永遠の別れ
帰り道に感じられたのは、爆発、血の匂い、立ち昇る煙、辺りを燃やす炎の熱。この世界は、主に味覚以外の4つを刺激する事に特化している。まるで精神を少しずつ紙やすりで削られているよう、それも戦争反対の思想を持った極少数の考えだ。
凹凸が無くなり、滑らかな光沢を得るならまだしも、その紙やすりは一点を集中して削るため、凹んで最後は穴が空く。その穴が意味するのは、発狂とか絶望とか、そういったマイナス。終着点はない、堕ちていくだけ。
上がりたいとか、戻りたいとか、そんなの考えるだけ無駄。だったら綺麗に、誇れるように堕ちていけばいい。それもおかしいけど、探せばいい。堕ちた私を受け入れてくれる、そんな場所を。
戻り始めて少し経った。今は第1ポイント辺り、城では未だ姉さまと兄さまが敵と戦いを続けている。敵が落ちるのも時間の問題だろう。こちらもいよいよ最終局面だ。
「服は?」
もらった薬を摘み、くだらない事をコモモに尋ねる。透明になる薬だ。服を脱がなければ完全に消えられないだろう。
が、現実は違ったようで、コモモは目立たないようにクスリと笑い、
「年頃の女の子に脱げなんて言えないわよ。身に付けている物も消えるわ」
「流石ね。ちょっと安心」
実際、脱ぐ気などさらさらなかった。能力を使いながら進めば、戦場を無傷で歩くことさえ可能だからだ。しかし、消えるとなると話は別。コソコソと忍べばいい。
第1ポイントを越えるか越えないかの所、そこで歩幅が小さくなる。
「お別れ…、ね」
冷たい声が自然と出る。心残りや後悔は無い。私やコモモ以外にも戦争を反対する人が1人いた。その娘を残して行くのは心苦しい気もするけど、彼女にはコモモの後継人としてリンドウに必要なんだ。勝手なのは生まれつき、だから謝らない。
右手をコモモに左手に預け、深呼吸する。
(じゃあね。大っ嫌いな世界。最高の永遠の別れよ)
心の中で呟き、いよいよ薬を飲む。変化は目に見えてわかり、最初は足、そこからどんどん上がるように消えていき、数秒で完全に透明となった。
私は今、左手を見ている。見ているはずなのに見えていない、感覚がおかしくなりそうな状態、服も確かに消えている。原理はわからないが、コモモが天才という事にしておく。
「どう?」
隣にいて、そう尋ねるコモモもすっかり透明。表情も見えないが、おそらく笑っているだろう。
「うん、良いよ。行こっか…」
手を離せば見つけることはほぼ不可能になる。離れないようしっかりと握り、戻ってきた道を再び戻り、敵の城を目指して歩く。




