別世界の城
元々、私はこの戦争というものを理解していなかった。姉さまや兄さま、亡くなられた父さま母さまから教えてもらいはしたけれど、意味がわからなかった。
『戦争とは、生きる意味である』、そう母さまは言っていた。戦争をするために生き、死なないために敵軍を殺していく、それが全てだ、と。
確かに、戦争をするために生きるというのは理に適っている。敵を殺し、自分は生きるのであれば、単純に考えて優勢になるのはこちら側だ。
1人を殺せば落ちこぼれ、100人殺してもまだ足りない、なんていかれた考えが通っているこの世界では、とにかく自軍を優位に立たせる事が最優先なのだ。
自分という駒をいかにうまく使えるか、自分の命の事を考えるのは最小限に、いかに自分を殺す事ができるか。エリートとは、死んだ人格の持ち主なのだろう。
………、この世界に、生きている人間はいるのだろうか。そう考えた夜もあった。
「ヒナ、ヒナ」
靄のかかった意識は、私の名前を呼ぶ声できれいに晴れる。昔の事を考えていたようで、ぼーっとしていた私をコモモの声が現在に戻してくれる。
現在は敵陣に向かい進軍中、その最後尾に私とコモモはいた。前の部下に聞かれないように小声で話す。
「ん、あぁごめん。何かな?」
「何かな、じゃないわよ。はいこれ」
自身の医療バッグに入っている容器の中から透明な結晶を2粒取り出し、その1つを渡される。食塩のようなそれ、何に使うのかが気になり、考える前に口が動く。
「これ何?」
「透明人間って知ってる? 体が透けている人間のこと。それになれる薬、いざという時に使って」
小声ではあるが自信満々に答えるコモモは、残った1粒を容器に入れ、バッグの中に戻す。どうやらすぐに飲むものではなかったようだ。1粒だけ取り出すのが難しかったのだろう。
「よくもまぁこんなすごいものを簡単に作れるのね」
関心を通り越して呆れる。天才だからなんでもできる、なんて思ってはないけれど、そう考えるしか凡人にはできない。
「ちょっとは苦労したわよ。特に服ごと透明にする、って所が。裸なんて透明でも嫌だものね」
「だからその原理は…、いや、いいよ。いつも便利な物をありがとうね」
呆れを含んだ感謝の言葉だったからか、コモモは少し不満そうだ。だけど、100パーセントの感謝をしろと言われても、服ごと透明になれる薬なんて貰ってしまったら、誰でも少しくらいは怖くなる。
まったくコモモには驚かされてばかりだ。そのうち今以上に大物になるだろう。
そうこう話していると、敵の城が目視できる範囲まで移動していた。
前々から疑問に思っていた敵の城、リンドウや他の勢力の本拠地、もとい城は、機械めいた固くて冷たい造りになっている。
だが、この城だけは違った。まるで機械感を感じさせない石造り、叩けば壊れそうなのに、爆破しても壊れないその頑丈さ。
実際に見て、多分が確信に変わったのをコモモに伝える。
「ビンゴだね。これは渡界物だ」




