強化と弱体は紙一重
不気味な笑みを浮かべ、ザクロ様は自身の能力を説明する。なるほどこれなら私を欲しがる理由も納得がいく。チカラだけを抜き取れば、私の性格は関係ないのだから。他の兵に混ぜるなり、自分に混ぜるなり好きにして、私をゴミ同然のように捨てる、とそういう事だ。
ザクロ様のチカラ、聞いて、体験してその恐ろしさがよくわかった。ぽろぽろと崩れる私の体、無重力中に液体を撒いたように、体から肌の色や服の色の丸い球体になって剥がれ、それがぷかぷかとザクロ様の周りを回転している。球体のカラフルさも相まり、なかなかファンシーだ。
なんて私が考えていられるのは、ただのやせ我慢でもなく、強がりでもない。遠くから僅かに聞こえる逆転の囁き、私はそれをこの極限状態の中聞き逃さなかった。
『きゃぁぁぁぁ』
誰かの悲鳴、何処から聞こえているのかはわからないが、その声は大いに私の耳を刺激してくれる。これだ、と。
しかし、成功するという確信は当然の権利のように無い。一か八かの賭け、というかこんな人生の終わり方は嫌だ。肩が無いだけで、その延長線上にはまだ消えていない手がある。私はそれを銃の形に変え、最後の抵抗を試みた。
「…ッ!」
ザクロ様が喉から手が出るほど欲しがっていた私のチカラ、その内2発をお腹に撃ち込んでやる。それを受け、この人はその撃たれたところを見る。当然、血は出ていないし痛みもない。むしろ当てられた事に気がつく事さえ困難なこの弾に反応した事に私は素直に驚く。
弾を撃ったすぐ後、私の両手は剥がれて球体になり、これ以上の抵抗は不可能となっていた。だがこれで十分、私は思い切り息を吸い込む。
「わ!!!!!!」
謎の悲鳴が与えてくれたヒントを基に、これ以上ないくらい声を張り上げる。強化させたのは聴覚と、ついでに触覚の2つ。
ザクロ様は強化された聴力の所為で、普通に聞いてもうるさい「わ」、が耳を劈く程の音になっているはず。ザクロ様はうるさいとも言えず、勢いよく耳を塞ぐ。それが狙いだった。
今度は強化された触覚が牙を剥く。勢いよく耳を塞いだ事で、手と肌が触れ合う音と、塞いだ事により耳に閉じ込められた空気が爆発音のごとく鼓膜に追い打ちをかける。ザクロ様は言葉も出さずに苦しむ。叫べば自分にダメージが入ると解っているからだ。その場でうずくまり、呼吸を荒くして大量の汗をかいている。
結果、ザクロ様の能力の侵食が止まり、私の体から離れていったパーツが次々に戻ってくる。両手、肘、肩、胴体少々。私は完全に元に戻った体を引っさげ、極力ザクロ様との距離を稼ぐため、甘い香りを取り敢えず諦め、城の中を走る。




