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片思いするなら君がいい  作者: 青子
とどかない秋
12/27

12

「何かこの話読んだことあるぞ?」という方は、7/12の活動報告をご参照ください……

 あれから2週間ほど経って、バイト先へ行くと店長しかいなかったので、自分は新人という扱いじゃなくなったんだと自覚した。恐れていた店長との2人きりの時間。私と月島くんは一緒の時間になることが多かったため、色々な場面で「ここで月島くんが助けてくれたらなあ」なんて思ってしまう。不思議と気持ちが彼に傾いていることを、私はすんなりと認めることができた。

 そんなことをぼんやり考えていると、すぐ傍で名前を呼ばれた。

「っはい!」

「割引登録忘れてる」

 きついアイラインが私を見ている。目の前のおじさんは優しそうな顔で苦笑い。そう、言ったのはこのおじさんじゃない。月島くんがいるとすぐにどこかへ消えてしまう店長は、今日はずっと私の隣についていた。

「すみません、えっと……」

「648円のお会計に、端数分をポイントご利用で、600円になります」

 店長がそう伝えると、おじさんはちょうどの金額を私に渡してくれる。そうだ、ポイントを使うっていうことを最初に確認したのに、商品をチェックしたりレジをうったりするのに必死で忘れてしまっていた。

 貸し出しの商品を渡しながら、私はもう一度おじさんに謝った。

「すみませんでした」

「いえいえ、構わないよ。がんばってね」

 優しい人で良かった……と思っていると、店長の盛大なため息が聞こえた。

「ちょっとはしっかりしてよ。あなたがミスしてると、私が休憩に行けないのよ?」

「あ……」

 そういえばまだ、店長は休憩に行っていない。いつもならとっくに行っている時間だ。

「すみません、行ってください、休憩」

「行けるわけないでしょ? そう思うならしっかりして」

 強めの口調で言われ、返却商品のチェックを始める。

 店長は新人の私が見る限りでも言動に相応しくないところはあるものの、手際は良くどんな作業でもそつなくこなす。きっと要領がいいんだなと、悪い自分を比べて思った。

 出来るだけ迷惑をかけないようにと気を張ってレジに立ち、何とか1日を終えることができた。ちょっと前に店長は事務所に戻ってしまったので、閉店作業を一人で行う。店のシャッターをおろして、有線をきり、レジとパソコンの電源をきり、簡単に掃除をして、引き継ぎノートに簡単にメモを残した。月島くんに教えてもらった手順に沿ってやり残したことがないことを確認して、事務所に戻ろうとしたそのとき。中から何やら話し声が聞こえた。店長しかいないはずなのに、電話かなと入るのを躊躇う。

「どうしてよ!」

 ひと際大きな声が聞こえて、私は身を縮めた。でも事務所に荷物や着替えもあるのに、ここで突っ立っているわけにもいかない。私は勇気を出して、控えめにコンコンとノックをした。

 私のノックを聞いて、一瞬だけ話し声は止んだ。でも、すぐにまた始まる。きっと入ってくるなということだろう。嫌でも入ってくる会話だが、ドアを一枚挟んでいるので具体的にはよく分からない。

「もういい!」

 最後に大きな声でその言葉が聞こえて、しんと静かになった。意を決してもう一度ノックをすると、中から「いいわよ」という声が聞こえた。

 これはさっさと帰るに限る、と荷物をまとめようとしていると店長に呼び止められる。

「百田さんって」

「はい?」

「月島くんと付き合ってるの?」

 急になんでそんなことを。私はどぎまぎしながらも、首を横に振った。

「ああ、そう……」

「はい」

「あの子……やめちゃうって今言ってきたの。今まで文句なんて言ったなかったのに、おかしいわよね」

 辞めるとは、このバイトをだろうか。そんなの私が聞きたい、どうして辞めるのか。

「だからね、百田さん」

 真っ赤な口紅。店長にはあまり似合っていない。

「月島くんはやめといてくれる? 私、あの子にやめられたら困るのよ。お願い」

「え、えっと」

「もう帰っていいわよ。お疲れさま」

 私の返事を待たず、店長は事務所を出て行ってしまった。

 この焦燥感をどうにかしたくて、私はショッピングセンターを足早に出ると携帯電話を鞄から出した。月島くんとは電話番号とメールアドレスの交換をしたけれど、ほとんどやり取りをしていない。しょっちゅうバイト先で会うからという理由もあるけれど、それをちょっとだけ残念に思っている自分もいた。

 月島くんに電話をかけるのに、迷いはなかった。店長の言っていたことを確かめたいという気持ちが強かった。

『もしもし、百田さん?』

「あの、すみません。突然電話して」

『いいよ、どうしたの? 嬉しいな、電話くれるなんて』

 明るい声に、こちらが拍子抜けしそうになる。緊張しているのが私だけで、何だか場違いで。

「今日、聞いたんだけど……バイト辞めるって本当?」

『バイト? え、ここのバイトだよね? 辞めないよ』

 向こうの不思議そうな反応に、私は一気に肩の力が抜けた。こっちのほうが、騙されているかのような気分なのに。

『もしもーし? 大丈夫?』

「あ、うん……」

『誰から聞いたの? そんなガセネタ』

「えっと、あの……」

 店長から、と言おうとして口を噤んだ。何となくごまかしたほうがいい気がする。嫌な予感は無視できない。

「いえ、すみません。聞き間違いかも、です」

『なあんだ。びっくりした。でも……』

 額に僅かに滲んだ汗を手で押さえる。

『俺が辞めるって聞いて焦って、電話してきてくれたんだ? 嬉しいなー』

「……っそういうわけじゃ」

『自惚れてもいいんだよね? いつでも返事待ってるから』

 電話を切ったあと、ほっとした息が漏れた。あの店長の不可解な言葉は気になるが、本人が辞めないと言っているのだから信じてもいいだろう。急に月島くんに対して愛おしい気持ちが湧いてきて、会いたいと思えてきた。


 あのファーストフードへ行けば月島くんに会えるだろうかと思って、私は何度か足を運んでみた。でもお店の扉があくたびに顔をあげても全部空振りで、月島くんが現れることはなかった。バイトのシフトもこっそりチェックして、彼が休みのときを狙って訪れてみても結果は同じ。期待とがっかりを繰り返すこの行為は、まるで月島くんを好きになる呪文のようだった。

 学校ではそろそろ、文化祭の出し物を決める季節になっていた。

 我が校では学年によってできる出し物の種類が違う。1年生は展示ものか演劇、2年生以降が自由に出店などを扱えるという制約があった。そのため私たちは去年つまらない思いをしたこともあり、今年何をするかという話題で持ち切りになっていた。一番意見が多かったのがお化け屋敷と、コスプレ喫茶だ。そのどちらかに決めるホームルームが今日だった。

「百田さん、百田さん」

 今日も相変わらず右隣から話しかけられ、私は顔を向ける。

「百田さんはどっちがいいの?」

 私は特に希望がなく、どちらになっても裏方にまわれればそれで良かった。なのでそれをそのまま伝えると。

「じゃあ、お化け屋敷。お化け屋敷に票入れてよ!」

「別にいいけど……お化け屋敷って他のクラスとかぶると悲惨かもね」

「そんなのコスプレ喫茶でも一緒じゃん」

 飲食系はかぶっていても、個性が出せれば儲けは大差ないだろう。比べてお化け屋敷は2つも3つも行きたいと思うもんじゃない。準備が大変なのにそうなった場合目もあてられない。

「……百田さん。どっちでもいいならお化け屋敷」

 そう言ってきたのは、斜め前に座る大谷くん。

「え、大谷くんも?」

「お化け屋敷に、清き一票を」

 みんなオカルト好きなのか?と思って、前の席に座る千紘の背中をちょんちょんと突く。

「ねえ、千紘はどっちにするの?」

「……お化け屋敷」

「何、千紘もそっちなわけ?」

 千紘は言った後、大谷くんと目配せしたのを私は見逃さなかった。この2人、表立ってはいちゃいちゃしないのだが、よく見てるとお互いに見つめ合ってることがある。

「三波さんはコスプレ担当にさせられそうなんだよねー」

「そうなの?」

 私が尋ねると、彼女は小さく頷いた。なるほど、それで大谷くんはお化け屋敷なんだ。そりゃ付き合い始めの彼女が、コスプレさせられて接客しているなんて嫌だよね。

「あ、でも春香も……」

「がーっ! 三波さん!」

 千紘が何か言いかけたのを大慌てでとめる江畑くんに驚いていると、後ろからスキップで麻理子が現れた。

「どうしたの、盛り上がってるね」

「麻理子」

「あ、今日のホームルームで決める文化祭の出し物。コスプレ喫茶に票いれてよね!」

 どうやら彼女はコスプレ喫茶に乗り気のようだ。いや、むしろこいつが言い出しっぺである可能性も高い。お祭り好きだから派手なことやりたいんだろうなあ、と察しがついた。

「春香にはコスプレしてほしいんだよね~。あんたモテるから、こりゃ儲かっちゃって大変だね!」

「おい、まだコスプレ喫茶って決まったわけじゃないだろ!」

 なぜか麻理子の調子を止めたのは、江畑くんだった。それにしてもコスプレコスプレ連発している私たちは、周りから苦笑いで見られていることを彼らは気付いていない。

「どうして江畑が止めるのよ? そんな権利ないでしょ?」

「そういう具体的なことは、決まってから話せばいいだろって言ってるんだよ」

「いいじゃーん、別に。春香には絶対メイドさんのコスプレしてほしいんだよね! 可愛い子って何着ても似合うから、何着か衣装直ししてよね!」

 そう言って私の肩をばんばんと叩く。私に拒否権はないのだろうか。

「だから! 嫌がってんだろうが、百田さん」

「春香は何も言ってないよ? てか、あんた春香の彼氏でもないのに何でそういうこと言うわけ? 大谷くんが、千紘のコスプレ嫌がんのは分かるけど、あんたは別に関係ないでしょうが!」

「ぐう……確かに、そうだけど。そんなに言うならお前が勝手にやってりゃいいだろうが」

「私がやっても客足は伸びないの分かってるでしょ? あ、それとも私にコスプレしてほしいの?」

「見たくねー見たくねー見たくねー」

 罵り合いのあと、麻理子の膝蹴りが江畑くんの背中にヒットした。

「いってー! 何すんだ」

「何よ! あんたが失礼なこと言うからでしょ!」

 きっとクラス中に聞こえているこの会話。みんなも関わらないように遠巻きにしながら、面白がって聞いているに違いない。

「ちょ、落ち着けって」

 大谷くんが止めに入るも、2人はにらみ合いをやめない。

「俺は」

 江畑くんがそう言いかけたところで、チャイムの音が聞こえてくる。みんな、その音が奏でる方向に意識が動いた。

「百田さんが好きなんだ」

 その中でそう言われた気がして、私は思わず江畑くんを見た。彼もびっくりしたような顔で私を見ている。でも周りの千紘や大谷くんは何にも反応がないところを見ると、どうやら空耳だったらしい。そんな幻聴が聞こえるくらい、私の中では整理がつかなくなっていた。


 いつかのように、学級委員の垂井くんは教壇に立っている。

「では、お化け屋敷か、こさ、こすぷれ? 喫茶のどちらかに挙手をしてください」

 担任は最後までコスプレ喫茶にいい顔をしてなかったが、前例があるだけに麻理子たちに押し通されていた。

「じゃあ、まずお化け屋敷がいい人」

 真っ先に手を挙げた江畑くんを始め、ぱらぱらと手が挙がる。私はどちらに票をいれるべきなのか迷っていたのだが、私を包囲するメンバーが全員お化け屋敷に手を挙げているから、という何とも情けない理由で慌てて一票を投じることになった。

「……えっと、過半数、超えてますね」

 手の数を数えていた垂井くんがそう呟いた瞬間、右隣の人がガッツポーズをつくったのを私は見逃さなかった。

「この結果だと、コスプレ喫茶のほうの票をとる前にお化け屋敷に決定となりますが、異論ないですか?」

 麻理子がどんな反応をするかなと思っていたが、意外にも彼女は頬杖をついて大人しくしていた。

「では出し物は、お化け屋敷ということで……次に運営委員を決めますが」

 体育祭のときに千紘がやらされていた運営委員が、文化祭でも同様に決められる。しかし今回は手が挙がり、クラス全員でじゃんけんをすることなくすんなり決まった。委員をやれば内申があがるとかいうこともあるのだろうか。文化祭の運営委員は体育祭より楽だし、希望する生徒はこっちのほうが多いみたいだ。

「では次……出し物リーダーを決めます」

 出し物リーダーは、展示にしろ出店にしろ、そのクラスの出し物を仕切る人物のことだ。これは一人で担わなければいけないので、さすがに手が挙がらない。

 垂井くんは頭を掻きながら言う。

「立候補いませんか?」

「はーい」

 手を挙げたのは、なんと麻理子。何かの見間違いかと思うくらいだった。

「はい、金江さん。立候補ですね」

「違いまーす。推薦しまーす。江畑くんがやればいいと思いまーす」

 抑揚のない声でそう言うと、くすくすと笑い声がクラスから起こった。おそらく麻理子は、江畑にコスプレを見たくないと言われたのを根に持っているのだろう。

「ちょ、待て! 何で俺なんだ!」

「だってあんたが一番お化け屋敷やりたがってたじゃん! そういうやつがリーダーやればいいんだよっ!」

「確かに俺はお化け屋敷に手え挙げたけど、それとこれとは別問題だろ!」

 垂井くんは間に入ろうとするも、2人の勢いがすごすぎて止められていない。

「私見てたんだからね、あんた真っ先に手え挙げた! このクラスの中で、一番お化け屋敷やりたいのは江畑ってことでしょ!」

「違うわ、勝手に決めんじゃねえよ。おい、垂井、こんな馬鹿な話ねえだろ」

「見たよね、垂井くんも見たよね。こいつ真っ先に手え挙げてたよね!」

 小学生か、と誰もが思っている。担任も、おそらく。

「垂井!」

「垂井くん!」

 学級委員って大変だなあ……と思っていると、チャイムが鳴って結局誰がリーダーをやるのか決まらず終いだった。


 気がつくと、前の席が空いていた。千紘はいつもクラスの人数が少なくなった頃を見計らって、学校を出ていた。がやがやと人が多い中を帰るのが嫌いらしい。でももういないのは珍しかった。今日はバイトもないし、久しぶりに彼女と寄り道でもしたいなと勝手に思っていたのだが思惑が外れた。未練がましく教室をきょろきょろと見回していると、カーテンの影に見慣れたその姿が確認できた。何やってるんだろうあんなところで、と思うと千紘は一人じゃなかった。千紘の向こう側にいて、さらにカーテンの影になっていてよく分からないが、どうやら木下さんのように思える。あんまりじろじろ見ているのも、と視線をそらしたが妙な違和感に気付いてもう一度控えめに様子をうかがう。違和感は千紘ではなく、木下さん。どうやら彼女の仕草からすると、泣いているように見えた。

 え? 何で?

 私が静かに動揺していると、頭上から

「あれは近づける雰囲気じゃねーな……」

という声が聞こえた。私が顔を上げると、とっくに教室を出たはずの大谷くんが立っていた。

「あれ……戻ってきたの?」

「うん」

「もしかして、千紘?」

 大谷くんは軽く頷くと、私の斜め前になる自分の席に座る。

 なんだ、てっきり彼は今日バイトなんだと思っていたのに。千紘と寄り道することは無理そうだ。大谷くんととりとめのない話をしていると、小走りで教室を駆け抜ける姿が視界に入った。それは間違いなく木下さんだったけれど、私が何か思う前に千紘が戻ってきた。

「ごめんね、お待たせ」

 なぜか私にも目配せした千紘は、いつもと変わらない表情だった。

 おせっかいかもしれないなとは思いつつも、聞かずにはいられなかった。

「あの、木下さん、大丈夫なの? 具合悪いとか?」

「……うん、大丈夫。そういうのじゃないから」

「そう……」

 それ以上は聞けなくて、私も黙るしかできなかった。

「あ、春香、今日バイトないの? 一緒に帰る?」

「ううん、違う。バイトある。もう行かなきゃ」

 最近嘘をつくのが得意になってきた。無理やりに笑顔をつくり、席から立ち上がる。

「じゃあね、千紘。大谷くん」

「おー」

「またね、春香」

 教室から出て、思わずため息をついた。


 さてどこに行こう。廊下をゆっくり歩きながら考える。

 あのファーストフードに行くことも考えたが、ここ最近は私ばっかりが足を運んでいるように思えて少し気が引けた。それに江畑くんの告白(幻聴だったけれど)を聞いたばかりで、心が落ち着かなかった。こんな状態で月島くんにもし会えたら、精神状態がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 やみくもに外へ出るよりは、と目についた一階の女子トイレに入った。個室に入って便座に座り鞄から手帳を取り出す。時間つぶしのためにリストアップしていたメモを眺める。千紘と大谷くんにバイトだと嘘をついてしまった以上、学校の近辺では見つかってしまう可能性がある。やっぱり家の近くまで帰ってしまうべきか、図書館が無難か、などと一人考えていると騒がしい声がトイレに入ってきたのが分かった。女子特有のぎゃあぎゃあという声。別に嫌いじゃないし、自分がその輪の中にいることもあるけれど、何となくそこへは出て行きづらい。思わず息をひそめてしまった。

「……それにしてもムカつくわあー。何であんなやつがモテんのか理解不能」

「あはは、顔だけはいいからね」

 誰かの悪口だ。それにしても2人いるであろううちの一人は、どこかで聞いたことのある声だ。

「ほんっとに、江畑、あのやろう。絶対出し物リーダー押しつけてやるから、マジで」

 麻理子だ……。あの子、そこまでコスプレ喫茶が負けたのが悔しいんだ。

 もう一人は聞き覚えのない声だから、少なくとも私の知っている子じゃなさそうだ。

「そうだ、結衣大丈夫だったの?」

 結衣。木下さんの名前だ。泣いていた彼女の顔が蘇る。少し間があってから、さらに話が聞こえてきた。

「……だめ。結衣もさあ、あんなやつやめればいいんだよ。男としての価値なし」

「そこまで言う? まあ、1年のときからで長いしねー……」

 ああ、そっか。

 木下さんは、江畑くんのことが好きなんだ。

「江畑は誰が好きなんだっけ? 同じクラスの」

「春香。百田春香」

 自分の名前が出て、心臓が飛び出るかと思うくらいドキッとした。

「ああ、あのキレイな子か。江畑には脈あんの?」

「知らない……でも春香は多分興味ないでしょ。さっさと振られればいいんだよ」

 もし私が江畑くんの気持ちを受け入れるようなことがあれば、千紘や麻理子の応援している木下さんが傷つくことになるんだ。

 分かった、大丈夫。私は江畑くんとは付き合わない。

 人の気配がなくなった後も、しばらくそこから動くことができなかった。名前の知らない感情が、私の全身を支配して何も考えることができなかった。

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