今から私
扉を開けた先、中にあるのは今までと変わりなく保存食。違う事といえば装備が置いてある事。かなり旧型のライフル銃、今ではこんなもの使われない。
そもそもがこのヴァルハラ、銃なんて一切使わない。爆弾はたまに使われるが、今は魔力で制御できる特別製の物が増えた。
基本的には指から魔力を放出させて攻撃する。他にも能力を応用させたフィジカル強化による接近戦––––姉さまの部隊がそれ––––や、敵に毒や眩惑を負わせ、味方をサポートする部隊などがある。
その全てに不必要なこのライフル銃、しかもかなりの数。何の為に使われるのか疑問には思ったが、先ほどの悲鳴の前には全て消えてしまう。
「敵の生き残り…?」
服に付いている敵のシンボル、それを見て判断し、呟く。見た目弱っちい少年、見たところ血や泥など付いていない。そこから考えるとさっきここへ逃げてきたというわけではなさそうだ。
その少年はまるで天敵にでも見つかったかのように部屋の隅へと逃げ、必死にこちらへ来るなと大量にあるライフル銃を1つ手に取り、私たちに向ける。
「おまえはリンドウの……、何しに来た!」
ありったけの勇気を振り絞っての脅し文句、相手にとってはそうだろうけど、私たちには通じない。逆に虚しささえ覚える。
「はぁ…、相手にしてる時間はないわ。別に何もしないから、黙ってて…」
冷たく言い放ったそれは少年に向けられていない。眼中にないし、部屋全体に言った感じだ。私たちには時間がない。たった1人の人間に向ける時間さえもだ。
頭では別のことを考える。
おそらく姉さまが先ほどの悲鳴を聞きつけてこちらにやって来る。怯えきった少年など、さほど問題ではない。放っておいたって何も出来ない臆病者だ。
部屋に入るまでもないと思い、私たちは今来た道を戻ろうとする。
「待ちなよ…」
背後からの銃声の後、冷たく黒い声が響いた。さっきの私の言葉よりも冷たい、残忍な声。ライフル弾は私の頬を掠めて壁にめり込んだ。
私はその声に疑問を覚える。
当然声は少年の物だが、どこか違うのは明らか。まるで何かに取り憑かれたかのような声、振り向いて見ると少年は次の弾を込めていた。
「…、何の真似…」
私がそう訊いた時には既に弾は込められており、自分の頭を指でトントンと叩き、
「真似じゃない、この少年はたった今、“私”になった」
「…姉さま……」
目の前の少年をそう呼ぶ。
少年はもう一度引き金を引く。今度は足元、狙って当てなかったようだ。再び弾を込め、銃口をこちらへ向ける。
「次は当てる。私が来るまで大人しくした方がいいよ」




