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世界に叛く異草花  作者: にぼし
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本音

 夜も更け、もう薬を必要とする人が店にやってこなくなった頃、皆でやや大きめのテーブルを囲み、草花そうかは薬の調合を始める。そもそも草花に直接薬を求める客はいないが、夜作業をするのが習慣になってしまい、誰も昼にやろうとは言わないのだ。

 私としては、直接店を訪ねてくる客がいない事が正直なところありがたい。外にも滅多に出ない為、町の人間は私の存在を知らない者が大半である。

 作業はといえば、いつも私にとって内容の濃いものとなる。時間にしてほんの30分程だが、この時だけは笑顔になれる。

 胡桃はもちろん、心音と美良、稀に沙奈も手伝って愚痴をこぼすなどしている。私は普段それを隣で聞いているだけ。決まった相手とだけコミュニケーションをとるのは、退屈なようではあるが、案外気楽でいいのだ。

 ただ、時々毎日同じ夢を繰り返し見ているような、そう感じることが最近多くなった気がする。

 もしかすると、私の時間はこの世界に来て以来止まってしまったのかもしれない。それが不安で仕方がなかった。

「凪…、凪?」

 向かい合って座る胡桃の声が私を現実に呼び戻す。私の意識は故郷に帰り、記憶を再生する。私は心の眼でダラダラとそれを見ていた。

 薬の調合室、つまり胡桃の部屋で、私は珍しく薬作りの手伝いをしていた。だが飽きっぽい私が長い時間集中できるはずもなく、手を動かさずに頭の中を空っぽにして、時間が流れるのをただ待っていた。

 それなのに、何故か思い出してしまった忌まわしき過去。私はそれを悟られないよう敢えて眠そうな演技をする。

「……んー、あぁうん、なに?」

「なに、じゃないわよ。ぼーっとして、具合でも悪いの?」

「いや特に、ちょっと眠たくなってね」

 と言って大きな欠伸をする。もちろんこれも演技だが、その直後に本物の欠伸が出てしまう。連続して出るのは不自然極まりなく、嘘とバレるのを覚悟するが、胡桃はそう、とだけ言って作業に戻る。

 とは言っても、明日の必要分は既に出来上がっており、みんなは片付け作業を始めている。私の目の前に置かれていた作業途中の薬草たちも、沙奈の手によって既に綺麗になっていた。

 ぐちゃぐちゃだった机を思い出し、私は苦笑する。

 瞳を閉じ、耳を塞いだ私は変化を拒んだ。時間が止まったように感じることを望んだのに、今の私はそれを不安に思っている。なんとも愚かで、滑稽だ。敢えて私が飽きっぽい性格の言い訳をするなら、それは変化しているという事実を途中で実感するからだ。

 心の中は今の変化を受け入れたいのに、過去の因縁に縛られて変われない。

 何の前触れもなく私が笑ったものだから、胡桃を除いた3人は不思議そうな顔をし、美良が代表して質問する。3人とも、片付けは終わっていた。

「凪さんどうしたんですか、いきなり笑って」

「笑っちゃ悪い? 怒られて笑う美良に言われたくないよ」

 昔から姉や兄相手に毒突く事が多かった所為か、最近になってもその癖が抜けない。美良の事は好きだし、悪気はないのだ。だが本人はそれを間に受け、だんだんと赤面していく。

「で、ですからあれは…、…もおっ、凪さんなんて知りません。シオン、沙奈ちゃん、明日も早いから早く寝るよ」

 頬を膨らませ、胡桃の部屋から出て行く。2人はいつもの事だと分かっており、やれやれといった感じで後に続く。

「おへそ出して寝ちゃダメだよ〜」

 口下手な私が最低限表現できる愛を、聞こえるか聞こえないかの微妙な大きさで言う。

 3人とも居なくなった後、私は再び笑ってしまった。今度のは苦笑などではない。

「カナンに来てから、よく笑うようになったわね」

 それを言う胡桃自身も微笑んでいる。言われて初めてそれを自覚して、途端に恥ずかしくなった。だが胡桃に対しては憎まれ口を叩けず、正直に本音を言う。

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