裏 伝説、再起動
イルゥシン城付近 P1286年11.26
絶体絶命だったリファス王国騎士団のフスとエヌは混乱していた。
死以上の辱めを受けることすら覚悟していたのに突然白い覆面?をかぶった変態が現れたからだ。
あの変態は死ぬ。武器を持たずコームの前に立つ変態を見て、フスとエヌはそう思った。
そんな中、それとはまったく逆のことを考えている者がいた。
(なっ、何者だあいつは!)
魔物群れのボスであるコームであった。
コームは一見ただの変態にしか見えない者に対し、警戒していた。
コームのそんな警戒は露知らず、コームの部下の一人は言った。
「コーム様~!!あの空気の読まないイカレ野郎をすぐ殺しますね。
たく、コーム様がせっかくいいこと言ってたのによ~。」
それだけ言うとコームの部下、3m近い大きさの魔物は白い覆面の男に襲いかかろうとする。
それを見たフスは覆面の一般人?を助けようとして魔物の方へ動こうとした。
しかし、
「やめろ!!死ぬぞ!!」
コームが部下に叫んだ。
ぴたりとコームの部下、ついでにフスの動きが止まる。
「おい、お前!」
コームが覆面の男に声をかける。
「なんでしょうか?魔物のボスさん?」
覆面の男がコームへ問う。
「お前は一体何をした?
ここいらには半径2フート(1kmくらい)に生半可な奴じゃあ突破できない結界を張ったんだよ。
答えろ!お前は一体どこから入ってきた!」
コームは覆面の男に問いかける。
「ハハハハハハ!」
覆面の男が笑う。
「何がおかしい!!」
コームは怒鳴って言う。
「ああ、すみません。あれが結界なんておかしくてね。簡単ですよ。ただ、結界の魔素を抜いただけです。」
なんでもないことのように覆面の男が言う。
するとコームは怒り狂うごとく言った。
「ふっ、ふざけんじゃあねえぞ!魔素を抜くなんて芸当出来るわけないだろうが!!」
その二人のやり取りを聞いたフスは混乱しながら覆面の男が言うことができる唯一の魔法の存在が頭を過ぎる。
しかし、ありえない。そうフスは否定する。
「まあ、いい。あの結界を抜ける実力の魔法使いだろうが、この僕には絶対勝てないよ。
魔王ベルウの将であるこのコーム様はね!!」
コームは下がるよう部下に合図しながら、覆面の男に襲いかかかろうとする。
「勝てませんよ、私には。あなたが魔である限りね。」
そう覆面の男、サキが言った。
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サキは焦っていた。
人が襲われようとしている。早く止めなければ。
サキは急いだ。
そんな中、慌ててたせいで木の枝に引っかかって服の左右の腕のところを破いてしまった。
サキは服の持ち合わせが今着ている服だけなので、布すら惜しいと思いとっさに自分の体に巻きつけた。
その際、足に巻きつけたのでは動きづらく、かといって腹に巻きつけるには長さが足りず、苦肉の策として頭に巻きつけることにした。
白い覆面男の完成である。
サキが到着すると女性と男性の二人組が息絶え絶えだった。
さらにみると多くの魔物達がそこにいた。
そんな中、
「じゃあ、もう終わりだよ。男は殺し、女殺さず、後でじっくり頂いてしまいな!!みんな!!」
「「「さすがコーム様!!ベルウ様も嫌悪する外道っぷり!!最高だぜ!!」」」
魔物たちがフスとエヌにトドメをさすため襲いかかろうとするのを見た。
(どうやったらあの魔物達を引き付けられるか。)
サキは魔物の気を引きつけるため考えた。
するとかつての従者ジェシカが言ったことを思い出した。
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回想 サキの自宅 K102.11.25
「人と円滑にコミュニケーションをとる方法...ですか?」
ジェシカが首をかしげる。
「私、初対面の人に対して無愛想っぽくなるじゃあないですか。
今度なんか知らないけどメカシ王様に会いに行くらしいんですよ。このままだと不敬罪で死刑です。
どうしたらいいですかね?」
サキは慌てながらジェシカに問う。
呆れた顔のジェシカは言った。
「笑っとけば大抵のことはどうにかなりますよ。...多分。」
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(おお、そうだったねジェシカ君!笑えば魔物も敵対の意思がないとわかって話を聞いてくれるだろう。
そうなれば彼らとも争わずに済むかもしれない。もし争いになっても魔法クリアなら魔物の迎撃は簡単だしね。よし!)
そして冒頭の場面に戻る。
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「がはっ!!!」
コームが血を吐いて地に伏す。
(結局こうなりましたか...)
サキは結局争いになってしまったので悲しく思った。
「わかったでしょう。今回は引いて下さい。」
サキはこれ以上の争いはあまりしたくない思いコームに言った。
「ふっ、ふざけやがって...」
コームは舐められたと思い激昂する。
しかし、この覆面の男には少なくても自分では勝てないと悟ってしまった。
「お前、名前をなんという?」
コームは覆面の男に名を尋ねる。
「私ですか?私はサキと申します。お見知りおきを。」
サキは聞かれたので答える。
しばらく周りの空気が固まる。
「なるほど、死んだ人間の英雄の名か...確かに勝てないわけだ。」
コームはサキが自分に名を教えるつもりがないと思いそう言った。
サキはというと
(私と似た名前の英雄がいたのか。知らなかった。)
その英雄が自分自身であると気づかなかった。
「そう言っていただけると恐縮です。」
サキは自分の名が褒められたと思い少し照れつつ言った。
「で、どうするつもりだ英雄?僕はもう戦えないぞ。」
コームが咳き込みながら尋ねる。殺すつもりなのかと。
「言ったでしょう。今回は引いて下さい。」
そんなことは知らないサキはもう戦いたくないのでそう言う。
しかし、聞いていたコームは違う感想を持った。
(『今回』は?この男、まさか僕に再戦のチャンスをよこすというのか。負けた僕に...
さらに力を磨いてもう一度挑めと...)
コームは魔王に仕える下僕として、否、一人の武人として男の思いを感じ取った。
勘違いではあるが。
「いいだろう。このコーム、今回は引くとしよう。みんな、いいな!!」
コームが魔物に号令をかける。
「「「Yes!コーム様!!」」」
コームの部下の魔物達もコームの思いを汲み取り、引くことにした。
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コーム達が去った後、サキはこの後どうするか考えていた。
「助けていただいて感謝する。」
フスはサキに言った。
「私はリファス王国騎士団のフスと申す者です。失礼ですが、あなたは?」
サキは『滅んだ国の冒険者です。』と言いたかったが信じてもらえそうにないだろうと思った。
困ったサキはとりあえず話をそらそうと思った。
「それよりも、体の具合は大丈夫ですか?男性の方。」
サキはエヌに声をかける。
コームが去った後、エヌは気を失っていた。
しかし、サキがあからさまに話をそらそうとしたのでフスも気づく。
(あれだけの強さを持って顔を隠しているだけあってどこかの国の命を受けた騎士と考えていたんだが、やはりそうだったか。)
フスはサキの挙動不審を見て、情報を漏らす訳にはいかないのでそれを悟れとフス達に警告しているのだと思った。
サキはむしろ自分の情報をさらけ出して、現在の状況を知りたくて苦悩しているとは思いもしなかった。
「この場では対した礼など出来ませんが、リファス王国にお越しの際にこの礼は必ず致します。」
フスはコームの結界を突破した魔法について知りたいという邪念を捨てきれないことを恥じながらそう言う。
「いえ、そこまで気を使わなくても大丈夫ですよ。私は私がしたいからやっただけですし。」
サキはフスの気持ちに感謝しながらも、自分のような不審者が王国の騎士団ともあろう者に関わったら迷惑だろうと思いそう言った。
「すみません。」
フスはサキに消え入るような声で謝罪の言葉を口にした。
(邪念を勘破されたばかりか、好意で助けてくれた恩人に対してなんと無礼なことを...)
フスは自己嫌悪に陥った。
「だから気にしないで下さい。」
サキはサキで自分がそんなに不審だったかと落ち込む。
サキは自分の顔が覆面のように隠されていることに気がついていない。
「それよりも、こちらの男性の方の傷が深い。一応魔法で傷を塞ぎましたが、なるべく早めに医者に見せたほうがいい。」
サキはエヌの傷が当初の予想よりひどかったのを思い出し言った。
治療したサキが、これでよく動けたものだと驚くほど傷は深かった。
「そこまでしていただきありがとうございました。彼は私の大切な仲間です。気を失っている彼の代わりにも礼を。」
フスがサキに改めて礼を言う。
(なるほど彼らは男女の仲という奴か...せっかく美人と顔見知りになれたと思ったんだけどなあ。死ぬ前もそうだが、私、女運ないな。)
フスとエヌが愛し合っている仲だと勘違いし、美人であるフスと話せて若干テンションが高かったサキは落ち込んだ。
実際のところ、エヌはともかく、フスはエヌのことを信頼できる部下という認識しかないのだが...それはまた別の話。
「近くに医師がいるところはありましたっけ?」
サキはフスに尋ねる。
「たしか、西の方角に18フート先にテロドヌスの温泉街にマルテススという医師がいたかと。」
フスは自分が知る医師の名をあげる。
「ほう、マルテススという名前ですか。」
サキは昔、お世話になったエフ族の医師の名前と同じだったので食いついた。
「確かにマルテススは有名ですからね。彼もそこに連れて行きます。」
フスはサキが『サキの伝説』にも出てくる『医師集団マルテスス』のことを聞いて興奮しているのかと思った。
(子供らしいところがあるようですね。この方。)
フスは微笑ましく思いサキの興奮している様を見つめていた。まさかそこの男が本当にサキだとは思っていない。
「では、この辺で別れましょうか。」
フスはこれ以上はサキの迷惑になるだろうと思いここで別れることを提案した。
「そうですね。」
サキの方も知り合いが生き残っているかもしれないテロドヌスに今すぐにでも行きたかったことと、
エヌの怪我はひどいものの命に関わるものではなかったので、フスとエヌの二人きりにさせるべきと考えその提案に乗ることにした。
「では、またお会いする機会があればよろしくお願いします。」
サキはフスにそう言うと魔法を使いその場から消える。
「行ってしまったか...エヌもうそろそろ起きろ。重いぞ。」
フスはエヌをたたき起こす。
フスはエヌの治療とリファス王国に報告のため帰郷することにした。
「いてぇーーーー!!!」
エヌの悲鳴はイルゥシン城まで聞こえた。
その後、サキは自分が白い覆面を被ったような状態でフスと話していたと気づき激しく落ち込んだ。




