴと門が開く。マシロが中に入る直前に真っ赤な絨毯がコロコロと転がってきてマシロの足元に届いた。男達は、間に合った! という感じで額の汗をぬぐっている。何なんだこの家……
5分くらいでマシロは出てきた。口には何かを銜えている。そして男達がまた騒めき立つ。片付けかけた絨毯をまたコロコロ転がし、門までの道を作った。
大変だなぁ……
「マシロ様、またお出かけですか? 俺が護衛も兼ねて、荷物をお持ちしますよ。さぁ!」
一人の男が手を差し出す。しかしマシロはその手をペシッと尻尾で払いのけた。
その瞬間……
「オラァ新入り! 何マシロ様の機嫌を損ねとるんじゃあ!」
「教育し直しちゃるわ! こっちこんかい!」
「指出せやゴルァ!」
無常にもどこかへ引きずられて行く。
マシロは気にする様子もなく、私の所まで歩いてきた。
「さあ、行きましょう」
「あの、私もマシロ様って呼んだ方がいいかしら?」
私は恐怖のため、そう聞かざる得なかった……