一難去ってまた一難
不安要素といえば、こちらにも3つほどある。
甘い香りはかなり下から感じること
天井でも同じだが、音で位置が気づかれる可能性があること
魔力の残量
1つあるだけで不安になるのに、神様はこの苦行を乗り越えろというのか。今の私に憑いている神様は、きっと貧乏神に間違いない。
中でも1番は最初のかなり下から感じることだ。甘い香りに混じって感じる火薬の匂い、それ以外が地下から全く感じられない。地下何階、というものが存在せず、そこだけしかない可能性が高いのだ。
撃ったところで穴は開かず、魔力が減り、音で居場所を気づかれる。最悪のパターンだ。
けれども、それ以外に方法がなく、私は覚悟を決める。穴を開けない、という考えは捨ててしまった。それが運の尽きだったと、1発撃った後に気がつく。
「やっぱりダメか」
大体予想通り、最悪のパターンが私を襲う。少し生き急いでいた、と今更ながら実感して深いため息が漏れた。どうして踏みとどまらなかったのか、冷静に考えれば解っていたはずだ。
後悔先に立たず、次の策を考えるのがベストだが、自分の頭の弱さ加減に肩を落としてしまう。軍師様は偉大さに敬意を表す。
とにかく、急いでここから離れなければザクロ様に追いつかれるかもしれない。行き止まりを背にし、床を蹴る前に、私は振り向いてもう1度自身の抵抗の跡を見た。
砕けた床が私に虚しさを与える。その程度か、と嘲笑われているようで腹立たしいが、実際この程度なのだ。地団駄踏んで悔しがることでもない。自分自身、それを理解しているから、開き直るとため息を漏らした事さえ馬鹿馬鹿しくなる。
一通り自分を馬鹿にして、私はようやく床を蹴る。ここでの葛藤はスタミナ回復にもなり、走るスピードは上がっていた。これだけが救いだと思った矢先、私の視界はほんの一瞬だけ真っ暗に閉ざされる。
何かにぶつかった。柔らかくて、弾力性のある謎の物体。私はそれに埋まり、跳ね返されて尻餅をつく。
「あいたたた…、何にぶつかったの」
スカートについた汚れを払いながら立ち上がる。前を見ると、石の壁とミスマッチの薄い水色をしたぷにぷにの壁が完全に道を塞いでいる。私は閉じ込められた事を覚悟した。
しかし、その覚悟は呆気なく無駄なものに変わる。ぷにぷには一瞬にして消えてなくなり、再び道が顔を出した。
今のは何だったのだろうと考えるが、何事もなかった、と取りあえず一安心する。その直後に、私は背後に気配を感じた。多分ぷにぷにで尻餅をついた時からずっと居たのだろう。落ち着いて初めて察知した。
その気配は当然、ザクロ様という事になる。
「ヘイ、ストップ」
振り向くに振り向けず、私は足を震わせながら強く拳を握る。




