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世界に叛く異草花  作者: にぼし
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 そして私の魔弾がザクロの手を貫く––––事はなかった。

 視力が強化された状態だったから、私には何が起こったのかはっきりと解る。弾と掌がぶつかる瞬間、まるで水たまりに水滴が落ちたかのように混ざり、同化する。

 これは紛れもなくザクロ自身の結合ロックのチカラで、それ以上でもそれ以下でもない。ただ私を意気消沈させるには十分すぎた。

「うそ…」

 力が抜けていくのを感じる。私はその場に崩れるように座り込む。たったの一発だ、諦めるにはまだ早い、なんて考えることもできなかった。

 結合ロックのチカラで吸収したという事は、すべての攻撃は無駄となる訳で、抵抗の余地もないと直感で感じたからだ。

 諦めたのが運の尽きで、そのまま私の足は石のように動かなくなってしまったのだ。接着されたかのように、1ミリさえ動かせない。

 それもそのはずで、私の足は床の石と完全に同化していた。見るとザクロの右手は床についている。

 長い仕事を終えたかのように満足そうな顔をし、ザクロは蜘蛛のようにゆっくりとえさに近づいてくる。

 目の前まで来ると今度はしゃがみ、顎をクイッと上げられる。私は自分の終わる姿を見たくないと思い、目と、ついでに鼻の強化を解除する。もう何も見えないし、甘い香りも感じない状態。早く殺してくれと願う始末だ。

 暗闇の中で、頼りになる感覚器官はもはや耳だけ。その耳に伝わるのは死神のように残酷なザクロの声だ。

「無駄に長かったな」

 本当にそうだと思う。ほんの少しでも希望を抱かせた事を恨みたい。この時間こそが、私を思い上がらせた張本人だ。

 けれども、もうそれもどうでもいい。諦めたからこそ、私は強化を解いた。

 そんな私に追い打ちをかけるように、ザクロは続ける。

「君も君なりに頑張ったんだよ? 胸張って僕のチカラとなってくれたまえ」

 上げられた顎を下され、今度は頭をがっしり片手で掴まれる。まるで洗脳かアイアンクロー。それほど力は入っていない。

 何も見えない暗闇の中で、唯一私は人間の本性を見た。ザクロのその言葉は、死神とは打って変わり、笑いを含んだそんな声に聞こえた。

 もう最期と思うと、動かなかった口の筋肉は無意識に動き出す。

「人間って、怖いですね…」

「それでもなお、人間は素晴らしい」

 ザクロに言葉を付け加えられるが、もう何も言わない。私はこの言葉を人生最後の言葉にしようと思った。

「停滞は人間最大の失敗だ。進まなければ変わらないし、変われない」

 ザクロは最後にそれだけ言い、結合ロックを始める。私の吐く息が掴まれたザクロの手に当たり、波打つ。

 それを見て同時に、私は停滞を打ち破った。不覚にもそれはザクロの言葉に後押しされ、1発の弾丸となって放出される。

 その弾丸は私の砕いた床の石を2つ弾き、両サイドの壁に反射してザクロの右肩と腹を貫く。

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