合図だ
「えっ…⁉︎ いやっ、あのぉ……、そ、それはどういう…?」
ミラが私の予想外の反応をする。予想では「はい、わかりました」、と言って撃ってくれると思っていたのに。自身の能力を忘れてしまったのだろうか。
あわあわしているミラを見るのも面白いが、いつ合図が来るともわからない。他の部下達に怪しまれないよう、あまり多く喋りたくなかったけれど、ミラなら大丈夫だろう。
「これ、眼よ。視力を上げて」
そう言いながら指で両眼をアピールする。
「えっ! な、なぜヒナ様が私の能力を……」
「お馬鹿。履歴書に書いてあったわよ。それで採用したんだから」
姉さまと兄さまの手に渡らないように、とは言わないでおく。恩は売りたくないし、言っても解らないだろう。
私が指摘すると、ミラは「あ、そ、そうでした…」と微笑み反省する。
なんだ、こういう顔もできるようになったのか。これまた口には出さないが、心の中でよしよし、と満足する。
「ほら、早く早く。合図が来ちゃう」
「は、はいっ! では10倍ほど…」
サプレッサーを付けた様な弱い音と共に、ミラの指から放たれた魔力弾は私のこめかみにヒットする。
痛くはなかったけれど、当たる一瞬に眼を閉じてしまった。こめかみから何かが中に入ってくる様な感覚、実際には弾は当たった瞬間に消えたけれど、なんだか点滴が血の中に入ってくる様な、そんな感じがする。
「んっ…んん…」
「ど、どうでしょうか。おかしければもう少し弱く…」
ミラが心配そうに尋ねてくる。答えないとかわいそうだ、と思い、ゆっくりと眼を開けようとする。
閉じていた眼を開くと、見たことのない様な世界が広がっている。
「すごい…」
さっきまで遠くて大まかにしかわからなかった城が、今は屋上にいる人の顔までくっきりと見える。それこそスナイパースコープを覗いたかのように、それでいて近くが疎かになることもない。
「えへへ…良かったです」
私の驚ききった顔を見て、ミラは大層嬉しそうに照れている。それこそデレデレ、戦場でよくもまぁこれだけのいい笑顔を見せられるものだ。もちろん、良い意味で。
しかし、それと同時に恐ろしい。この娘が臆病な性格で本当に良かった、と心底思う。これで視力以外もこんなに強くできたなら…、それを姉さまと兄さまが悪用したら…、考えるだけで震えてしまう。
「ミラ、ありがとう。合図が終わったら治してくれるかな?」
「は、はいっ! 了解しました!」
敬礼をし、自分の持ち場…コモモのそばに戻る。
戻ったのを確認すると、再び城を見つめる。
「みんなー、合図がきたら撃てっ、っていうからね。わかったー?」
部下達に確認を取ると、「はーい」、「わっかりましたー」、と口々にやる気のない台詞を口にする。
まぁ、当ててくれれば良いのだ。敵が手薄になればわたしとコモモは…
などと考えていると、こちらから見ると城の裏側から突然煙が立ち上り始める。合図だ。
「…!!! よし、撃てッ!」
私の指示で、部下達は一斉に銃のような形にした手の指から、狙撃魔力弾を屋上から応戦する敵兵狙って撃ち始める。撃ちこぼし無し、さすが遊びで鍛えた狙撃力、褒められない。
「よし! みんなどんどん撃て! 一通り倒したら前進するよ!」
ミラさんの能力の詳細は、本編の「世界に捧ぐ幻想花」で詳しく知ることができます。…宣伝ですごめんなさい。




