15話 犬とネコ①
前回までのあらすじ
お互いの秘密を暴露して姫ちゃんと仲良くなりました。
私は現在、姫ちゃんの屋敷にお呼ばれされている。何でもマシロの言葉を通訳してほしいとの事だ。あの事故でマシロは大きな怪我こそ無かったものの、2、3日の安静が必要で、姫ちゃんは付きっ切りで看病をしていた。
「こんばんは、傷の具合はどう?」
私はマシロに挨拶をする。動物語はすでにインストール済みだ。
「いらっしゃい、姫乃が心配しすぎるだけで、傷は大分いいわよ」
「あはは、姫ちゃん心配しすぎって言われてるよ」
「獣医からもまだ安静にしていないとダメって言われているんです。無理なんかさせません! それで早速通訳をお願いしたいんですけど、マシロに不満や要望が無いか聞いてほしいんです」
「分かった。マシロ、姫ちゃんが不満とか、してほしい事が無いかって聞いてるよ」
マシロは少し考え込みながら答えた。
「そうね……私をタルタロスから解放する事かしら」
……この猫なに言ってんの? ペットが厨二病なんて知ったら姫ちゃんはショックを受けるんじゃないだろうか。面倒くさいのと合わさって私は考えるのを止めた。
「特に何もないってさ」
「フニャーーーゴ!!」
安静中のマシロが蹴りを食らわせてくる。
「あの、マシロがちゃんと通訳しろと激怒しているように見えるんですが……」
「き、気のせいじゃないかな、他に聞きたい事はない?」
私は暴れるマシロをムギューと抑え込みながら、質問を変える事にする。
「では、何か欲しいものが無いか聞いて下さい」
「マシロ、何か欲しいものは無いか聞いてるよ」
「そうね……禁断の果実が食べてみたいわ。私にぴったりだと思わない? それと……」
「特に何もないってさ」
「フニャーーーゴ!!」
マシロが割と本気で噛みついてくる。
痛い痛い!
「あの、マシロが通訳の不備に猛抗議しているように見えるんですが……」
「こら! 痛いっての! 大体アンタ何言ってるか分かんないのよ! タルタロスって何!? 禁断の果実って何!?」
ギャーギャーとケンカを始めた私達を、姫ちゃんは何故か楽しそうに見つめていた。
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学校の昼休み、いつも通り屋上に出てみんなと昼食をとっていた。
「雛さん、私お弁当を作って来たんです。おかずを交換しませんか?」
と姫ちゃんが弁当箱を取り出す。箱を開けると美味しそうな料理が顔を出した。
「うわ~、美味しそうだね! 家の人が作ってくれたの?」
「いえ、私が自分で作ってみました。雛さんの口に合えばいいんですけど」
「「……」」
「うん! この卵焼きすごく美味しいよ! こんな美味しい卵焼きは初めてかも!」
「ふふ、砂糖を一切使わない、うちの特製卵焼きなんですよ」
「「……」」
さっきから未来ちゃんとネコちゃんの視線が痛い……私は二人にも話を振る。
「えっと……二人もよかったら食べない?」
「うん食べる、食べるけどさ、二人とも何かあったの? めっちゃ仲良くなってない?」
と未来ちゃんがじぃーっと私と姫ちゃんを交互に見つめる。
「何か、友達に内緒で付き合い始めたけど、バレバレなカップルみたいになってるよ?」
とネコちゃんもいかがわしい目で見てくる。
「そ、そんな事ないと思うよ? ねぇ姫ちゃん?」
「実は先日、うちの猫が行方不明になった時に雛さんが探すのを手伝ってくれたんです。その時の『私を信じて! 絶対にマシロを見つけるから!』、と言ってくれた雛さん、とてもカッコよかったです」
思い出すように目を閉じて、私の真似をしながら語る姫ちゃんに超絶恥ずかしくなる。
「へぇ~、そんな事があったんだ。ってか、イヌちゃん顔真っ赤だよ?」
未来ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「他にも、諸事情で私が落ち込んでいる時に『安心して、私がずっとそばにいるよ』、って手を握ってくれた雛さん、とても素敵でした」
……あれ、私そんな事言ったっけ? 美化されてない?
というか姫ちゃんが完全に自分の世界に入っている。
「うわー……熱いねー……」
「ヒューヒュー……お似合いだよー……」
セリフとは裏腹に、冷めた声と視線を送ってくる二人。
もはや私はその場の空気に耐え切れず、姫ちゃんに詰め寄った。
「姫ちゃんもう許して! もうしゃべらないで! お願いだから~!!」
私は姫ちゃんを下のコンクリートに押し付けるように上からギュウギュウと押し付けた。
「あん、雛さん激しいです♪」
姫ちゃんは何をされても嬉しそうだった……
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「姫ちゃんちの猫はマシロっていうんだね。イヌちゃんは触れていいなぁ。私もモフりたい。ねぇ、家に行っちゃダメ?」
「ダメです♪」
姫ちゃんが笑顔で答えた。
「ガーン!」
「前にも言いましたが、うちは今、ちょっと人を上げられる状況じゃないんです。けど、未来さんなら大丈夫。あなたは犬や猫にとらわれる人ではないはずです。周りを見て下さい。あなたはこんなにも友達に恵まれているじゃありませんか」
「え? そ、そうかな? うん、そうだよね!」
未来ちゃんが見事に丸め込まれる。
「でもさ、遊ぶ時っていつも私の家でしょ? たまにはネコちゃん家にでも集まらない?」 と未来ちゃんが期待を込めた目で訴えかけるも……
「え……」 ネコちゃんが言葉に詰まった。
「あれ? 今すごく嫌そうな顔しなかった?」
「そ、そんな事ないよ。うちは……そう! 古くて汚いから恥ずかしいの!」
「いや、私んちだって汚いよ。散らかってるし」
「いやいや、未来ちゃんちは風情があるよ! 歴史を感じる! だから大丈夫だよ!」
それで切り抜けられるとでも思っているのか、ネコちゃんが必死に説得をしている。
「私、未来ちゃんの家好きだなぁ。何て言うか、味があるもの。あの家を見たらとても恥ずかしくて自分の家に友達なんか呼べないよ!」
確か未来ちゃんの家ってアパートとか言ってなかったっけ?
いくらなんでもその説得は無理があると誰もが思うだろう。
「そ、そうかなぁ。じゃあ仕方ないかぁ」
あっれ~??
なぜか切り抜けられたようだ。
「あとはイヌちゃんの家か。そういえば前はシロウが事故にあっちゃって、家には上がれなかったんだよね。今日行っていい?」
未来ちゃんに振られてハッと思い出す。そういえば朝にシロウが何か言っていた気がする。確か、今日は部屋に友達を呼んで宴会をやると……
遅刻しそうだったから適当に了承したけど、それを見られたら流石にマズい。
「え~と、うちも今日はダメ……かな?」
「……何でよ?」
最後だからか未来ちゃんも簡単には引き下がらない。
「今日はお客さんがいるの。だからちょっと無理……かな?」
「イヌちゃんちって共働きだから夕方まで誰もいないって言ってたじゃん」
「え! きょ、今日は例外でして……それに未来ちゃんは家で遊ぶのは似合わないと思うの! 部屋という狭い空間にとらわれず、世界を自由に使うのが未来ちゃんの凄みでしょ?」
決まった! これで何とかやり過ごして……
「いや、全然意味分かんないし」
ええぇぇ~~! 前の二人はあっさり納得して、なぜ私の説得は効かないのか!
「イヌちゃん、周りが断ってるからって自分も断るとか、そういうノリはいらないからね?」
「いやいやいや! ノリで言ってる訳じゃないから! 今日は本当にマズいから!」
私がそこまで言ってようやく未来ちゃんが押し黙る。そして……
「……何でみんなそんなに家に上げたがらないの? もしかして私って避けられてる?」
割と本気で泣きそうな顔をする未来ちゃん。
「そ、そんな事ないですよ。未来さんは私達のムードメーカーであり、中心人物だと思っています。それに家の事情が落ち着いたら、招待するつもりだったんです。」
姫ちゃんがフォローを入れた。そこに私も続く。
「そうだよ、未来ちゃんがいないとこのグループは始まらないんだから! 今日うちに来る? やっぱり都合を合わせれば大丈夫かも!」
「ほんと? じゃあ今日はイヌちゃんちに皆でお邪魔しちゃおう~」
私は未来ちゃんの機嫌が直った事に胸をなで下ろした。シロウには後で魂の循環を使ってメッセージを送っておけば問題はないだろう。
こうして、私の部屋に初めて友達が来る事になった。
設定を忘れていた部分があったので修正しました。
読者の方には迷惑をかけてしまい本当にすいませんでした。
未来の家が一軒家っぽい描写になっていた。
↓
アパートに修正。