涙のように透明な
周期、次が来ればもう私はこの世にはいないだろう。戦争のない世界を見られないのは残念だけれど、結果が大事だと考えればそれでいい。
コモモは反対していたけど、今はこの計画を受け入れてくれている。わがままな私の最後のお願い、思えば苦労をかけた、姉さまや兄さまと喧嘩した時はすぐにコモモに泣きついて、慰めてもらった事がまるで昨日のように思える。
「で、姉さまのができているんだから、私のもできてるよね」
「もちろん、一番最初に作ったわよ」
棚から小瓶を手に取るコモモ、かなり重要な薬なのに、他の物と一緒に目立つところへ置いてあったのに驚いたけど、木を隠すなら森の中、と同じことなのだろう。
小瓶の中には透明な液体、水のように見えるそれはこれまた禁忌と呼べる品だろう。しかし同様に、それを裁く法はここにはない。
「ありがとう、味とかつけた?」
受け取ったそれをまじまじと見つめながら尋ねる。
「つけてない、食べ慣れたレーションとかの味がよかったかしら?」
「いいや、苦くないのならいいよ」
事実、レーションもそんなに好きじゃない。ミラの家族のような人達が作った野菜や米で作られた特別なレーションは、美味しくなくはないけれど、食べたいとも思わない。失礼な事だとわかっている、でもレーションで食べるくらいならそのまま食べたい。
「さて…あと何日で限界がくるかな、なんだか楽しくなっちゃうね」
「ヒナ、無理してない?」
用は済んだから、部屋を出ようとしてコモモに背を向けた時、そう訊かれる。なんでそんな事を聞かれるのだろうか、私は笑っていたのに。
「無理してるよ、ずっとチカラを使い続けてるから…」
「そうじゃなくて」
初めてコモモに言葉を遮られる。今までは私の言葉を全部聞いてから何かを言っていたのに、驚いて少し戸惑いを隠せない自分がいた。
振り向くと悲しそうな顔をしたコモモ、どうしてそんな顔をしているのか、私にはわからない。
「私が言いたいのは、『死にたくない』んでしょう、って事。わかるわよ、ヒナの作り笑いも、やせ我慢も。長い付き合いなんですもの」
「………」
「何か違う方法だってあるはず、ヒナが犠牲になる必要はないわ。例え汚くて卑怯な方法でも、ここを捨てて1人で逃げるとか、そういう欲を少しでも………、ごめんなさい、今のは忘れて」
「うん…、私落ちこぼれだから、もう忘れた」
部屋を出て再び小瓶を見つめる、本当に綺麗な透明の液体だ、なんでも映してしまいそう。本当に…なんでも。涙でも。
「自分だけ逃げる、か…。孤独死しそうだなぁ…」
自分の頬に伝う涙を肌と目で感じ、誰に見られるかわからないと思うと、服の袖で涙を拭い、いつものように薄っぺらな冷静を装った。




