表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に叛く異草花  作者: にぼし
21/42

消される前に

 リンドウが動いたのはいつ以来だろう。いつから私は能力を使っていたのだろう。いつから私は自分の身体を傷つけ始めたのだろう。それが日常になっていたから、辛いとか思うこともなく、その所為ですっかり忘れてしまっていた。

 今、敵の城へと戻るのは過去の自分に決着をつけるためか、それとも未来の自分に会いに行くためか。今までを振り返り、前者だという事に気がつく。逃げていたんだ。

 薬を断ち、能力も使うのもやめた。私は逃げる事から逃げた。その結果が今日の戦い。リンドウは圧倒的戦力差を見せつけ、数十分もせずに敵勢力の1つを落とすはずだ。

 勝って何をするのだろう。宴か、酒盛りか、馬鹿らしい。結局意味なんてない。

 堅き鉄の意志が、脆き石を砕く。

「終わったのかな…」

 そう判断したのは、音だ。姿は見えないが、手で繋がっているコモモに尋ねる。

「多分、ね」

 落ち着いた声で答えたコモモは私の手を引き、裏口か何かを探しに行く。

 すでに敵城に到着。私たちと城との距離が近くになるにつれ、音が静かになっていくのを感じた。おそらくだが、もう生きているのはリンドウの人間だけだろう。敵勢力は全滅か、はたまた裏切りリンドウに着いたか、2つに1つ。

 ここはしばらくしてリンドウの支配下に置かれるだろう。訓練施設か、臨時拠点か、使用方法は様々。そうするのに邪魔なのが「空間の弱い場所」、姉さまに消されるその前に忍び込み、どこか遠くへ逃げなくては。

「裏口はないわね。危険だけど、城門前に行きましょう」

 城の壁に沿って探していたが、どこにも入口はない。そこでコモモは勝負に出る。味方が退却している城門からの侵入、なかなかにスリル満点。

「やるしかないよねぇ…」

 覚悟を決める、その行為に時間はかからなかった。今、私はすでに覚悟してここに来ている。危険もあるだろう、苦難もあるだろう、それも昔を思えば今更だ。

 城門へまわると、予想通り味方が退却を始めている。姉さまと兄さまの姿が見当たらない。すでに消す作業に取り掛かっているのか、だとしたら急がなければ。

 門のちょうど端を進む。幸い、味方は真ん中を通っていたため、思いの外楽に侵入できた。

 誰も私たちに気がつかない、本当に透明になっているんだ、と少し興奮する。

「それで?」

「なに?」

 城の廊下を進みながら、コモモが何の前触れもなくそう尋ねる。が、私もなにのことかわからない。

 そう尋ね返すと、

「さっきの名前の話。ハレン様につけてもらった名前、変えちゃうって事?」

 と尋ねられる。顔が見えないからどんな表情をしているのか判断できない。だが声は優しい声だった。

 ここに来る前に適当に言ったことを思い出し、廊下を歩きながら考える。当然なにも考えていない。

 こんな事になるなら何も言わなければよかった、と今更ながら後悔する。捨てる事を後悔していないのに、私自身、変わったと思う。

 そう考えていると、1ついい事が思い浮かんだ。

「ねぇコモモ。凪、って知ってる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ