第12章 少年は進む
かれこれ二十分は仁王立ちしていた。
秀二の目線の先にあるのは、ハンガーに掛けられた学校の制服だった。
ずっと考えていたことだった。このまま引きこもっていてもどうしようもない。
そもそも引きこもりになった原因はなんだったか? 尊敬していた兄に裏切られて、親の過度な期待を受けて、だ。
このまま引きこもっていても埒が明かないのは明白だ。そしてアイの力になるためには、ここから出る必要があることも分かっていた。アイを目覚めさせて、帰れる場所を作らなければ。
だがそう思えば思うほど、足が竦んだ。DDSではあんなに威勢のいい言葉を言っていたくせに。
秀二は自嘲するように笑った。
プルルルル!
ちょうとその時、携帯端末の着信音が鳴った。ディスプレイには「ソウ」の文字が表示されている。
「もしもし……」
『あ、シュウおはよー。俺、俺。いま大丈夫?』
聞き慣れた声に、秀二はベッドに腰掛けた。
「あぁ。なに?」
『いやさぁ、躊躇ってるんじゃないかと思って』
図星だった。何度も何度も制服を見て、いっそ明日からでもいいんじゃないかと思い始めていた。
なんでこいつはいいタイミングで声を掛けてくれるんだろう。
『なぁ、そんな力入れなくてもいいんだよ』
黙ったままの秀二に聡は続ける。
聡は秀二の言葉に救われたと言っていたけど、たぶん秀二だってそうだ。秀二は立ち上がって制服を手にした。
「きっとさぁ、味方が一人いるだけでも違うんだよな」
『ん?』
――俺はもう一人じゃない。だから戦える。
「電話くれてありがとう。今日から行くよ」
『無理すんなよ』
彼は彼女を救うための一歩を踏み出した。
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