聖女
過去の過去話。短いです。
K60年~K66年、クロル王国とサンディ教国との間に戦争があった。
その戦争についてわかっていることは何もない。
その詳細は歴史の中で消え去ってしまった。
ただ、戦争があったという事実は残っている。
どちらの国の勝敗すら歴史には残っていない。
しかし、ここでわかることがただ一つある。
それは今はどちらの国も滅んだという事実だけである。
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エル・ドゥエモンド著『黎明期』
サウニ砂漠 K65年10.5
クロル王国とサンディ教国との境にある『サウニ砂漠』。
太陽が照りつける灼熱地獄。
その砂漠に何かがいた。
それは一見、黒い塊のようであった。
しかし、それは人であった。
九分九厘、見間違えるであろうそれ。
それは少女であった。
立つことすらままならず、這いつくばって動こうとする少女であった。
(喉が渇く...体が腐敗してゆくのを感じる...)
喉が乾き、体が内側から腐っていくような感覚。
少女は死を感じていた。
少女の髪は色を失い、垢と埃にまみれていた。足は皮がめくれ、膨れ上がっていた。
太陽に照らされ、体が炎で焼かれるように感じる。
(国は焼け、皆死んだ...ふっ、何が『神の詔』だ...)
少女は神に仕える者だった。
神に仕え、神を敬い、神を愛し、神に全てを捧げた。
しかし、神は少女に何も与えなかった。
神は彼女から国を奪い、誇りを奪い、家族を奪い
そして
信仰さえも奪ってしまった。
(神に仕え、神を愛した...しかし、私は何を得たというのだ?)
少女は自嘲するように笑う。
少女は動けなくなった。
しかし、少女は考え続ける。これから死にゆくというのにそれでもなお考え続けた。
(『神は皆を救済へと導く』...だったら何故、教国が戦争を始めるというのだ?)
彼女は『教え』に問いかける。誰も答えなどしないというのに。
不思議なことに少女はかつてないほど時間がゆっくりに感じていた。
(...私は結局...何も...す...く...)
死の訪れ、意識が消えるそのとき
『神が救いの手を差し伸べない?だったら君が皆を救えばよかったじゃないか?』
どこからか男の声が聞こえてきた。
少女は、声の主が体の内側、否、頭の中に直接話しかけているような気がした。
「か...み...?」
少女はその声に問う。
『アレ?時間の調整ミスった?いや違うな...』
声の主は少女の問いかけに答えず、何か悩んでいるようだった。
「あなたは...神...?」
少女は再び問い返す。
『ん?さっきから紙、髪って、ひょっとして僕のこと?いや、違うんだが...』
声の主は困惑したような声色であった。
普通、人に向かって紙や髪かなどと問いかける人間はいない。
それが本当に人かどうなのかわからなかったとしても。
『そんなことより!君は助かりたいのかい?それとも...』
話を打ち切り、声の主は少女に尋ねる。
『君が神になりたいのかい?』
声の主がそう尋ねた時、少女は意識を失った。
サウニ砂漠はイルゥシン王国の真南にあります。
クロル王国の西側上半分が、サンディ教国の東側上半分が接触しており、三国の自然の境界線となっています。
イルゥシン王国はサウニ砂漠のおかげで人間の侵攻は受けていません。
しかし、浅い海の向かい側に魔王トゥノウ領があり、魔物との戦争が絶えません。
トゥノウ自体は温厚な魔王ですので実はイルゥシン王国と争う気はないです。
というか、弱肉強食が自然の摂理とは考えていても(脳筋)
『強者は弱者を虐げるのではなく、むしろ保護するものである』という考えを持つ異色な魔王です。
人間も守るべき弱者に加えても良いとか考えているくらい。
イルゥシン王国も南にサウニ砂漠がある影響で黄砂みたいなのが毎年降り注ぎ、その被害やらで戦争したくないのです。
国王のメカシ・フェストは、『国の栄えは民の豊かさ』というほど民のことを気にする名君ですので、戦争でいたずらに民が苦しい思いをさせたくないのです。
しかし、何故か両者には戦争が絶えない。なぜなら...
それは後々わかってきます。




