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世界に叛く異草花  作者: にぼし
29/42

不正解

 私は昔を思い出す。鮮明には思い出せないのは、その時間を適当に流していたからだろう。

 私はこれまで、この感情に支配されたことがない。それ以前に、悔しいなんて無縁だった。

 姉さまに何か言われても、兄さまに何かされても、私はずっと話半分で聞き、まともにそれを受け止めた事なんてなかった。どんなことを言われたかも覚えていない。落ちこぼれと言われたことだけは覚えているが、それもどうという事はない。

 私自身、それを楽しんでいた。

 私を蔑むための言葉、行為、その全てを適当に流し、逆に相手をイライラさせる、それが楽しかった。何を言われようと、何をされようと、どうでもよかった。

 私にとってこの世界での生きがいは、もしかしたらそれだったのかも。なんとも性格の悪い話だ。

 今そう考えると、そんな私は消えて正解なのかも。

 しかしながらうまくいかないのがこの世界の真理、弱い私はやはり逆らえない。世界の真理には。

「やめ…て…」

 なぜか私は今、私を保っている。過去の事、今の事、悔しいという感情が私を呼び起こしているのか。今どうしてこんなことになっているのか、そんな事を考える余裕さえ出てきた。

 私はこの世界から抜け出すため、特別を求めないために今ここにいる。姉さまになったところでいい事はない。それは当然の事。この上ない最悪な状況。

『くっ…、一体何が…』

 大量に流れてきた姉さまの情報が、未だ侵食できない事に戸惑い、焦りさえ感じる。何しろ私の頭の中、感情はストレートに伝わる。

 頭の中の雨が、だんだんと止みそうな気配を見せ始める。視界の霧が晴れ、遠のいた意識はほんの少し戻ってきた。

 けれども、私は抵抗しているつもりもなければ、助かりたいと思っているわけでもない。むしろ身を委ねている。

 無意識のうちに抵抗している、そういうわけなのか。

「やめ…て…!」

 動かぬ体でそう訴える。私を返せと。

『あと少し…、あと少しなのに…』

「返して…」

『どうして止まったの…、なんで…』

「返して!」

 残った意識の中、とっさに思いついた行動を起こす。統率ハックの複製に効くのなら、同じ状況の私にも、と鎮心バックを自身に使う。

『やめろ…やめて…』

 頭がスッとしていく。デタラメに書き換えられた私、まるで頭の中に消しゴムをかけたかのように、いつも通りに戻っていく。

『そんな…まさか…』

(不正解か…)

 先ほどまでと逆の立場、消えゆく姉さまに、私は頭の中でそう伝えた。もちろん、ずっと倒れた私の事を心配し、この問題を出した人にも。

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