お前はクビだ
「よかったの? あの娘を採用して…」
ミラの面接が終わってすぐ、コモモが私に尋ねてきた。無理もない、私の力でリンドウをコントロールしているという事、それがもう続かない事を新人に、しかも臆病者ときた、普通なら大変な罪だ。でも、
「いいの。ミラ、泣いてたでしょう。この世界では力を持った人間は戦争命が基本、でもね、あの娘は優しいよ。それにこれ、見てみなよ」
私はミラからもらった履歴書のようなものをコモモに渡す。それには名前、生年月日、年齢、身長、体重などなど、ほとんどの個人情報が載ってある。だけどわたしが言いたいのはそんな事ではない。コモモに渡した履歴書のある1つの項目を指で示す。
「……! なるほど、あの娘を採用した理由がやっとわかったわ。悪い娘ね」
「いいえ、むしろ善行。姉さまと兄さま…いや、姉さんと兄さんに拾われたら大変だものね。まぁ採用したのはそれだけじゃない。無駄にお金あるんだから、情けじゃないけどあの娘の家族も助かるでしょう」
「…実際、そうじゃないんだけどね。こんな世の中じゃお金なんてただの紙切れ同然、本当に必要なのは…」
コモモはそう言って自身の部屋にこもった。何を始めるのかはわからないけど、少なくとも何か役に立つ薬を作ろうとしているのだろう。
天才の考えている事はどうも理解しにくい。コモモの場合は訊けばわかりやすく、丁寧に教えてくれるが、それを何の為に、何故作るのかまでは教えてくれない。自分で考える事も大切、という事を教えてくれているのだろうけど、今の私にはそんな余裕なんて…
あと持ってどのくらいかな、薬を飲めばまだ数ヶ月は大丈夫だろうけど、私の身体が耐えられるかどうか…。ともかく、生きている間に何か策を考えなければ。
「ヒナ、あなたが採用したミラって娘、あれはどういう事なの?」
司令室、つまり姉さま…ハレンの部屋だ。私はここへ呼び出された、もちろん理由は聞かされずに。
「どういう事、とは?」
ミラを採用してから約1ヶ月、私の身体は薬の効果で何とか持ってはいるが、頭は痛いし目眩はするしでもう大変。それに加えて今現在は姉さまの説教、泣きっ面に蜂だ。
それもミラの事、だいたい予想はついているが、これも話半分に聞いておくつもり。
「どうもこうもない。何だあいつは、てんで使い物にならん」
やはりそうか、実際に戦場に出れば少しは臆病が治るかな、とか思ってたけど、そうはいかないらしい。まぁ、これも作戦のうちではあるけれど、
「使い物って…、あの娘は物じゃないです、命を持った人間……生きるている事が当たり前の人間が死を恐怖して何が悪いのですか?」
「落ちこぼれは黙っていろ! リンドウのルールがなければ黄鐘はとっくに私が潰している、その事を忘れるな。それに、今日ヒナをここへ呼んだのは通達があるから…」
姉さまがそう言い終えた時、背後の扉が開き1人の兵士が入ってきた。ミラだ。
「あ、ああああの…、わわわ私に何かご用でしょうか!」
「来たな。お前はクビだ、しかし私が決める権利はない、ヒナ…あなたがこの娘の首を刎ねなさい」