ベヒモスとドラゴン
今回はベヒモスとドラゴンです。拙作「白の魔王ウォレスの憂鬱」では、第一話からベヒモスが死んでドラゴンに食われています。「物語の冒頭にまず死体を転がせ」ってやつですね!(違う)
■ベヒモス(behemoth)は、旧約聖書に登場する陸の怪物。語源は一説に「動物」と言う意味のヘブライ語 behamah の複数形から。悪魔と見られることもある。
ベヒモスは旧約聖書『ヨブ記』で、陸に住む巨大な怪物として記述されている。
「ベヒモスを見よ、お前と等しく私がつくりしもので、牛と同じように草を食べる。だが、腰にあるその力、腹の中央にあるその勢い! 腿の筋は絡みあい、骨は青銅の管、軟骨は鋼板のようだ。神の業のいかなるものもこれと競いあうことはできず、つくり主のもとにあるいかなる武器もこれほど強くない。すべての山々は彼に食べ物を与え、すべての獣は彼に戯れる。沼の葦が生い茂るところに棲み、川辺の柳は彼を包む。川が押し流そうとしても彼は動じず、ヨルダンが口に流れ込んでもひるまない。まともに捕らえたり罠にかけて、その鼻を貫きうるものがあろうか」
神が天地創造の5日目に造りだした存在で、同じく神に造られ海に住むレヴィアタン(リヴァイアサン)と二頭一対を成すとされている。空に住むジズを合わせて三頭一対とされることもある。レヴィアタンが最強の生物と記されるのに対し、ベヒモスは神の傑作と記され、完璧な獣とされる。世界の終末には、レヴィアタン(及びジズ)と共に、食べ物として供されることになっている。
『ヨブ記』によれば、ベヒモスは、杉のような尾と銅管や鉄の棒のような骨、そして巨大な腹を持った草食の獣で、日に千の山に生える草を食べるほどの食欲を持つとされる。しかし、性格は温厚なもので、全ての獣はベヒモスを慕ったという。その姿は一般には、カバもしくはサイに似た獣で描かれることが多い。
レヴィアタンとは、海と陸以外にも雌と雄の一対の関係でとらえられることもある。また、本来はレヴィアタンと同様に海に住んでいたが、共に巨大すぎるために海が溢れ、片方が陸に住むようになったとも言われる。転じて水陸両生の獣と見られることもあり、川が氾濫しても平気だといわれる。
中世以降はサタンなどと同じ悪魔と見られるのが一般化した。(本来のキリスト教の観点とは全く関係が無い)
悪魔としては、旧約聖書の内容から転じて、暴飲暴食を司り、ひいては貪欲を象徴するとされるが、リヴァイアサンと違い、別に七つの大罪とは関係が無い。このことから比較的マイナーな存在であったことが伺える。
リヴァイアサンがワニや蛇の特徴を持つのに対し、ベヒモスは一般には、カバ、サイ、あるいはゾウとして認識されている。言い換えれば、中世において、群れる巨大な草食獣、カバとサイとゾウは明白に区別されていなかったともいえる。いずれにせよ、リヴァイアサンとベヒモスは、世界の終末には食べ物になる運命である。
ではドラゴンについてはどうだろうか。
■百獣の王がライオンなら、幻獣の王はドラゴンだろう。古来よりドラゴンは、あらゆる生物の頂点であり神に比する力を持つ存在として、世界中のさまざまな神話・伝承に登場している。
ドラゴンは、トカゲに似た、或いはヘビに似た強く恐ろしい生物である。鋭い爪と牙を持ち、多くは翼をそなえ空を飛ぶことができ、しばしば口や鼻から炎や毒の息を吐くという。大抵は巨大であるとされる。体色は緑色、真紅、純白、漆黒などさまざまである。
その起源は大変古く、紀元前四千年のシュメールの印章には、女神バウとドラゴンが描かれており、世界で最も古い神話といわれるバビロニア神話における女神ティアマトも、ドラゴンの姿をしていたといわれる。
キリスト教(ヨハネの黙示録)では悪魔サタンを指す言葉でもあり、このことから邪悪な生き物であるというイメージが付きまとう。また、狼やユニコーンと同じく、七つの大罪の一つである『憤怒』を象徴する動物として扱われる事もある。
ドラゴンはまた、その力強さから、王家の紋章としても使われた。ドラゴンの亜種ワイバーンは、もともと紋章学より誕生した架空生物である。当時、ドラゴンの紋章は王室の紋章であったため、ドラゴンに代わるものとしてワイバーンが誕生したのである。
ファンタジーではドラゴンと一口に言ってもその姿はかなりの種類がある。
・翼を持つ/持たない(=東洋竜、龍)
・四本足で翼を持つ/前足が翼である(=ワイバーン)/足が無い(=ワーム)
・翼を持ち飛行できる/翼を持つが飛行できない/翼が無いが飛行できる
・頭部に角がある/鼻面に角がある/角がない
ドラゴンは、近代においてはファンタジー作品などで頻繁に取り上げられる。今日想起される典型的なドラゴン像は、巨大で鱗や角を持ち、コウモリのような翼を広げ炎の息を吐く恐竜のような姿をしている。あるいは、エキゾチックな色合いで、羽毛のある翼、炎のようなたてがみを持つ生物であることもある。また、ヨーロッパのドラゴンと中国の竜を合わせたような姿であることもある。
ファンタジー作品で扱われるドラゴンは、神もしくはそれに近い存在であったり、世の中を脅かす悪の権化、人々に恐れられる凶暴な肉食獣、人間と友好関係に共存しているもの、兵器や乗り物に活用されているなど、様々な立場で登場する。
傾向としては、金銀財宝をため込んだ洞穴を守っており、ドラゴン退治の英雄と結びつけられることが多い。ドラゴンを殺した者、ドラゴンを殺せる武器は『ドラゴンスレイヤー』と呼ばれる。
また、現代の小説や映画の中では、言葉を操り、魔法を使うなど高等な知性を持つ生物として尊敬されているという設定のものもよく知られている。また、遙かな昔より生きているとされ、賢明で勇者にアドバイスを与える者、あるいは、貪欲で宝をため込んでいる者との描写もある。
ドラゴンの体の一部は、アイテムとして重宝される。ドラゴンの血は、魔法の小道具としてよく作中に登場し、野鳥の言葉がわかるようになったりする。ドラゴンの鱗は堅いものとされ、鎧や盾などに加工したものは、非常に高い防御能力や熱などへの耐性が設定されている。
■比較
ドラゴンへの一つの疑問は、彼らが普段何を食べて生きていたのか? というものです。あのヤマタノオロチのように、毎年生贄となった人間を食べるという伝説もありますが、それで彼らの胃袋が常に満たされていたとは考えにくいでしょう。一般には、ドラゴンは神や悪魔と同様に食事が要らない存在であると考えられていました。灰を食べる、山羊や羊を食べる、魚を食べるという伝承もあるにはあります。そして蛇が冬眠するように、ドラゴンは「金銀財宝を守って長い眠りについている」と信じられてきました。
ベヒモスが草食で温和な性格であるのに対して、ドラゴンは肉食で乱暴な性格として描かれることが多いです。するとドラゴンがベヒモス(カバ、サイ、ゾウの類い)を食うという話があってもよさそうなのですが、実はこういう話はほとんど例が無いです。
リヴァイアサンと対を成し、神の傑作と記され、完璧な獣であるベヒモスは、通常、世界一巨大な獣として描かれることが多く、たかが竜ごときでは歯が立たないというのが真相でしょう。
しかしファンタジーとしてのドラゴンはその巨大さで知られます。いつか千夜一夜物語の中のシンドバッドの話で有名なロック鳥のように、ゾウを持ち去って食べてしまうくらい、大きく力が強いドラゴンが登場することもあるかもしれません。
最後となりますが、多くを「幻獣イラスト大事典Ex」および「Wikipedia」より引用させていただきました。この場を借りて感謝致します。