4話 突然の別れ
さて、どうしよう。散らばったパンツを片付け終わってもシロウは帰ってこなかった。真っ先に思い浮かぶ展開はこう。
「抱っこさせてくれるって言ったのに! イヌちゃんの嘘つき! 絶交よ!」
「約束を守れない人ってサイテー……」
せっかく出来た友達が去っていく未来。
それだけはなんとかしないと!
あとはそう、未来ちゃんにもみくちゃにされている時の人間化厳禁! もし人間になれる事がバレたら
「妖怪! 妖怪コンビなの!?」
「私、雛ちゃんの事がわからないの。少し距離を置かせてもらうね……」
結局友達が去っていく未来。
よし探しに行こう!今すぐ探しに行こう!
私はシロウを探しに家を飛び出した。
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いろんな場所を探した。シロウと初めて会った場所。シロウにごはんを買ってあげたフード屋さん。いつも遊んでいる空き地。他に心当たりがなかったので、あちこち歩いた。それでもシロウは見つからなかった。
なんだか段々と不安になってくる。もうシロウは帰ってこないんじゃないかという不安。そういえばネコちゃんが言っていた。私が変われたのはシロウのおかげかもしれない、と。だから家に帰ったらまず、シロウにお礼を言うつもりだったんだ。それなのに私、怒鳴っちゃって……
そういえば最近怒ってばっかで、あんまり遊んであげてない事に気づいた。それなのにシロウは私を見ると甘えるように寄ってきて、いつも楽しそうに笑ってた。それなのに私は……
「あ、イヌちゃんだ、おーい!」
未来ちゃんとネコちゃんがこっちに向かって来る。
気づくと私は待ち合わせの公園の前にいた。
「あ、未来ちゃん……」
自分でもびっくりするくらい声は沈んでいた。
「え? 何? どうしたの? 元気ないよ?」
「ちょっと、でも、大丈夫だから……」
元気なふりをしようとしても、大きな声が出ない。
「全然大丈夫じゃないよ! どうしたの?」
ネコちゃんも心配そうに顔を覗き込む。
頭がぐちゃぐちゃになってる私は、正直に話す事にした。
「実は、シロウに大声で怒鳴っちゃって、そしたら、シロウ家から飛び出しちゃって……探したんだけど見つからなくって……未来ちゃん、ごめんね、抱っこする約束してたのに」
未来ちゃんは考える間もなく答えた。
「んじゃ、みんなで探そうよ」
「え? でも、そんな事してもらう訳には」
「ほら、ペットって驚いて飛び出すと道が分からなくなるって言うし」
「私も探すの手伝うよ。雛ちゃん詳しい特徴教えて」
なんだか心がじんわり暖かくなる気がした。
「二人とも、ありがとう! えっとね毛は茶色で、耳が垂れてて、小型で、あ、シロウって呼ぶと反応すると思う」
こうして三人で探す事になった。
しばらく回ったが、未だシロウは見つからなかった。車が一台通れ道の歩道を歩いていた時、向かい側はまだ探していない事に気づく。
――そしてそのままフラリと車道に出た時、
「イヌちゃん!!!」
悲痛な叫び声が聞こえた。それと同時にハッと気づく。普段車なんて通ってない車道を確認もしないで踏み出した事に。そしてそこに、すごいスピードで車が目の前まで迫っている事に。
ドンッ!!
車とは別の何かがぶつかってきて、私は歩道に押し戻された。
周りを見ると、電柱の下に犬が倒れている。
「シロウ……?」
駆け寄ると、その犬はやっぱりシロウだった。
血は出ていないが頭を強く打ったのか、全く動かない。
「シロウ! シロウ!!」
「救急車呼ぶね!」
未来ちゃんがすぐに携帯で電話を掛ける。
私はシロウの口に手を当てる。シロウは……息をしていなかった。
「嘘でしょ? シロウ、目を開けてよ……」
――シロウは起きない。
「こんなのってないよ……こんな……私、シロウに謝りたくて……」
胸に手を当ててみても、心臓の鼓動は感じられない。
涙が止めどなくあふれてくる。
「お礼だって言ってない……私、シロウのおかげで友達が……ねぇ、シロウ?」
――シロウは動かない。
「お願いだから目を開けて……代わりに私の命をあげるから……シロウーー!」
ぎゅっとシロウを抱きしめる。
その時、シロウの体が薄く光ったような気がした。
モゾモゾ……
腕の中でシロウが動いている。見るとシロウは目を開けてキョロキョロしていた。私と目が合うと、シロウは嬉しそうに顔を舐めてくる。
……え? 何が起こった?
「わぁー! よかったね雛ちゃん。シロウ気絶してただけだったんだね!」
ネコちゃんがパァーッと笑顔になる。
……気絶? いやいや、呼吸止まってたんですが……
未来ちゃんも私を中心に踊りだした。
周りで見守っていた通行人も歓声を上げ、惜しみない拍手を送ってくれる。
「ありがとー、ありがとー!」
ネコちゃんが拍手をくれる通行人にペコペコ頭を下げている。
シロウもその雰囲気に当てられたのか、ピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。
いやいやいや、あんた飛び跳ねてるけど、さっきまで心臓止まってたのよ?
もちろん嬉しい事は嬉しい。だが、何が起きたのか全く理解できない私は、大歓声の中、一人呆然としていた。
……や、――は二文字セットで使う。これが小説のルールだそうです。
どうでもいいように思えて、意外と読者からの評価が変わるみたいです。
……難しい。