消される前に
リンドウが動いたのはいつ以来だろう。いつから私は能力を使っていたのだろう。いつから私は自分の身体を傷つけ始めたのだろう。それが日常になっていたから、辛いとか思うこともなく、その所為ですっかり忘れてしまっていた。
今、敵の城へと戻るのは過去の自分に決着をつけるためか、それとも未来の自分に会いに行くためか。今までを振り返り、前者だという事に気がつく。逃げていたんだ。
薬を断ち、能力も使うのもやめた。私は逃げる事から逃げた。その結果が今日の戦い。リンドウは圧倒的戦力差を見せつけ、数十分もせずに敵勢力の1つを落とすはずだ。
勝って何をするのだろう。宴か、酒盛りか、馬鹿らしい。結局意味なんてない。
堅き鉄の意志が、脆き石を砕く。
「終わったのかな…」
そう判断したのは、音だ。姿は見えないが、手で繋がっているコモモに尋ねる。
「多分、ね」
落ち着いた声で答えたコモモは私の手を引き、裏口か何かを探しに行く。
すでに敵城に到着。私たちと城との距離が近くになるにつれ、音が静かになっていくのを感じた。おそらくだが、もう生きているのはリンドウの人間だけだろう。敵勢力は全滅か、はたまた裏切りリンドウに着いたか、2つに1つ。
ここはしばらくしてリンドウの支配下に置かれるだろう。訓練施設か、臨時拠点か、使用方法は様々。そうするのに邪魔なのが「空間の弱い場所」、姉さまに消されるその前に忍び込み、どこか遠くへ逃げなくては。
「裏口はないわね。危険だけど、城門前に行きましょう」
城の壁に沿って探していたが、どこにも入口はない。そこでコモモは勝負に出る。味方が退却している城門からの侵入、なかなかにスリル満点。
「やるしかないよねぇ…」
覚悟を決める、その行為に時間はかからなかった。今、私はすでに覚悟してここに来ている。危険もあるだろう、苦難もあるだろう、それも昔を思えば今更だ。
城門へまわると、予想通り味方が退却を始めている。姉さまと兄さまの姿が見当たらない。すでに消す作業に取り掛かっているのか、だとしたら急がなければ。
門のちょうど端を進む。幸い、味方は真ん中を通っていたため、思いの外楽に侵入できた。
誰も私たちに気がつかない、本当に透明になっているんだ、と少し興奮する。
「それで?」
「なに?」
城の廊下を進みながら、コモモが何の前触れもなくそう尋ねる。が、私もなにのことかわからない。
そう尋ね返すと、
「さっきの名前の話。ハレン様につけてもらった名前、変えちゃうって事?」
と尋ねられる。顔が見えないからどんな表情をしているのか判断できない。だが声は優しい声だった。
ここに来る前に適当に言ったことを思い出し、廊下を歩きながら考える。当然なにも考えていない。
こんな事になるなら何も言わなければよかった、と今更ながら後悔する。捨てる事を後悔していないのに、私自身、変わったと思う。
そう考えていると、1ついい事が思い浮かんだ。
「ねぇコモモ。凪、って知ってる?」




