異なる物
ウィークポイント…、どれほど固い氷の塊でもある一点を突けば簡単に砕け散る、それと同じように万物には必ず脆い部分がある。それは空間でも同じだ。
空間が弱い場所には必ずと言っていいほど「異物」がある。広大な森の緑に紛れる樹氷、洞窟の中にある神秘的な場、まるでそこにいるのにそこにいないような、そんな場所。もっとも、空高くが弱ければ、重力によって異物は存在しない。
そんな異物がこれ、と言うよりもここだ。この石造りの城自体が異物であり、ヴァルハラの世界情景に合っていない。
つまりは、「この城は空間が不安定で、別の世界へと逃げられるかもしれない」、という事だ。
「侵入?」
私たちの前を行く部下たちに聞こえない、悟られないように、コモモが必要最低限で質問をする。
「だね。さっきの薬が早速役に立ちそうだ」
小さく首を縦に振る。必要最低限で返そう、とも思ったが、噂で知っていただけで実際に見た事のなかった異物の所為か、そこまで頭が回らなかった。
城が目視できるようになったここは、この作戦の黄鐘の待機ポイントでもあった。何の遮蔽物もないこの場所、敵からしたら私たちはお間抜け部隊なのだろう。けれど、問題はない。
遠距離狙撃の得意な我が部隊、遮蔽物がなければ、これほどの距離なら当てるのは造作もない。もっとも、狙撃が得意なのは訓練中にどれだけ遠くのものに当てられるか、という遊びをしていたからで、褒められたものではなかった。
「みんな、あとは合図を待つのみ、気合い入れなさい」
士気を高めるため、自分でも珍しく部下たちに声をかけてやる。失敗したって大丈夫、サポートがある事は心強い、と。
そんな私を、部下たちも少し不審に思っているようで、口々に「ヒナ様どうしたんだろう」、「珍しく真面目だ」、「偽物じゃないのか」、などと言われる始末だ。私もそう思う。
私だって、逃げるためじゃなかったらこんな事はしない。真面目じゃない、不真面目している。
文句を言いながらも、部下たちは次々と狙撃準備をし始める。ミラも狙撃はできたはずだけど、やはり医療班に徹するようで、準備している人を見ているだけだ。
城をじっと見つめながら、ただ合図を待つ。見逃したら逃げる事なんて不可能、失敗は許されない。
「ミラ」
「は⁉︎ は、はい…」
久しぶりにミラに声をかける。いきなりだったからか、ミラはいつも通りの人見知りを見せる。
そんな彼女に微笑みながら、私は続ける。
「私を撃ってくれる?」




