運で生きてきた
台詞が1つしかないです…
あわよくば甘い香りを追いながら逃げたかったが、ちょうどその方向がザクロ様のいた道だったから、この逃走は現在進行形で失敗に向かっている。
けれども、そんなことは言ってられない。命あってこその人生、ここで諦めては嘘をついた意味がない。
最低な事をしたのだから、最後まで最低を貫き通す覚悟はしていた。私はひたすらに走る。
ややあって、私は独り言を言うようになる。
「嘘…、また行き止まり…」
これが1回目ではない、もう既に3回は体験した。ここに住む人は不便そうだ、といらぬ心配をする。
城の廊下は迷路状になっており、曲がっては行き止まり、曲がっては行き止まりが多数あり、上手く逃走することはできない。一応行き止まりにも部屋の扉はあるのだが、開いても部屋から部屋につながる扉はないため、私はその道を戻り、その途中で自分のチカラのことを考える。
このチカラは、ある程度敵との距離が離れると効果が薄くなり、最終的には消えてしまう。逃走との相性は最悪、だが相手の決死の行動で痛手を負うより、時としてこちらの方が有効な場合もある。今回がそれとは言えないが、私自身慌てていた。
どこへ行っても行き止まり、私は完全に方向感覚を失ってしまっていた。最初に迷わなかったのは甘い香りを追いかけていた所為だったのだ、と今更ながら気付く。
そしてこれもある程度走ってから気が付いたことだが、思い切り走れるのも視覚を強化して明るくしたからだ。これがなければ今頃私は壁に手を当て、ゆっくりゆっくりと歩いて逃げるしかなかっただろう。この状況でタッタと足音を立て、全速力で走る事がどれほど強みになるか、初めに苦を体験していない私には知る由もなかった。
私自身、今まで運で生きていたような人間だったから、ここにきてそのツケが回ったのかもしれない。
息切れが私の思考を鈍らせる。
ずっと走っているとやはり体力は消耗する。実家の畑仕事で体力には少し自信があるが、それにも当然底はある。電池の切れかけたモーターのように、足の回転効率が悪くなるのを感じる。
私はまた不安になってきた。ザクロ様から逃げ出して、もうすぐ5分ほどになる。あの怖い人のことだ、回復能力くらい自分に混ぜている可能性が高い。追いつかれるのも時間の問題かと、天井に穴を開けて2階に行く事を考えてみる。
いや、2階はダメだ。2人から離れることになるし、大穴が天井にあれば怪しまれる。
ならばその逆の発想をしてみる。甘い香りは地下から香るのだから、直接下に穴を開ければいいと。




