暗殺者?
回想 『この世の地獄』 K87年10.5
先ほどの諍いを止めたマルテテスは『長』に戻り、『長』の役人から報告を受けていた。
「トーラさんが一人で散歩ですって!?」
マルテテスは役人からの報告を聞き驚愕した。
「馬鹿野郎!トーラ様は三歩歩けば道を忘れるお人なんだぞ!!」
ケッセは役人に掴みかかる。
「そうです!彼女が何かやらかしたり、例えば誘拐でもしていたらどうするんですか!!」
マルテテスは役人を非難する。
信用されなさすぎである。
「も、申し訳ありません...」
当初はただの散歩と思っていた役人は、二人の気迫に押されて頭を下げる。
「...すみません。ちょっと言いすぎました。」
少し冷静さを取り戻したマルテテスは役人に謝罪した。
「とにかくです!あの鳥頭...じゃないトーラさんを探しましょう!!誰か見かけた人はいませんか?」
マルテテスはトーラを見かけなかったか周りの役人に聞く。
「いや、見かけてないな」
「あの人基本引きこもりだよな」
「昨日、本でジャグリングしてるとこ見たぜ!!」
「今日だからそれは関係ないだろう...ってあの人そんなことしてたのか!?」
「世界最強の甘いものを探す旅に出てみたいとか言ってたぞ。この間...」
「というか研究していることはわかるんだが、普段何してんだろうあの人...」
周りの役人はあれやこれやと話し合う。
結果、
「結論として何をしているかわかりません。」
役人を代表して顔に十字の傷がある魔物の男が言った。
どこにいるかを聞かれたのに何をしているかわからないという結論に達していた。
「そうですか...」
マルテテスは頭を抱えて考えこんでいた。
すると、
「あのーちょっといいです?」
5歳位の小さな女の子がマルテテスに声をかける。
彼女の名はミーラ。トーラが気に入ってよく話し相手にさせられている女の子である。
今日もトーラが何となくという理由で『長』に招かれていた。
「すみません!マルテテスさん。こらミーラ!今大事なお話をしているの!!」
ミーラの母親がミーラを叱責する。
「いやいや、お母さん。ミーラはどうやら何か言いたいらしいです。何ですかミーラ?」
マルテテスはミーラに視線を合わせるように屈んでミーラに尋ねる。
「んとね、トーラ様ならさっきね。『ヒャッハー!!被検体見つけたぜ!!!』って言ってね。」
ミーラは言葉を若干詰まらせながらも懸命に答える。
「子どもの前で何言ってんだトーラ様...」
ケッセは何故か恥ずかしげに顔を手で覆った。
「...それであのおバカさんはどうしたんですか?ミーラ?」
マルテテスはミーラに話を続けるように促す。
「ええとね、今日、新しく来た人っぽい人たちにね。向かってね。走っていったよ?」
ミーラは周りの大人たちの雰囲気に戸惑いつつも言った。
「よし。マルテテスさん!急いで捕まえに行きましょう!!」
ケッセはマルテテスに言った。
「...『人たち』?」
マルテテスはケッセに答えず、考え込んでいるようであった。
「マルテテスさん?」
ケッセはマルテテスの様子を不審に思い尋ねる。
「ミーラ。その新しく来た人たちは何人だった?」
マルテテスはケッセの問に答えずミーラに尋ねる。
「二人だよ?」
ミーラはマルテテスの問に答える。
「ありがとうミーラ。そうか...」
マルテテスはミーラに礼を言うと顔を険しくさせた。
「どうしたんですかマルテテスさん?」
ケッセはマルテテスに改めて聞きなおした。
「ケッセ。私がこの一帯全体を覆うように半径50フート(25kmくらい)に魔力判別式の認証識別結界を張っていたのを覚えてますか?」
マルテテスがケッセに尋ねる。
「はい。もし悪意のある者がいたとしてもすぐに識別できるように...ってまさか!?」
ケッセはマルテテスの意図を理解した。
「そう、私の結界には今日は一人入ってきたという反応しかない...おそらく凄腕の暗殺者です!トーラさんが危ない!!!」
マルテテスは走り出す。
「マルテテスさん!!どこに行くんですか!?」
ケッセはマルテテスに続き走りながら問う。
「あの結界に触れた者は二週間反応が続きます!ですのでトーラさんの居場所はわかりませんが、新しく来た者の反応はわかります!!」
マルテテスはそう言うとケッセの方を向く。
「ミーラの話だと、件の人物は当初、二人でいた!まだ新しく入ってきた者の近くにいる可能性が高い!!付いてきなさい!!!」
マルテテスはそうケッセに言うとさらにスピードを上げた。
「はい!!!」
ケッセはマルテテスにそう言い返し同じくスピードを上げる。
「でも、何かね。別に変な人じゃなかったよ?むしろトーラ様の方が…ってアレ?いない??」
ミーラは不思議そうな表情で辺りを見回した。
『長』についての説明は次の話で。




