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5話 真実の一歩

「シロウ、ちゃんとお話ししましょう!」


「散らかったパンツがなくなってるぞ! その事についてか?」


「パンツは私が片付けたのよ!」


 あの後、救急車に運ばれて検査を受けたが、私の脈拍が少し低い事以外は特に異常はなかった。そして自分の部屋に戻り、シロウを人間にして問い詰めるところである。


「シロウ、あなたあの事故で……その、死んでたのよ?」


 あまり口に出したくはないが、事が事だけにちゃんと追及したい。


「シロウ、どういう事だかわかる?」


「わかんない」


 予想していた答えに頭を抱える。


「うぅ~、なら質問を変えます。あの事故の記憶を順番に説明して!」


「ん~と、まず草むらで寝てたら、ヒナの声が聞こえたんだ。だから迎えに来たのかと思ってヒナを見たらなんか嫌な予感がして、背筋がゾクゾクってなったんだ」


 動物の感かな?


「だからヒナのところに走っていったんだけど、車が来てるのにヒナが飛び出したんだ。だから俺、全力でヒナに体当たりしたんだぞ」


「シロウ、あんたって子は……くすんっ」


「そしたら世界がグルグルーってなって、気が付いたらヒナに抱っこされてた」


 話し終わった事を表すようにシロウが口を閉ざす。


「……それだけ? それじゃなんの手がかりも……いや、待って、もしかすると……」


 あれ? もしかして私、とんでもない思い違いをしてた?

 一つの仮説に嫌な汗がどっと出てくる。


「どうしたヒナ? なんかわかったのか?」


 待てよ待てよ、冷静に思い出して……

 私は過去を思い返そうとする。が……


「なぁなぁヒナ~」


 シロウがポンポンと叩いてきたり、頭に顎を乗っけてきたり、腕に甘噛みをしてくる。


「ええーい、今考えてるのよー!」


 腕をブンブンと振り回してシロウを寄せ付けない動きをする。


「俺にも教えてほしいぞ~」


「そ、そうね、ごめんねシロウ。シロウは初めて人間になる前に、私とどんな事をしゃべったか覚えてる?」


「言葉が分かるようになったのは人間になってからだから、その前はヒナが何を言ってたかわからないぞ?」


「そ、そう。確かシロウが人間になったあの時、私はシロウに『友達になりたい』みたいな事を言ったと思うの。それで今回の事故の時は、シロウに目を開けてって言ったの」


「つまりヒナは、何でも願いを叶えられる魔法使いなのか?」


「い、いや、そんなはずは……」


 私は今までシロウの人間化は、シロウ自身にあると思っていた。しかし思い返すと、私の願った事が現実になっている。

――もしかして、原因は私にある……?


「いや、ちょっと待って、事故の時正確には、『私の命をあげるから』目を覚ましてって……」


「ヒナ、俺に命くれたのか? そしたらヒナはどうなるんだ?」


 その瞬間、急激な目まいに襲われ私は床に手を付いた。

 何これ? どんどん力が抜けていく。

 ついに体を支えられず、完全に床に倒れこむ。


「ヒナ!? どうした!? ヒナー!」


 さすがのシロウも慌てている。

 あぁ、やっぱり私、シロウに命をあげたんだ。

 どういう原理かよくわからないけど、だけど、そこまでしてシロウを助けたかった気持ちは嘘じゃない。きっとこれでよかったんだ。


「シロウ、今まで怒鳴ってばっかりでごめんね……」


「ヒナ! ヒナ~!」


 シロウは泣きそうな顔で私の名前を呼び続けている。


「ほんとは私、シロウにすごく感謝してたの。今までありがとう、シロウ……」


 もうまぶたが重い。もう目を開けていられない。目を閉じると闇の中に沈んでいく感覚になる。まだシロウが必死に呼んでいるのが聞こえる。

 人は死ぬ時、聴覚が最後まで残ると聞いたことがあった。あれは本当の事だったんだなと、私は沈む意識の中で思っていた……


「こんなの嫌だ! これがヒナの命だって言うなら、俺いらないぞ! ヒナの中に……戻れ~!」


 むくり!


「あ、あれ? 私、生きてる?」


 私は意識が戻り体を起こす。

 代わりにシロウが倒れていた。


「よかった、ヒナの魂、返せたぞ……」


「魂?」


 胸が暖かい。意識を集中すると体内で炎のような物がユラユラしているのがわかった。


「ヒナには、生きてほしいから、よかった、ぞ。ガクッ」


「いやー!」


 むくり!

 また私が倒れこむ。


「シロウ、これでいいの、私の分まで、生き、て。ガクッ」


「だめー!」


 むくり!


「ヒナ、これでお別れだ、ぞ。ガクッ」


「いやー!」


 むくり!


「シロウ、さよ、なら。ガクッ」


「だめー!」


 むくり! ガクッ! むくり! ガクッ! むくり……

 何度このやり取りを繰り返しただろうか。


「はぁ、はぁ、シロウ、いい加減に受け取りなさい!」


「ヒナこそ、送られたら速攻送り返すぞ!」


「もう~! って、あれ?今はどっちが魂持ってるんだっけ?」


「ヒナだろ?速攻送ってるから……あれ?」


 もう一度体の中に意識を集中させると、川の流れのようなせせらぎを感じる。


「おぉー! 本で読んだのと同じだぞ! ぐるぐる回ってると、溶けてバターになるんだ」


 何そのちびくろさんぼ……


「じゃあ、魂が溶けてこの小川みたいになって二人の間で循環してるって事かしら?」


「これなら二人で生きられるんじゃないか? やったなヒナ~!」


 確かにやったけど、根本的になぜこんな事が出来るのか全く解明されてないんだけど……

 その時だった。


「ついに回りだしたのね。運命という名の歯車が」


 窓の方で声が聞こえた。


「誰!? 意味あり気なセリフでカッコつけてるのは!」


 窓を見ると、一匹の猫が座っていた。


「フフフ、ついに審判の時が来たわ」


「 猫 が し ゃ べ っ た !!」


 あまりの衝撃で、今一度ぶっ飛びそうになる意識を必死に保とうとする。

 こうして、どこにでもいる普通の女子高生の私は、どこにもいない女子高生になりつつある不安に戸惑いを隠せなかった。

四種類の比喩(直喩・隠喩・換喩・提喩)をうまく使い分け、

文章に深みを出す。

これが曲者です。……難しすぎる。


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