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24話 真夏の恐怖の物語⑥

「あの子の霊をどうにかする作戦を考えたの。シロウ、手伝ってくれる?」

「もちろん。ヒナのためなら何でもやるぞ!」

「ありがとう。それじゃあまず、シロウがあの霊に突っ込んで、取り憑かれてきてほしいの」

「…………え?」

「いやだから、霊に突っ込んでって、わざと取り憑かれてほしいの。時間が無いんだからちゃんと聞いててよ!」

「聞こえてるよ! そんな事言われたら普通誰だって聞き返すぞ! 何でそんな事しなきゃいけないんだ!?」

「よく聞いて。悪霊っていうのは死んだ当時から時が止まっていて、こっちが何を言っても通じないらしいの。だけど私達の魂の循環を使った、メッセージの強制送信なら、魂を通じて体に直接想いを伝える事ができる。これなら霊とも会話できるかもしれない!」

「な、なるほど、確かに……」

「魂の循環? 強制送信? 雛ちゃん何を言っているの?」


 ネコちゃんが話について行けないという様子で、不安そうにこちらを見つめてくる。


「無事解決したら全部話すから。今は私達を信じて。じゃあシロウ、やるよ!」

「わ、分かった!」

「よし、行け!」

「おう!」


 立派なのは返事だけで、シロウは私の隣から動かない。


「……よし、行け!」

「よっしゃー!!」


 気を取り直して再度号令をかけた。気合を入れるかのようにシロウが叫ぶ。しかし叫ぶだけで結局シロウは動かない。


「ちょっと! 早く行きなさいよ!」

「えっと、その……心の準備をさせてくれないか?」

「アンタねぇ……何でもするとか、私を守るとか言っておいて今更なに怖気づいてんの……?」


 私はシロウの肩を後ろから両手でつかんだ。そのまま足をシロウのお尻に密着させる。


「さっさと行けー!!」


 そのままお尻を思い切り押し出してやった。


「~~~~~っ!!」


 シロウは声にならない声を上げ、つんのめりながら悪霊に向かった。

 しかし悪霊が目の前に迫ったその時、シロウは思い切り跳躍した。優に二メートルは飛び上がり、クルリと一回転して霊の頭を飛び越えた。スチャッと着地すると、そのまま隅っこまでダッシュで移動し、ガタガタと震えている。


「あ、避けた! もう仕方ないわね。シロウ、今から私が魂の循環でアンタと同じ感覚を共有するわ。それで私が堂々と霊に立ち向かっていったらアンタも勇気出しなさい!」

「よ、よせヒナ、やめとけ!」


 シロウが止めるよう叫んでいるが、私は気にせず準備をする。


  『 魂 の 循 環 』


 えっと、どうすれば同じ感覚になるのだろうか。とりあえず五感を全てインストールしてみる事にした。


 『 五感 インストール 』


 その瞬間、ゾッとする感覚に身が震えた。全身に鳥肌が立っている。

――え? 何これ…… 

 意味も分からず全身が震えていた。異様な空気に視界が揺らいでいた。

 私は悪霊の姿を見た。その瞬間に頭の中で警報が鳴り響く。

 アレを見るな! アレに近寄るな! アレから逃げろ! さもなくば殺される! そう本能が告げており、ドッと変な汗が噴き出してきた。頭の中の警報がうるさくて頭痛がする。頭痛が酷くて吐き気もする。気を抜いた瞬間に気を失ってしまいそうなほど頭が危機を察していた。

 それでも悪霊に立ち向かう姿をシロウに見せなくてはいけない。一歩、前へ踏み出そうとした。が、全く足が動かない。足が自分の物ではないように、自分の意思で動かす事ができなくなっていた。

 ズッ……と悪霊がこちらに動いた。あれだけ動かそうとして動かなかった足が勝手に一歩後ずさる。

 ズズズッ……と悪霊は一気にこちらに向かってきた。


「いにゃああああーー!!」


 頭の回路が焼き切れそうな焦燥に襲われ、変な声を上げながら全力で逃げた。本堂をぐるりと回り、シロウの元にやって来ると、シロウまでもが血相を変えて一緒に逃げ出した。


「無理無理無理無理! 絶対無理!! 何これ超怖いんだけど! シロウごめんね、簡単に行けとか言ってホントごめん!!」

「な!? な!? そうだろ、無理だろ? な!?」


 後ろから追って来る悪霊に二人で涙目になりながらグルグルと逃げ回る。


「解除解除解除! 能力解除!! アンインストール、アンインストールゥ~!!」


 ポコ! と能力が外れて感覚が普通に戻った。

――あ、取れた。能力って任意で取り外しできたんだ。知らなかった……

 冷静になった頭でスィーっとシロウのそばを離れ、私だけ追いかけっこを離脱する。


「あ! ヒナずるい!!」


 シロウが見捨てられた仔犬のような目で私を見てくる事に心を痛めながら、中央に陣取った。さてこうなると作戦を考え直さなくてはならない。


「シロウ! 作戦変更よ。役を逆にするわ。私が取り憑かれる役をするから、シロウが強制送信をして。優しくしてあげるのよ? 分かった?」


 そう呼びかけると、私の周りで追いかけっこをしていた二人が動きを止めた。悪霊がこちらに向きを変える。

 来るなら来なさい! そう覚悟を決めて霊と向かい合う。


「そんなのダメだ! ヒナにそんな役をさせる訳にいかない。ヒナは俺が守る!!」


 あの恐怖の中、ダンッ! とシロウが一歩、悪霊に踏み出した。

 すごい。シロウカッコいいよ! ……足、めっちゃ震えてるけどね。


「でもアンタこれ以上近寄れないでしょ!?」

「大丈夫!」


 そう言うとシロウは両手で耳を塞ぎ、目をぎゅっとつむった。

 なるほど、少しでも五感を塞いで外の情報を遮断する作戦のようだ。


「うおおおおぉぉぉー!!」


 シロウが吠えた。自分を鼓舞こぶするかのように。

 そして悪霊に向かって突っ込んだ。ついに、シロウは霊に接触する事に成功した。霊は消えてシロウがその場に倒れ込むと、うつ伏せに倒れたシロウの体から黒いモヤが立ち込めた。

 ゆっくりと身を起こすシロウの目は虚ろだった。その姿に私は息を呑む。

 大丈夫、ここまでは作戦通りなんだから。シロウのためにも絶対に失敗は許されない。


  『 魂 の 循 環 』


(私の声が聞こえますか? あなたの気持ちを教えてほしいの!)

 私は想いを魂に乗せた。

 私の言葉が響くように勢いよく、それでいて心に染みるように優しく。

 届け! この想い!!


 『 メッセージ 強制送信 』


 想いは魂に乗ってロウに届いた。その瞬間、ビシッ! と何か金属がきしむような音が魂に広がる。そしてシロウの体がビクンとのけ反り、虚ろだった目を見開いて驚愕していた。

(大丈夫。私にはあなたが見える。想いも伝わる。だから安心して)

 手ごたえを感じた私が、さらに想いを送った。

 バキィン! と再び音が広がる。これは鎖が引き千切れる音? 何かをからめ捕っている鎖が立ち切れている?

 そして私は魂の小川を随時み上げる。相手は強制送信なんて分かるはずない。だから私があの子の想いを探し、汲み上げる。決して見逃すわけにはいかない。

(私……生ケ贄ニ……寂……イ)

 少女の想いが私に伝わる。それだけじゃない。感情の波、かすかな記憶。それを感じ取り、私の目から勝手に涙が流れた。

 私はいたたまれずに、膝をついて放心しているシロウを抱きしめた。

(そう……辛かったね、寂しかったね。だけど私達が助けてあげるから、もう暴れなくても大丈夫だよ)

 ガシャン! 鎖が砕け散る。何となく分かった。これはこの少女を縛る負の呪縛だ。

 シロウの体から黒いモヤが止まった。


「あれ? ヒナ? うまくいったのか?」


 シロウがいつの間にか意識を取り戻していた。


「シロウ! よかった。もう大丈夫だよ。頑張ったね」


 シロウの頭を撫でてやると、シロウは気持ちよさそうにホクホク顔になる。


「二人とも凄い……完全にあの子を浄化したよ」


 ネコちゃんがよろめきながら、そばにやって来た。それと同時にフワリと目の前に少女の霊が姿を現した。シロウが少しビクつくが、先ほどの禍々しさは全く無く、うっすらと光輝いていた。


「私を止めてくれてありがとうです。二人のおかげで呪縛から解放されたです」


 何だか少し変な敬語を使う少女の霊は、魂の循環を使わずに話しかけて来た。


「あれ? 普通にしゃべれるの?」

「闇に囚われて暴走状態だった私を解放してくれた事で、私の時間が動き出したと思うです」

「雛ちゃんすごいよ! こんな事、熟練の霊能力者だって難しいはずだよ」

「いや、今回はこの子が人との触れ合いを求めていたからうまくいっただけだよ」


 私は照れながら答える。実際この子が人の温もりを求めていなかったら、こううまくはいかなかったかもしれない。


「はい、お姉ちゃんの声が聞こえた時、凄く嬉しかったです」

「じゃあ後は私に任せて。この子を成仏させるね」


 ネコちゃんが準備を始めた。


「色々と大変だったけど、うまくいってよかったぞ。冥土の土産にこれをあげるぞ」

「ちょっと、今から成仏する相手に冥土の土産とかシャレにならないんだけど……」


 シロウはふところから折り鶴を取り出した。いつの間に折っていたのか、シロウオリジナルの鶴は進化を遂げて首が三つもある。


「ひゃ! 怖いです!」


 幽霊も怖がる異形の鶴を無理やり渡した。


「あ、ありがとうです。ではそろそろ逝くです」


 少女はネコちゃんの祈りに乗って光りになる。どんどんと姿が薄くなり、完全に消えてしまった。

 こうして私達の幽霊騒動は幕を閉じた。その後、ネコちゃんの両親が帰って来るまでの間、私やシロウの事を全て説明する事になる。ネコちゃんは私達を拒絶する事無く、笑顔で受け入れてくれて、それがとても嬉しかった。

 姫ちゃんに続き私達の秘密を知る友達が二人になる事で、未来ちゃんには何て言おうかと頭を悩ませつつ、自分の家に帰る事になった。

 ほぼ一晩中起きていたのだ。部屋に戻ったら少し寝ようと思いドアを開けると、そこにはあの幽霊少女がちょこんと座っていた。


「ええ~! 何でいるの!?」


 流石に驚きを隠し切れず最速で問いただす。


「いえ、実はまだ成仏できないらしくて、戻って来たです。私の未練は人と触れ合い、温もりを求める事。それが満たされないと成仏できないんです」

「そ、そうなの?……でもよくこの家が分かったわね?」

「お兄ちゃんに貰った鶴から気配を辿って来たです」


 ジト目でシロウを見ると、シロウはすかさず目を逸らす。


「あの……迷惑だとは思うですが、成仏出来るまで取り憑かせてもらえないですか?」


 上目遣いで可愛くお願いするも、内容はとんでもない事を言っている。しかしここまで着いて来てしまっては仕方がないとため息を吐く。


「分かったわよ。その代わり、何か問題でも起こしたら速攻で除霊してもらうからね」

「はい、ありがとうです。私はりん。みんな、お凛って呼んでたです」


 そうして私はこの子に取り憑かれる事になった。とりあえず今はベッドに横になりたい。考えるのはその後だと私は思った。

ご愛読ありがとうございました。(二回目)

またネタ探しのために少しお休みします。

正直、この幽霊ちゃんを仲間にするかどうかはかなり迷いました。

そういった裏事情が知りたい方は、24話の活動報告を参照してください。

……10万文字が少しだけ見えて来た~

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