鎮魂のうた
『シマフクロウのうた』
北のみやまに冬がきて
見わたすがぎりまっ白けのけ
花もみどりも雪のした
生きものたちは夢のなか
朝は良かろが宵ともなれば
雪ぐれに暮れてミルク色
シャンシャンシャンシャン犬ぞり引いて
それでも人は通りゆく
カムイチカッポ コタンコロカムイ
カラフトマツの枝さきに
冬のコタンを見おろしながら
シマフクロウが鳴いたとさ
凍える息を吐いたとさ
ウォホウ、ホッホウ、寒かろな
白は無垢でも白魔のもりは
ウォホウ、ホッホウ、冷たかろうな
ハシカブの原のキタキツネ
今はふるえて夢のなか、夢のなか……
『鎮魂』
冬ざれの浜に人影ふたつ
母は娘の手をひいた
東雲の空はあかあか明けて
それでも凍える雪もよい
海辺をのぞむ公園に
ま新しき慰霊碑ひとつ
娘が直感したようだ
今日は何かあるらしい
吾子よ、吾子よ、ごらんなさい
見はるかす
冬なぎの海に波あと残すは
すけとうだらのトロール船か
さなくば海保の巡視艇か
陸奥のおくにの国分寺に
鐘がなるなる
ひとつ、ふたつ、みっつ
彼岸会まつる石灯籠にも
火がともるよ
ひとつ、ふたつ、みっつ
ときは無音にうち過ぎて
表日本は安らかなれど
浜のチドリは覚えていよう
水魔が根こそぎ浚った今日を
母娘がそっと目をとじた
願わくば
鎮魂のいのり
粛々と
天までのぼれ
青葉山の古城をこえて
十万億のかなたまで