新しい自分
視力を強化してもらっているため、敵の城の屋上で、パタリパタリと人が倒れていくのがわかる。残るは数十人、見たくはないけれど、最後の仕事と思って目を瞑る。
ふと屋上から目を離し、姉さま、兄さまが戦闘をしている場所を見てみる。
思った通り、酷い有様だ。何が酷いって、敵がボロボロだったりバラバラだったり、人のする事とは思えない。おそらく、ボロボロは姉さまの、バラバラは兄さまの部隊の仕業だろう。
見たくないものは見なくていい、の言葉を思い出し、再び屋上を見てみると、残りは数人になっていた。敵は姉さま、兄さまの部隊との戦闘で目一杯、こちらからの狙撃に気がつく事もなく倒れていく。
「3…、2…、1…、よし」
屋上に立つ人がいなくなったのを確認し、この目を戻してもらうためミラの方へ向かう。医療班の現場の勉強、としてついてきたけれど、狙撃じゃあ勉強にもならないだろう。
「ミラ、もういいわ。戻してくれるかな?」
いくら強化されているとはいえ、いや、寧ろされているからこそ、集中してしまうため、目が痛い。私は目頭を押さえ、ミラにそう頼む。
「はい、了解しました!」
そう言うとミラは、再び私に銃のようにした手を向け、指から魔力弾を撃つ。今度も痛みはなく、何かが抜けていくような感覚があった。
「……うん、戻った、ありがとうね」
「あっ、ヒナ様……」
ミラにお礼を言う隙を与えず、私は狙撃を終えた部下達の元へ向かう。
狙撃を終え、部下達は誰が一番倒したか、などとくだらなく、恐ろしい事を話していた。人の命を奪って笑っている、戦争というものは人の心を変える、言わば感染症のようなものなのだろう。
「みんな、次のポイントまで行くよ。だらだらしてないでさっさと動く」
先ほどと同じように、「はーい」や「りょーかい」、と気だるげに返事をし、部下達はその中のリーダーについてポイントまでの移動を開始する。
「働いてるわね」
最後尾について歩こうとした私に、後ろからコモモが話しかけてくる。
「まぁ、みんな面倒くさがりでも戦いは好きなんだ…」
「違うわよ。ヒナの事。てっきり最後だから適当に指揮するのかと思ってたわ」
途中で遮り、コモモが言う。説教とも、皮肉ともとれないその言葉は、どこか優しさを感じた。
「見納め、かな。みんなの表情とか、爆発とか、バラバラ死体とか、忘れないようにね」
「忘れたいんじゃなかったかしら?」
「いいや、忘れちゃダメなんだよ。比較対象がなくちゃ、次の世界での生活を楽しめないからね」
期待を込めた笑顔をコモモに見せ、やや矛盾していると理解しつつ続ける。
「でもね、いつかは忘れるつもりだよ。目を閉じて、あぁこんなこともあったな、って思い出さないように、次の世界で沢山思い出作るんだ。新しい自分になってね」
「新しい自分? 例えば?」
ゆっくりと隣につき、楽しそうに私の言葉を聞いていたコモモが言う。が、その問いに私はすぐに答えられなかった。考えてはいたものの、具体的にはまだだったからだ。
そんな事を話していると、既に次のポイントのすぐ近くまで来ていた。着く前に返そうと必死に考え、適当な答えを思いつく。
「そうだね…、名前、とか?」




