2つの石
ザクロを貫いた2つの石は、血の赤に染まることなく、鮮やかに光り輝いた。1つは緑、もう1つは黄色で、それは今私の掌の上にある。妖しい美しさを含んだそれは、ずっと見ていたいと脳に訴えられているようだった。
しかし、それに見惚れていることはできない。やられたザクロ本人は苦しがっているものの、石の見た目の通り血は一滴も流れておらず、傷1つさえ見られない。倒してはいないのだ。
そもそも石が弾かれた程度の威力で人の体を貫くこと自体不可能で、私自身狙ってやったことではない。だが貫かれた事実と変化した石を見る限り、正体はわからないが“何か”あったのだ。
操られたかのように輝く石を2つ、夢中で自身の服のポケットにしまうと、ようやく我を取り戻したような気がした。その直後、諦めたことにより忘れていた恐怖に襲われる。
「あ……ああ……!」
ポケットの薄い生地から石の光が漏れ、ザクロの姿を視力強化せずに認識する。依然苦しみ、荒々しく咳込むザクロの視線が私に向けられた瞬間、頭の中は真っ白になり、この場からすぐにでも立ち去りたくなった。だが、逃げようとするも足は未だに石と一緒、動けない。
何もできない私がすることはいつも1つだった。
「ご、ごごご、ごめんなさいッ!」
なぜか謝り、言葉と矛盾した攻撃をザクロにちょうど7発撃ちこむ。怒りの感情など既になく、あるのは100パーセントの恐怖だけだ。
がむしゃらに撃った弾ではあったが、距離が近いこともあり全て命中する。頭、心臓と急所は外してしまったが、腹部に3発、左足に2発、左肩と右腕に1発ずつと、ダメージとしては十分すぎるほど与えたはずだ。
「……がっ…、……ゲホッ…ゲホッ…!」
ザクロの口から血が吐き出される。吐血を始めて見た事と、不本意に起こった現象に血の気が引くのを実感した。
本来なら赤黒いはずの血が、石の照明の影響でやや緑がかって見えた。私にはそれが異様に不気味で、背後に下がりながら飛び上がる。致命傷を与えた事で、いつの間にかザクロの結合が外されていた。
だが私はそれに気がつくこともなく、ただただゆっくりと後ずさる。黄鐘時代にも他人を殺めた経験のないダメ兵士だった私が、自分が人を死ぬ手前まで持っていった事が信じられず、同時にそれが恐ろしかった。
右手で口を覆い、ガクガクと震えながらもザクロとの距離は開いていく。遠ざかる事で石の光は次第に届かなくなり、ザクロの姿も、血も見えなくなる。それで安心したのか、私の体からフッと力が抜けた。
恐怖と疲労に襲われ、私は眠るように背後に倒れる。しかし、倒れた先に床はなく、一瞬にして天井は夜空のような星の空間に変わってしまった。
既にここは、ヴァルハラではないと私は直感で感じる。
永遠に近い時間、私は落ちている感覚を覚えた。霞む視界の中、寝返りを打つように顔だけ右に向ける。一瞬映った緑色の光の先に、本当に微かに、懐かし人達が見えたような気がし、そのまま気絶してしまった。
「ほらみっちゃん、ちゃんと背負わないとその娘落ちちゃうよ」
「わかってますよ。よいしょっと…」
「あれ? 今なんかこの辺の草光らんかった?」
「んー? いいや、光ってないよ。そんな事いいから、早くうちに連れて帰って寝かせてあげよ」




