26話 イカサマ対決②
「雛ちゃん、未来ちゃんにはいつ秘密を話すつもりなの?」
ネコちゃんが私に問いかけるも、踏ん切りがつかない私は言葉を失う。
現在、学校の自分のクラスでネコちゃん、姫ちゃんと私の事で話し合っていた。放課後なので周りにクラスメートはほとんどいない。
「未来さんなら拒絶する事はないと思います。思い切って打ち明けてみてはどうでしょうか」
「そう言う姫ちゃんは、自分の家の事をいつまで隠すの?」
自分の事を棚に上げる姫ちゃんに、私は容赦なく切り返した。
「姫ちゃんの家、何かあるの?」
「あ~……その、ネコさんには未来さんと一緒に、今度説明しますね」
一時しのぎのような返事に私はため息を吐いた。
そこでようやく未来ちゃんが戻ってきた。なんだかヨロヨロとふらついている。
「お帰り。どこ行ってたの? 早く帰ろう」
ネコちゃんが促すも、未来ちゃんは私の席の後ろに座り、机に突っ伏した。
「未来さん、そこあなたの席じゃないですよ……」
「どうかしたの?」
心配になり私はそう聞いてみる。それもそのはず、未来ちゃんは死んだ魚の目をしていた。
「ハァ~、私の人生は終わった……」 未来ちゃんはそんな事を言っている。
「ねぇ、何があったの?」 と再度私が問う。
「ハァ~、言えないよ……ハァ~」
「ゾノさんや、話してごらんなさいな」 ネコちゃんが深刻にならないようくだけて話す。
「ハァ~。何でこんな事に……ハァ~」
何だかだんだんと面倒くさくなってきた。
「かまってちゃん!? ねぇ、それかまってちゃんだよね? ホントは話したいんだけど、ちょっともったいぶる事で心配してもらいたい、みたいな感じだよね!?」
「そ、そんな事ないよ……ハァ~、困ったなぁ~」
「そうですか、じゃあ皆さん帰りましょう」
姫ちゃんに賛成! と私達は歩き出す。
「あ、話す、話すから置いてかないで。お願いします」
ようやくしゃべる気になったようだ。
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「ええ~! 未来ちゃん、東海林先輩の所に行ったの!?」
「誰それ?」
「雛ちゃん知らないの!? この前転校してきた二年生の人だよ。あの人、賭けのトランプ勝負で自分に勝ったら何でもいう事を聞くって条件で、いろんな人と勝負してるみたいなの」
「しかし、今のところ一度も負けた事がないって噂です。今ではイカサマをしているんじゃないかと言われているみたいですね」
ネコちゃんと姫ちゃんが説明してくれた。私は更なる疑問を口にする。
「で、未来ちゃんは何を賭けたの?」
「……誇り、尊厳、全財産」
「えええぇぇぇ~~~~!!」
驚いた、いや、誇りと尊厳はよく分からないけど、取りあえず全財産というところに驚いた。
「何でそんな無茶な事を!?」
「女は時に、欲望を満たすために無茶をしなければならない時があるのさ……」
カッコつけているつもりなのだろうか? とにかく、何でもいう事を聞くという条件に釣られて負けたという事らしい。
「ねぇ、それってイカサマを使ったって事で無効にできないの?」
「イカサマは使ったその瞬間を押さえて証拠を出さないと、無効には出来なかったと思います。漫画を読んだ程度の知識ですが……」
姫ちゃんが自信なさ気に答える。
私はだんだんと腹が立ってきた。未来ちゃんの欲望は……まぁ置いといて、真剣勝負をする後輩にイカサマで勝とうなんて間違っている。しかもよりにもよって私の大事な友達を傷付けるなんて絶対に許せない。
「分かった。私が先輩と勝負して未来ちゃんが奪われた物、全部取り返してくる!」
「へ?」
私の唐突な決断に一同が唖然とする中、私は立ち上がって歩き出した。
「イヌちゃんカッコいい! 惚れちゃいそう」
「呑気な事言ってないで止めて下さい! このままでは……」
「そ、そうだね、今度はイヌちゃんが身ぐるみ剥がされちゃう」
焦る姫ちゃんに未来ちゃんが頷く。が、
「いえ、雛さんではなく、東海林先輩が身ぐるみ剥がされてしまいます!」
「へ?」
「未来ちゃんにはまだ言ってない事だけど、本気出した雛ちゃんはその……色々とチート持ちだから」
そんな会話が後ろから聞こえるが、そんな事はどうだっていい。今の私は、先輩をこらしめる事で頭がいっぱいだった。
(お凛ちゃん。起きてる?)
私は中にいる幽霊少女に呼びかける。
するとフワリと私の隣にお凛ちゃんが姿を見せた。
「はい、まだ眠いですけど、お姉ちゃんの感情が高ぶっておちおち寝てられないです」
お凛ちゃんは基本的に日が落ちるまで寝ている。幽霊の時間は日が落ちてからだそうだ。けれど取り憑いているせいか、私の感情が激しく変化すると起こされるそうだ。
「ごめんね。だけど絶対に負けられない戦いがあるの。協力してくれる?」
「はい! おせんべい食べながら見てたので、状況は分かってるです。お姉ちゃんのためなら何でも協力するです!」
「ありがとう!」
私はお凛ちゃんと打ち合わせをしながら二学年の教室に向かう。その後ろから三人が付いてくる。
「ねぇネコちゃん、イヌちゃんってそんなに強かったっけ? 私達とババ抜きやる時、顔に全部出ちゃっていつもビリになってなかった?」
「雛ちゃんは友達とトランプやった事ないから、嬉しくて顔に出ちゃうんじゃないかな?」
「雛さんは嘘を付くのが下手ですから。何でいつもビリになるのか分かって無くて小首をかしげる雛さん可愛いです」
なんか勝手な事を言われている気がするが、私は気にせず二年の教室を目指した。
「たのもー!!」
「雛さん!? それは道場破りです。まぁあながち間違ってませんが……」
私は東海林先輩のいるクラスのドアを勢いよく開けた。
「東海林先輩に話があって来ました!」
「ほう、僕が東海林だけど?」
一人の男子が立ち上がった。髪は短く、少し茶色に染めていて、背はそこまで高くないが整った顔をしている。どちらかと言うとイケメンの部類だ。
放課後だがクラスには他の生徒もまだ残っている。だが、私は気にせずに先輩に歩み寄った。
「先ほどここに私の友達が来たと思います。その子の賭け金を返して下さい!」
「キミの後ろにいる子だよね? だがそれは出来ない。そういうルールだったはずだよ」
「後輩にイカサマを使って傷つけて、恥ずかしくないんですか!?」
「キミは友達想いだね。だがイカサマを使ったという証拠はないよ?」
やはり素直に返してくれる気はないようだ。分かっていた事だと、私は話しを続ける。
「じゃあ私と勝負して下さい。私が勝ったら未来ちゃんの賭け金を返してもらいます」
「いいだろう、それで、君は何を賭けるんだい?」
「え……」
そうか、私も何か賭けなきゃダメなのね。考えていなかった。
「ん~、じゃあ、私が負けたら先輩の言う事を何でも聞きます」
「雛さん!!」
私が条件を提示すると、再び姫ちゃんが止めに入った。
「やっぱり一度冷静になりましょう! 私達は先輩の事を何も知りません。雛さんが絶対勝てる保証なんてないんですよ!?」
「安心して、私は絶対負けないよ」
「その慢心は負けフラグです!」
「大丈夫、フラグをフラグだと指摘すれば、それがフラグ回避に繋がるから」
「どんな理屈ですか!? って、フラグに理屈も何もありませんが……」
私達のやり取りを見て、先輩は楽しそうに微笑んでいる。そして思いついたようにこう告げた。
「よし、僕が勝ったらキミを彼女にしようかな。キミ、結構可愛いし」
その場が一瞬沈黙で包まれた。
私は自分を指さして、私の事? と確認をする。
先輩は爽やかに笑って頷いた。