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18話 犬とネコ④

修羅場回です。

結構長くなっちゃいましたが、分けたくなかったので一気に載せました。


言うほど修羅場ではないかも……

 午後の二時を過ぎた。そういえば動物仲間に届け物をしなければならない事を思い出し、丁度いい時間だし今から出かける事にした。

 ポンッ☆ と、まずは人間の姿になり、鍵をズボンのポケットにしまう。そして荷物は手に持った状態で、ポンッ☆ と再び犬の姿に戻る。こうすると服も荷物も消えて、身軽に動けるようになる。

 原理はよく分からないけど、この時の人間の俺は、服や荷物ごと別の保管場所にしまってある状態だ。人間になる時はそこから人間の俺を出して、代わりに犬の俺をしまう事になる。何かそんな感じのイメージだ。

 俺は窓から外に出て、屋根から塀に、塀から地面へと順番に降りていく。

 さて、いつもの神社のたまり場に行くとしよう。

 別に急ぐ事はないが、俺は駆け足で向かう事にした。


 神社の脇から入るたまり場に着いた。以前、ヒナとウィスが木登り勝負をした場所だ。そこにはすでに何匹かの仲間がいつものように日向ぼっこをしている。


「ようシロウ。今日は来ないのかと思ったぜ」


 野良時代からの仲間であるウィスが寝そべりながら声をかけて来た。

 俺はポンッ☆ と人間の姿になって荷物を取り出す。


「じゃあこれが今日の分な。これがマシロの主人、ヒメから。こっちはヒナから皆にお礼だってさ」


 中身は全部食べ物だ。適当に広げると、今まで寝そべっていた仲間たちがゾロゾロと集まって来る。


「マシロ捜索に協力してヒメからお礼が貰えるのは分かるが、何でヒナが俺たちに感謝してんだ?」

「ヒナは『マシロを見つけられたのは皆のおかげで、私は何もしてないよ』って言ってたぞ」

「へっ、総大将が指示を出すのは当たり前なのによ。お前の主人はずいぶん謙虚だな。あ、おい! ペット勢は家でエサをもらえるんだから、野良を優先しろよ! それは猫用の食い物だよ! 犬が食ってんじゃねぇ!」


 ウィスが仕切って食べ物を分配している。俺は人間用のツマミを持ってきていたので、それを少しずつ口に運びながら皆との会話を楽しんだ。

――そう、この場は完全に宴会のような空気になっていた。



 どれだけの時間が立っただろう。もう食べ物は残っていない。


「野良にとっては食べ物さえあれば寝床の心配はないよね。今の季節は暖かいから」

「ってかもう夏だよな。最近暑くなって動きたくねぇ」


 それぞれが好き勝手に会話しているが次第に話題も無くなり、再び日向ぼっこをしながら居眠りをする者も出て来た。季節は六月。そろそろヒナが帰って来る時間だが、日が長くなった今の時期はまだ明るくて、時間の感覚が分からなくなってくる。そんな時だった。


「シロウ君……?」


 後ろで声がした。驚いて振り向いて見ると、そこにはヒナの友達の一人、ミネコがたたずんでいた。

確かヒナはネコと呼んでいたっけ。


「わぁー、やっぱりシロウ君だ。シロウ君もここに動物が集まる事知ってたんだね」


 満面の笑みを浮かべてネコが駆け寄って来る。石に腰かけている俺の隣に立ち、一緒になって動物達を眺めながら、


「ねぇ、隣に座ってもいい?」

「ああ、いいぞ……」


 丁度座るスペースが二人分ある幅の広い石なので、端に寄ってネコが座れるだけの幅を空けてあげる。そこにネコがチョコンと座った。そんなやり取りの最中、俺はとにかく状況を整理するのに頭をフル回転させていた。

 まず、俺は今人間バージョン。

 運良く会話が途切れていて、動物と話している瞬間は見られていない。

 ヒナからの指示は確か、俺は近所に住むヒナの友達。

 余計な事はしゃべらない。

 変な事をしゃべろう物なら確実にヒナに怒られるだろうけど。うん。大丈夫。いける!


「シロウ。この子はたまにここに来て俺達にエサをくれる子だ。お前と知り合いだったんだな」


 ウィスが俺に情報を提供してくれる。しゃべる訳にはいかないので軽くうなずいて返事をする。

 よく見るとネコは変わった着物を着ていた。何て言うのか分からないが、神社の人がよく着ている着物だ。

 そんな風に頭の中を整理していると、ネコは持ってきたエサと水を足元に綺麗に並べた。俺が水を持ってき忘れたものだから、みんなは水に集まり出す。


「シロウ君はここによく来るの?」


 ついにネコが俺に話しかけてきた。冷静に答えを導き出す。


「……そうだな、ヒナとよく来るな」

「雛ちゃんもここを知ってるんだ!?」

「俺がこの場所を教えたんだけど、最近では一人でもよくここに来るみたいだぞ?」


 ネコがちょっとうつむいて、何か考え込んでいるように見える。


「もうちょっと色々と聞いてもいいかな?」

「か、構わないぞ」

「じゃあ、好きな食べ物は何?」

「ん~、 ヒナの作る料理」

「え!? 雛ちゃんって料理出来るの!?」

「ヒナの両親は帰りが遅い事も多いからな。時々作ってるぞ」

「そ、そうなんだ……」


 ネコが難しい顔をしている。別におかしな事を言っているつもりはないんだが……


「じゃ、じゃあ、シロウ君はお休みの日は何をしてるの?」

「ヒナと遊んでるぞ」

「そ、そう……雛ちゃんと……」

「ヒナは歌がうまいんだ。よく聞かせてもらうんだぞ」

「えぇ~! 雛ちゃん恥ずかしがってカラオケ行きたがらないけど、そんなに上手いんだ! って、私シロウ君の事聞いてるのに、どんどん雛ちゃんの事に詳しくなってる気がするよ~……」


 ネコが頭を抱え始めた。どうしたのだろうか?

 すると足元で水を飲んでいるウィスが話しかけてきた。


「おいシロウ。ヒナという主人がありながらこの子にまで好かれてるなんて、お前も隅に置けねぇな」


 ウィスがにやけながら話しかけてきた。明らかにからかっている。

 うるさいなぁ。今は受け答えに必死でウィスの相手をしている暇はないぞ! そもそも好かれてるって言うけど前に一度会っただけで特に何もしていない。


「あのね。この前ひったくりに合った時の事、ちゃんとお礼を言いたかったの。あの時はバッグを取り戻してくれてありがとう」

「ん? あぁ、あの事か。別に気にしなくていいぞ。ヒナの友達だったし、当然の事だ」

「あはは……雛ちゃんの友達、だからかぁ……」


 またネコがへこんだように俯く。


「おいバカシロウ。一つ教えてやる。女と話す時は、他の女の名前を出すのは厳禁だ。そんな事も分からねぇからお前はいつまでも子供だんだよ!」


 ガーン!! そんなルールがあったのか!? 知らなかった……でもウィスってあまりモテない印象があるぞ。信じていいのか?

 ちょっと想像してみる。ヒナと遊んでいる最中、ことある事にウィスの話題を振って来るヒナ。

……あ、確かに何か嫌だな。


「その、シロウ君は雛ちゃんの事詳しいんだね」

「ああ、ヒナは俺の全てだからな」


 バコーン! と何かに殴られたかのようにネコは頭をグラグラさせている。


「シ、シロウ君! 別に雛ちゃんがダメな訳じゃないけど、もっと視野を広げて他の女性を見てみたらどう? 色んな事が分かるかもしれないよ? 手始めに私とか……って何言ってるの私ー! これじゃ普通に嫌な女だよー!!」


 ネコが嘆きながら首をブンブンと振っている。


「だ、大丈夫かネコ……」

「うぅ、シロウ君は、その……雛ちゃんの事が……好き……なの?」

「ああ、好きだぞ」


 今度は糸が切れた人形のようにガクリと俯くネコ。

 足元ではウィスがため息をついている。

 なるほど、ウィスが言ってた事はあながちデタラメではないようだ。確かに好意を寄せられている匂いがする。


「……けど、ヒナはネコの事が好きだな」

「……え? ネコって私の事?」

「うん、ネコだけじゃない、ミキも、ヒメの事も好きだな。最近ヒナは、よくみんなの事を俺に話してくれる。その時のヒナはすごく嬉しそうで笑顔なんだ。俺と一緒に遊ぶ時よりもニコニコだぞ」

「シロウ君……」

「俺はいっつもヒナの事怒らせちゃって、あんまりニコニコさせてあげられないんだ。だからネコ達はすごいと思うぞ」

「……シロウ君は、辛くないの?」


 ネコは悲しそうな目で俺を見てくる。

 

「俺は……ヒナが笑ってくれればそれでいい。たとえ俺がヒナの一番になれなくても、ヒナが幸せなら、それが俺の幸せなんだ」

「でも!……それじゃシロウ君がかわいそうだよ……」

「俺も幸せなのにか?」

「そんなのただの自己満足じゃない! ねぇ聞いて。シロウ君が雛ちゃんの事を一番に想ってるように、シロウ君の事を一番に想ってる人だっているんだよ!」


 ネコが真剣な眼差しで俺を真っすぐに見つめる。


「私はちゃんと見てるから……シロウ君が雛ちゃんのために頑張っている事、ちゃんと見てるから!」

「ネコ……」

「だって……だって私は、シロウ君の事が――」


 * * *


「シロウは神社のたまり場にいるみたいね」


 私は魂の小川を頼りにシロウの所に向かっていた。小川の示す方角を見れば神社のたまり場にいる事はすぐに分かったので、割と近い場所にいた私はメッセージの強制送信を使わずに直接会いに来た。


(買い物の荷物持ちしてもらおっと。ついでにたまり場のみんなに挨拶しておこうかしら)


 そんな事を考えながら茂みを抜けると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「…………………………………………………ウ君の事が――」

「あれ? ネコちゃん? それとシロウも!?」


 二人が石に腰かけているのを見つけて声を掛けた。

 ネコちゃんが驚いたように視線を向けて、その瞬間から顔がどんどん赤くなっていく。


「い、いやああぁぁ~~~!! 雛ちゃん!?」

「どうしたのネコちゃん、顔が真っ赤よ?」


 ネコちゃんが立ち上がり、あたふたと挙動不審な動きを見せる。


「ち、違うの、これは別にそんなつもりじゃ、私、泥棒猫みたいな真似なんてするつもりは、いや私ネコだけど!」

「いや、ネコちゃん落ち着いて! 何言ってるか全っ然分かんないから!」


 周りを見ると動物達がエサを食べたであろう痕跡がある。

 シロウに預けたお礼の品を横取りしてると思ってるのかしら? ネコちゃんがそんな事するはずないって分かってるのに。


「わ、私、雛ちゃんとはお似合いだと思ってるから! ほんとだから! だからもう帰るね!」


 目をグルグルさせて、一目で混乱中と分かるネコちゃんがまくし立てる。

 お、お似合い? 動物達との事かしら?


「わ、私は、いつまでも雛ちゃんと友達のつもりだから! それじゃ!」

「あ、ありがとう。ところでその恰好って巫女服だよね? もしかしてここの神社ってネコちゃんちの神社なの?」

「え!? それは、その……」


 ネコちゃんは帰ろうとしたところを呼び止められて言葉に詰まっている。


「もしかして、家に私達を呼びたくなかったのって家が神社だから?」

「えっと……うん、たまにお手伝いで巫女をやらされたりするの。けど、私まだ全然仕事出来ないし、こんな格好恥ずかしいから……」

「そんな事ない、ネコちゃんすっごく可愛いよ! それに高校一年で巫女さんだなんてすごいよ、憧れちゃう!」

「そ、そうかな……?」

「うん! すごく似合ってるよ~」


 私が正直な感想を述べると、ネコちゃんは照れているのか顔をそむける。相変わらず顔は赤いけど、その表情には笑顔が戻っていた。


「雛ちゃんはずるいよ……でも、ありがとう。じゃあもう戻るね」

「ずるい? あ、また明日ね」


 ネコちゃんが再び背を向けて歩き出す。その際に、


「あーあ、失恋かぁ……」


 そう確かに聞こえた。

 え? 何が? どゆこと?

 私は周りに寝そべる動物達を見る。みんなが神妙な面持ちでずっと見守っているといった感じだった。


「差し入れ……食べる?」


 私はソーセージを取り出したが、


「ヒナからのお礼の品はシロウから受け取ったぜ。というか、生まれてからずっと野良をやってるが、食い物が多すぎて困る日が来るとは思わなかったな。ヒナ、お前は色んな意味で間の悪い奴だ……」


 とウィスがため息を漏らした。

 シロウに視線を移してみる。すると目が合った瞬間に気まずそうに目を逸らされた。

 え? 何この空気……

 私には何が何だかさっぱり分からなかった。

 たまり場にいる動物達に別れを告げ、シロウと二人で商店街へ足を運ぶ。その道中


「シロウ、あの時ネコちゃんと何を話してたの?」

「……ヒナって意外とニブいんだな」


 そんな事を言われた。


「嘘でしょ!? あんたにそんな事言われるなんて……いやでもシロウは動物だからむしろ鋭いのかしら? あ~とにかく何か悔しいからちゃんと教えなさい! さもないと魂の循環使って記憶をインストールするわよ!!」

「ちょっと待て~! それはさすがにプライバシーの侵害だぞ! ネコに対しても失礼だから!」


 生意気にも「プライバシー」なんて言葉を使い始めるシロウ。だけど正論なので記憶のインストールは止める事にした。


「大体さっきのヒナとネコとの会話に謎を解き明かすだけのヒントは十分にあったぞ」

「嘘でしょ? 全然わかんない」

「いやいやいや、嘘だろって言いたのはこっちの方だぞ……」


 シロウがさっきからツッコミを入れるような返しをしてくる。

 これではまるで私がボケているみたいではないか!

 悔しいので真剣に考えてみる。確かにネコちゃんは私が現れてから意味不明な事を言っていた。その中でも最も重要なワードは何だった? それは……そう!「失恋」だ! 確かにネコちゃんは失恋と言っていた。

 失恋した。それはつまり。


「あ……」


 私はついに答えを導き出した。全てが一本の線に繋がったのだ。


「そういう事だったのね。分かったわシロウ」

「そうか。まぁそういう事だ。ネコには悪いが俺はやっぱりヒナしか――」

「ネコちゃんは恋をしていたんだわ! だけど友達の私達には恥ずかしくて相談出来なかったのよ! だから第三者のシロウに相談を持ち掛けた。けどシロウは恋に無頓着むとんちゃくで、まともに相談を受ける事が出来なかった、それでネコちゃんはその恋を諦めざる得なかったのよ! そうでしょ!?」

「ええぇぇ~~!! 嘘だろ? 自信満々な顔して行き着いた答えがそれとか嘘だろ!? 頼むから嘘だと言ってくれ~」

「ちょっと! 遠回しに『こいつ思ってた以上にポンコツで信じられない』みたいな表現やめてよね!」

「何でこういう事は的確に見抜くのに恋愛に関してはそうニブいんだ~!」


 ギャーギャーと騒ぎながら歩みを進めていく。

 結局シロウは最後まで答えを教えてはくれなかった。

あれ?

雛とシロウの漫才っぽいやり取りってこれが初めてかな?

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