表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

21話 真夏の恐怖の物語➂

コメディを書いてたはずが何故かホラーを書いてました。

小説でホラーって難しいですよね。

どう書けば怖がってくれるのか……

 洞窟は以外にも長くて、奥を照らしても先が見えない。そんな中、私は三人で歩いている事に気付いて、後ろを振り返ってみる。

 ネコちゃんが少し離れた所で俯いていた。


「ネコちゃん? どうしたの?」


 私は声を掛けながら歩み寄った。ネコちゃんは黙っている。

 様子がおかしい事に気付いた二人も集まって来た。


「ネコちゃん、大丈夫? 何か感じるの?」

「それは……」


 ネコちゃんが渋い顔で言い難そうにしている。


「え? 何? どういう事?」

「えっと、ネコちゃんは、その……」


 私が何て言えばいいか迷っていると、ネコちゃんが口を開いた。


「いいよ雛ちゃん。全部説明するから……私の家って神社なの。黙っててごめんね。」

「そうだったんだ、黙ってた事は別にいいけど、それで?」


 未来ちゃんが真剣な面持ちで続きを聞こうとする。


「そのせいか、私には霊感があって、ここの洞窟の奥、やっぱり何かいる……私を呼んでるの」


 その言葉にみんなが息を呑む。巫女の重みのある一言に、背筋が寒くなる気がした。


「それって、ヤバいの……?」 未来ちゃんが恐る恐る訊ねる。

「ううん、ヤバかったら最初から止めてるよ。助けを呼ぶような、泣いているような、そんな声」

「ネコさんのご両親は本職じゃないんですか? 大人に任せた方がいいと思いますが」

「お父さん達は今、出張で家にいないの。数日は戻らない。だからこれくらいの霊なら私でしずめてあげようと思ったんだけど、進むにつれて気配が大きくなってるから……」


 みんなが黙り込んだ。どうしようかと確認するかのようにお互いの顔を見合わせる。


「進んでみない?」


 そう言ったのは未来ちゃんだった。


「ヤバい霊じゃないんでしょ? それに何かあってもネコちゃんがいれば安心だろうし、奥まで行ってみない?」

「私は、皆さんが行くというのでしたら着いて行きますが……雛さんはどうしますか?」

「私は……ネコちゃんがやりたい事を手伝ってあげたい」

「ありがとう、みんなが一緒なら心強いよ!」


 ネコちゃんが笑顔でお礼言う。

 こうして若気の至りというべきか、怖いもの見たさもあってか、私達は進むことにした。

 私達はゆっくりと歩みを進める。入って来た時とは一変して、喋る者は誰もいなかった。ネコちゃんを先頭に、周りを警戒しながらゆっくり足を運ぶ。

 ジジッ……

 突然四つあるライトの光が三つに変わった。光が消えたのは未来ちゃんの明かりだった。

「あ、あれ? 何で?」

「電池切れでしょうか?」

「ううん、新しいのを入れて来たんだもん。すぐに切れるはずないんだけど……」


 軽く振ってみるが、光は戻らない。ふいに懐中電灯と一緒に体の向きを変えたその時、


「ひっ!」


 未来ちゃんが息を吸い込むような声を出した。


「未来さん、どうしたんですか?」

「……今、そこの岩陰に誰かいた」


 三人で同時にライトの光をその方向に向けた。大きな岩が転がっているだけで、他には何もない。


「暗いので見間違えたのでは?」

「そんな事ない! 子供くらいの小さな影がこっちを向いてて……」


 それが真実であれ、間違いであれ、私達は何て答えていいか分からなかった。しかし、みんなが黙ったその瞬間


「タ…ス……ケ………テ……」


 掠れる声が下から聞こえた。声を目で追うと

――未来ちゃんの腰に子供が抱き着いていた。


「ウ……アァ……」


 影のように黒いその子供は、上を見上げて手を伸ばした。


「っ!!」


 未来ちゃんは思い切り後ろに飛び退け、しりもちをついた。

 子供の影は姿を消したが、その場の空気は完全に凍り付いていた。時が止まったとも思える沈黙。本当の恐怖を目の前にすると、呼吸する事さえ出来なくなる事を私は初めて知った。

 最初に正気に戻ったのは姫ちゃんだった。慌てて未来ちゃんの隣に駆け寄って肩を抱く。


「未来さん、大丈夫ですか!?」

「はーっ! はぁー……」


 呼吸することを思い出したかのように、未来ちゃんが大きく息を吐いた。


「ごめん……私、これ以上は無理かも……」


 恐怖で声も、体も震えていた。

 それを見て私はネコちゃんに声を上げた。


「ねぇ、本当に大丈夫? 戻った方がいいんじゃない?」


 しかしネコちゃんはこちらも見ないで前にゆっくりと歩き出す。私は隣まで駆け寄って再度声をかけた。


「ねぇ! ネコちゃん――」

「暗イ……苦シイ……辛イ……」


 ネコちゃんは虚ろな目をして、どもった声で呟いていた。それは完全にネコちゃんではない「何か」だった。

 私は思わず後ずさりをして距離を取る。

 その様子を後ろの二人も見ていて、戸惑いを隠し切れない。


「ネコさん、どうしたんですか!?」


 姫ちゃんが声を上げるも、やはりネコちゃんは見向きもしない。


「私のせいだ、私がみんなをここに誘ったからこんなことに……ごめん」


 後悔するように、今にも泣きそうな声で謝り出す未来ちゃん。その場は混乱によって収拾がつかなくなりつつあった。この場をまとめるために私は恐怖を押さえつけ、心を強く持って声を張った。


「姫ちゃん!」

「は、はい!?」

「未来ちゃんのそばにいてあげて。私はネコちゃんを連れ戻してくるから!」


 そういってネコちゃんの少し後ろに張り付く。どうすればいいかなんて分からない。魂の循環もこの状況じゃ役立ちそうになかった。とにかくいつでも動けるように視線を逸らさずに隙をうかがう。

 すると後ろから足音が聞こえた。振り返ると、姫ちゃんと未来ちゃんが付いて来ていた。


「イヌちゃんが頑張ってるのに、私だけへたり込んでいられないよね!」

「みんなで行動しましょう」


 二人の言葉に勇気が湧いてきた。さて、ネコちゃんをどうしようかと考えるも、すぐに洞窟の終わりが見えて来た。

 奥には小さな祭壇のようなものが建っているのが見える。祭壇の真ん中には重箱に似た箱にお札が張られており、その上から紐でしっかりと結ばれていた。

 その箱にネコちゃんが手を伸ばした。

 さすがに嫌な予感がして、ネコちゃんの肩を強く引く。


「ダメだよ! 正気に戻って!」

「……あれ? 雛ちゃん?」


 元に戻った事に安堵して力が抜けるのを感じた。


「もぅ~、心配したんだから、ネコちゃんってば取り憑かれたように一人で歩いて行ったんだよ?」

「そう、だったんだ。ごめんね。……あ」


 何かに気付いたのか、ネコちゃんが足元をライトで照らした。そこには――

 人骨が散らばっていた。一目で分かるのがしゃれこうべ。いわゆる頭蓋骨だった。

 私達がすくみ上るのに対して、ネコちゃんはいつくしむような目で骨の前にしゃがみこみ、私達に静かに話す。


「今からこの霊を鎮めます。みんなも祈ってあげて。大切なのはその想いだよ」


 そう言うとネコちゃんは目を閉じて、何かを唱え始めた。

 私達はその後ろにしゃがみ、手を合わせて祈った。

 二、三分の間そうしていただろうか。ネコちゃんの呪文のような声が止まった。


「はい、終わったよ。これでしばらくは大丈夫だと思う。後はうちの両親が帰ってきたら本格的に供養してもらうから、今日はもう戻ろう」

「ねぇ、この子は何でここで亡くなったの? この祭壇や、中央の箱は何?」


 みんなが立ち上がると、未来ちゃんがそんな質問をした。

 ネコちゃんが少し考えて答える。


「多分、人柱……みたいなものだと思う」

「人柱って何?」


 初めて聞く言葉に私も質問をする。


「神を鎮めるための生け贄です。つまり、当時この村で何かが起こり、それを神の怒りだと考えた村人が、この子を生け贄にして怒りを鎮めようと考えた。そういう事ですか? ネコさん」


 姫ちゃんが代わりに説明をしてくれた。


「うん、そんな感じだと思う。祭壇の真ん中の箱は、この子の大切な物……かな? 怒りや恨みのような負の感情をこの箱が全部吸い取って、この子が安らかに成仏出来るように置かれてるみたい。だけど、この子の生け贄にされた事への絶望は想像以上だった。いくらこの箱が吸い取っても成仏出来ないぐらいに……」

「可哀そうですね……」

「……さ、もう戻ろう」


 少ししんみりとした空気をネコちゃんの明るい声が吹き飛ばした。私達は出口に向かって歩き出す。

 その途中、未来ちゃんが子供に抱き着かれた場所にさしかかると、


「……ねぇ、ここから出口まで少し走らない?」


 ブルッと身震いをして未来ちゃんが提案する。私達は頷いて、軽く足早に出口に向かった。急ごうとすると気持ちが焦っているのか、不思議と出口までが遠く感じた。やがて出口の光が見えて、やっと洞窟の外へ出る事ができ、とてつもない安心感を生んだ。


「う~、外だ~! 生還できたんだ~!」


 未来ちゃんが両手を広げて日の光を謳歌した。


「みんな速いよ~、待って~」


 遅れてネコちゃんが洞窟から出て来た。


「もう~、相変わらず遅いんだから、ネコちゃ――」


 そう言いかけて、未来ちゃんの口が止まった。

 私と姫ちゃんも、ネコちゃんに目を向けた瞬間に息を呑んだ。

 ドサッ!

 未来ちゃんがその場で荷物を落としてしりもちを着いた。

 その場の真夏の空気が、一瞬で凍り付いた。


「どうしたの? みんなそんな顔して」


 ネコちゃんだけが何も分かっていない様子で首を傾げている。その両腕には、あの祭壇に祀られていた箱がしっかりと抱きかかえられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ