表 ロドの正体
少し過去のお話
エルゥファ大学寮内 P1286年12.3
大学の授業が終わり、こっそり大学寮の部屋にいる二人の男女。
あたかも恋人同士の秘密の逢引に見えるこの光景。
しかし、実際は違った。
「くそっ、またダメだったか。」
穏やかな美人と大学でいわれているロドが悪態をつく。
「落ち着いてください。誰かに聞かれでもしたら...」
見た目普通の男子学生であるリーが諌める。
しかし、大学で二人が関わっているところを見た人間はいない。
「これが落ち着いていられるか!
もうこの国に来て8ヶ月も経つと言うのに、
まだ手がかり一つ掴めはしないではないか!!」
ロドが猛り立つ。
「だからこそです。今誰かに見られでもしたら今までの努力がパーです。」
慌てながらもリーが諌める。
「ヴー...」
何か言いたげながらも黙るロド。
「これもリファス王国のためです!我慢してください!ロード副長!」
声を荒げるリー。
「馬鹿!声がでかいぞリース!」
リー改めリースを殴り飛ばす女。
彼女の本当の名はロード。リファス王国が誇る騎士団の副団長である。
なぜ、彼女が一介の学生になっているのか、それには理由がある。
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リファス城内 P1286年3.26
2000年の歴史を誇るリファス城の一室。
10代前半に見える美少年が椅子に座っている。
しかし、この男はただの美少年ではない。
彼はリファス王国の第一王子ファス。リファス王国の次の王になることが約束された男である。
そんなファス王子が荘厳な様子で何者かを待っているようだ。
「コンコン」
扉を叩く乾いた音が響く。
「入れ。」
「「リファス騎士団ロード、リース入ります!」」
ロードとリースがファス王子の声を聞いて部屋に入る。
「ロード副長、リース。よく来たな。」
ファス王子が二人を出迎える。
「前置きはいいです。なんでありましょうか?ファス王子。」
ロードが面倒臭そうにファス王子に尋ねる。
一見無礼なこの態度だが、ロードとリースはこれまでファス王子に呼ばれたことは何度もある。
その度に面倒ごとを押し付けられた結果、もはやロードにはファス王子への敬意の念が薄い。
「ロ、ロード副長その態度はないですよ。」
小声でリースがロードに言う。
しかし、ロードはリースを無視する。
「じゃあ命令するね!実を言うとね...ある極秘の任務を頼みたいんだ。無論、拒否権はない。」
この国で二人しかできない騎士団への絶対命令権をさらっと行使するファス王子。
そんな様子も驚きもせずロードは聞き返す。
「任務とは?それでは答えになってません。」
そんな無礼な態度も気にもせずファス王子は言った。
「君たちエルゥファ国の大学で学生やってくんないかな?」
・・・
「はははは、ファス王子がご乱心だぞー。リース。」
抜き身の刀を自国の王子に向け、乾いた声で笑うロード。
「落ち着けー!副長ー!」
リースがロードを全力で抑える。
「ふぁはっはあっはははは!」
当初の荘厳な様子の欠片もなく笑い転げるファス王子。
「まぁ、ちょっと落ち着けロード。これから本題だ。」
笑いすぎてでた涙を拭き取りながら、ロードに言う。
「はっ!」
ロードが先ほどとは一変してかしこまる。
リースも慌ててロードに続いた。
「エルゥファ大学は無論知ってるな?」
先ほどのふざけた様子は欠片もなく、ファス王子が荘厳な様子で尋ねる。
「世界でも指折りの魔法学の研究機関だったと。」
ロードが答える。
「そうだ。1500年の歴史を誇るエルゥファ国最大の魔法の研究機関。主な研究は古代魔法の復活。」
ファス王子が補足するように言う。
「・・・その研究機関なのだが、ある情報によると魔法クリアの正体の一部がわかったらしい。」
真剣な面持ちでファス王子が言う。
「本当ですか!!」
リースが驚きを隠せず叫ぶように言った。
「ああ、それは確かだ。確かなのしかわからないが・・・」
か細い声で悔しそうに歯ぎしりするように言うファス王子。
「つまり、我々にエルゥファ大学へ学生として赴き魔法クリアの正体の一部を調べろということですね。」
ロードは淡々と言った。
ファス王子は立ち上がり叫んだ。
「そうだ!!我が国の偉大なる始祖テテ様をしても終ぞ知ることが叶わなかった魔法クリアの正体!
我が国の魔法使い、考古学者達が総出でも欠片さえわからなかった魔王ヤーベを討ち滅ぼした奇跡の魔法!
我が国の誕生理由の一つでもある魔法クリアの解明。なんとしてもその正体の一部でもよい必ず我が国に!!!」
ファス王子はそれだけいうと力が抜けたかのように座り込んだ。
「世間に顔を知られていない信用できる部下が貴君らしかいないのだ。騎士に学生になれなど済まないとは思っている。」
ロードとリースに真剣な面持ちでファス王子は言った。
リースは後にこう振り返った。
静寂ともいえる数秒が数時間に感じるようでもあったと。
そして、
「王子。」
ロードが呟くように言った。
「気にするなどあなたらしくもない。あなたはいつものように待っていて下さい。
必ずや我が国に魔法クリアの正体をお持ちいたしましょう。」
ロードはそれだけ言うと部屋を出た。
「失礼しました。」
リースがそれに続く。
「私に、ではないか・・・」
ファス王子の呟きは誰にも聞こえなかった。




