閉じた瞳
「今、何て言ったの?」
「捨てる、ヴァルハラとリンドウを捨てる、そう言ったよ」
コモモに言われて1日考えてみた。よく考えてみれば、私のしていた事はバカな事だ。そうする理由も、それを続けて自分が死ぬ理由もない。気がつくのが遅かった。
昨日と同じシュチュエーション。違うのは、薬が私の手ではなく、コモモの机の上に乗っているという事くらい。必要がなくなったから返した。
「………」
黙り込むコモモ、この人が言いたかったのは、そういう事じゃなかったのだろうか。私の思考は、この人とは違う方向に働いたのだろうか。私に背を向けて棚に薬をしまうコモモからは、何も感じ取れない。
自分の結論だけど、少し不安になり口を開く。
「気がついたの。私は目を開けていた、って」
振り返る様子のないコモモから目線を外し、設置されている窓にやる。遠くで煙が昇っているのが見える、爆発が起こったのだろう。窓の隣のボタンに魔力を当て、シャッターを下ろす。
「こういう事。目を閉じれば何も見えない、当然だけどね。私はバカ真面目に目を開けて見ていた、目蓋って便利なものがあるのにだよ。自分の事だけ考えてみたんだ、姉様の言う通り私はいてもいなくても一緒なんだよ」
極めて明るく振る舞う。自分の結論は諦めてのものではない、と、後ろを向いているのではない、と伝えたかったからだ。むしろ前を向いた結果、コモモはこっちを向いてくれない。
それでも口を動かし続ける。
「捨てる、未来は考えない。笑いたいでしょう? でもここでは笑えないの。だったら捨てて逃げればいい、かくれんぼみたいに、隠れてクスクス笑ってればそれで幸せ。……外界に行くわ」
「……!」
コモモの肩がほんの少し上がる。理由はわかっている、それは罪だからだ。ヴァルハラからの渡界、逃亡は大罪、追われて消されるのが運命。それを思っての事だろう。
「大丈夫、怖くない、死ぬよりはね。私の能力があれば…」
「もういいわ」
話を切られる。ようやく振り向いたコモモは、笑っている。
「私もついて行く」
「………うん、安心かな」
「そりゃね、泣いてる娘を1人で行かせられないわよ」
その言葉で自分の頬に何かが伝っているのに気がつく。指で拭ってみると、その通り涙で指が濡れる。なぜか笑いがこみ上げ、クスッと笑ってしまうと、もう涙は止まらない。
「ふふっ……私弱いなぁ」
「よくわかってるわ」
「………コモモさん、ヒナ様…」
自分の能力を使い、壁越しに話を聞いていた。話が進むにつれ、鼓動が早くなっていった。
「あれっ、ミラ何してるの?」
「ひゃっ⁉︎ せ、先輩…、えっと…少し目眩がしまして…」
早くなった鼓動は一気にスパーク、怪しすぎる言い訳と一緒に、冷や汗が出てくる。
「大丈夫なのか? 汗もかいてるし、もし熱があるなら寝てなよ。そろそろリンドウがヴァルハラを制圧する作戦がはじまる、薬の大量生産が始まるぞ」




