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31話 ペット面接②

自分は猫派です!

 自己紹介はウィスから始まった。


「『俺の名前はウィス。見ての通り黒猫だ。生まれた時からこの町で野良をやってきて、数々の死線をくぐり抜けて来た。人間の支配を受けるつもりは無かったが、俺もそろそろ安定した生活を送る事も考えなきゃいけねぇ。だから立候補した。今日はよろしく頼むぜ』。と言ってるぞ」

「おぉ~、ウィスはワイルドだねぇ。私が彼の帰る安息の場所になってあげたい!」


 ノリノリでコメントする未来ちゃんの膝の上で、大きな欠伸あくびをしながらマシロが呟く。


「ウィスがワイルド? 危ない場所に自分から入っていく、ただの冒険好きのヤンチャボウズじゃない……」


 私とシロウの影響で、少しだけ人間の言葉を覚えたマシロの言葉を否定できない私は、あえてその言葉を未来ちゃんには伝えないでおく事にした。


「で、では次、隣の子にいってみましょう」

「『僕はトラ猫のトラ。僕は人間が大好きなんだ。だって、みんなすごく優しいんだもん。ミキさんもすごく優しそうで一緒に居られたら嬉しいな』。と言ってるぞ」

「はぁう~、甘えん坊さんのような性格。一日中モフモフしてあげたい!」


 未来ちゃんは体をウネウネとよじらせて身悶えている。そのうち興奮のしすぎで鼻血でも出るんじゃないかと心配になったが、取りあえず放置して話を進める。


「では最後にこの中で唯一のワンコ君、どうぞ!」

「『オイラはナツって言います。オイラの特徴は何といっても犬特有の頭の良さにあると思います。これを使ってご主人様の良きパートナーになれればいいなと思っています』。と言ってるな」

「イヌちゃん……この子、私でも使えない敬語を使ったよ!? とんでもない知性の持ち主だよ」

「いや、それって高校生としてどうなの……?」


 学校の先生や東海林しょうじ先輩には敬語使ってるじゃん……。いや、でも確かにこの子は気を抜くとタメ口になるからなぁ……

 そんな呆れる私を尻目に、未来ちゃんはさらに――


「しかもご主人様って言われちゃったよ! イヌちゃん! この子を人間にして! そしたら私の専属執事にするから!」


 などと、とんでもない事を口にしている。

 いや、無理っす。っていうか、未来ちゃんは私を何だと思ってるの!?

 私は未だテンションが上昇を続ける彼女をスルーして、プログラムを進めた。


「では次に、動物の皆さんからペットになった時の抱負ほうふを一言お願いします。んじゃさっきの順番でウィスから」

「『俺はさっきも言った通り、野良暮らしが長いせいで人間に縛られるのは苦手だ。だがそれは、言い方を変えればお互いが一定の距離を保てるという事だ。付かず離れず、そのくらいの距離の方が上手くいく事の方が多い。特に俺は「死神」と言われ、常に危険が付きまとう。主人を巻き込まないためにも、接触は最低限避け、丁度良い距離感で付き合って行こうと考えている』。との事らしいぞ」


 何だろう……。要するに「エサはもらうがそれ以外は自由にやらせてもらう」と言っているようにしか聞こえないんだけど……。大体未来ちゃんは距離を開けるどころか、ゼロ距離の関係で、時間があればモフモフしたいタイプなんじゃないかしら?

 私はチラッと未来ちゃんの様子を伺ってみる。


「カッコいい~……」


 そう言って目を輝かせていた。

 マジですか!? 未来ちゃんちょっとテンション上がり過ぎて自分を見失ってんじゃない!?


「以外にも高評価みたいですね。未来ちゃんはワイルド系とか好きだったっけか?」

「ん~、やっぱり男は船、女は港って言うしねぇ」

「……それは夫婦の間で使う言葉であって、ペットに使う言葉では無いんじゃ……。まぁいいや。んじゃ次行くよ。はいトラ!」


 私はもうなる様になれと、半ばヤケクソになりつつある。


「『僕は実を言うと、この話を辞退しようと思っていたんだ……』」

「あら? どうして?」


 意外なトラの言葉に、未来ちゃんが食いついた。


「『僕はとても弱いから……。飢えに苦しみ、寒さに震え、それでも今まで生きて来れたのは、この町の人達が優しかったからなんだ。そんな僕がミキさんのペットにっても、何もしてあげられない……何も返す事ができない。だから最初は辞退しようと思ったんだけど、それじゃダメなんだって気づいたんだ! 僕は強い自分に変わりたい! そして、ミキさんと一緒なら、それが出来る気がする』。そう言っているぞ」


 未来ちゃんを見ると、口に手を当て、感動のあまり目を潤ませていた。


「何この子……母性をくすぐられるんだけど! めっちゃ養ってあげたい!」

「おおっと、これはかなりの高評価のようですね~」


 私がてきとうに実況していると、膝の上のマシロがまたポツリと話しかけて来た。


「トラは甘い声を出して、どんな仕草をすれば人間からエサをもらえるか熟知しているわ。あの子が飢えに苦しんでいるところなんか見た事ないもの」


 そ、そうなんだ……

 でもだからと言って、ここで私が口を挟むのも何なので、全ては未来ちゃんに見極めてもらう事にした。


「では最後にナツの抱負です」

「『僕はペットと言うよりは、パートナーになる事を目指しています。どちらかが一方的に支えるのではなく、お互いに支え合い、協力して、共に歩める関係を築いていきたいです』。と言ってるぞ」

「この子凄いよ……私、誰かと関わる時にそんな風に考えた事なんて無かった!」

「それも人としてどうなの!?」


 そうして未来ちゃんは、三匹の話を聞いた事で真剣に悩み始めた。私も主観ではあるが、意見を出してみた。


「もう犬のナツに決めたら? 何か、色々と教わる事とか多そうだし」

「ん~、でもな~、私より頭良くて不釣合いな気がする。こう、高嶺の花って感じ?」

「犬に負けちゃってるの!?」


 未来ちゃんは悩み続け、うめき声だけが永遠と口から洩れている。

 しかし、ついに意を決したのか、スックと立ち上がった。


「よし! 全員ペットにしよう!」

「いやダメでしょ!!」


 私は暴走気味の友達を必死になだめる。


「この前トレーディングカードに全額使ったって言ってたじゃん! 三匹飼うなんて無理だよ!」

「ん~、でも結局外で飼うわけだし、エサだけなら大丈夫なんじゃないかな?」


 そんな会話をしていると、多少人の言葉がわかるウィスが私に歩み寄って来た。


「なぁ、今、『外で飼う』って言わなかったか?」

「うん、そうだよ、未来ちゃんちはアパートでペットは飼えないから、外で飼うの。あれ? 私説明しなかったっけ?」

「聞いてねぇよ! 外で飼うって何だよ! 意味わかんねぇぞ!」


 私の説明不足に三匹がどよめき始めた。


「ごめんごめん、言い忘れてた。朝、学校に行く前と、帰りの夕方。この二回にエサをあげるために外で落ち合うのよ」

「ちょっと待て、ってことは寝床は提供されねぇのか?」

「そうなるわね」


 それを聞いたウィスは、ぐぬぬっと悔しそうな声を出している。


「『そういう事なら俺は辞退する』。と言ってるぞ」


 シロウが慌てて通訳をする。


「あれ? ウィス止めるの?」

「『ああ、エサだけなら商店街を回れば、それなりにもらえるからな』。らしいぞ」


 すると未来ちゃんは立ち去ろうとするウィスをヒョイと抱き上げた。


「決めた! 私のペットはこの子、ウィスに決定!」

「『は? 何言ってんだ!? 俺は辞退するって言ってんのに』。と焦ってるぞ」


 ジタバタともがくウィスをしっかりと抱えて未来ちゃんは歩き出した。


「こういう時はね、先に動いた方が負けなんだよ? 私って逃げると追いかけたくなるタイプなんだよねぇ」

「あ、わかる! あと、最初は嫌がってるんだけど、段々と懐いてくる過程とかも楽しいんだよね」

「そうそう!」


 私は未来ちゃんの隣に立って歩調を合わせた。


「さぁウィス、今から体を綺麗に洗うよ。野良って汚れてるらしいから、モフモフする前に洗わないとね。大丈夫! 外で洗うけどお湯を使うから」

「おいバカやめろ! 勝手に決めんな!」


 もはやシロウは通訳を放棄したらしい。私達が歩く少し後ろを着いて来る。


「ねぇシロウ……この人間、結構変わってるね……」

「多分、ミキは特別だけどな……」


 残った二匹もウィスの様子が気になるのか、シロウとしゃべりながら着いて来ている。

 こうしてウィスは半ば強制的に未来ちゃんのペットとなった。

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