裏 テロドヌスへの道中
テロドヌス前 P1286年11.26
サキはあの戦闘の後、柏崎とメアリとともにマルテススの馬車の荷台に乗っていた。
当初サキは、マルテテスというのが名前だと思っていたため、知っているマルテテスとは全然違うので困惑していた。
しかし、乗っている間にマルテテスの名は医師を継承する際の称号と聞き、その困惑もなくなっていた。
「それにしてもすごい魔法砲ですね。」
サキはマルテテスにそう言った。
「ハハハ!!そうであろう!!!これは超濃度圧縮温泉砲と言ってな。
我が同胞達が作った対エノピオクの悪魔ロード用に開発した新兵器なのだ。」
マルテテスはサキの言葉を聞き、機嫌を良くしてそう言った。
「そ、そうなんですか...」
サキはあれを人間に使うってどんなスポーツなのか心配になった。
「人を殺す気ですか!!マルテテス殿!!!」
メアリがそう叫ぶ。
「なに心配はいらん!!!ロードは去年の世界大会で生贄として参加して、
たった一人で我が陣地の者達を一人残らずぶっ飛ばした猛者。遠慮はいらん!!!」
マルテテスはロードに蹴散らされた去年のことを思い出し、武者震いをしながら言った。
マルテテスは知らない。ロードがファス王子から世界美女コンテストと騙されてエノピオクに参加したことを。
そしてもうエノピオクに絶対参加しないと心に誓ったことを。
「そ、そういえば柏崎君!二つほど聞きたいことがあったんですよ。」
サキは話をそらそうと柏崎に声をかける。
「なんですか?あと私はお」
柏崎はサキの質問に答える前に自分が女性であることをサキに伝えようとする。
しかし、
「おお、神官殿!!!貴君ら二人がエノピオクに参加すれば、ベスト10すら狙えるぞ!!!
先の戦いで見させてもらったお主らの耐久力はエノピオクのAクラスに匹敵すると見た!!!」
マルテテスがメアリにエノピオクの参加しないか尋ねる声でかき消された。
「参加するわけないでしょうが!!!あんなドS競技!!!」
メアリがマルテテスに叫んだ。
「むう...しかし、我の話を聞いても果たして参加しないといえるかな?」
マルテテスはメアリに説得を試みる。
・・・・・
「ええと、なんでしたっけ?」
柏崎はあの話に混ざりたくないのでサキに聞く。
「はい。率直に聞きますと、あなたは常和の方でしょうか?」
サキは自分の故郷、常和国出身かと尋ねる。
「いえ、違います。」
柏崎はサキにそう答えた。
「そうですか...いや、失礼しました。あともう一つなんですけど、サキって名前の英雄って知ってますか?」
サキは軽く落ち込んでものの、コームの言っていた自分に似た名前の英雄のことを尋ねる。
「ええと、確かあのバ...メアリに聞いたな。確か有名な英雄で...ヤーブだかを倒したとか。」
柏崎は以前メアリから教えられた英雄がそんな名前だったことを思い出して言った。
「ありがとうございます。そうでしたか...」
サキは柏崎の答えに満足して礼を言う。
(てっきり私のことかとも思ったんですけど、違うみたいですね。ああ、恥ずかしくなってきた...)
サキはヤーブなんて聞いたこともなかったため、自分の推測が外れていたと知り、恥ずかしくなる。
サキは聞く相手を間違えた。柏崎は平行世界の地球の日本出身で、彼女の世界には常和という名の国はない。
そして彼女が異世界人であるため、この世界の常識がまだあまりない。
もし、柏崎でなくメアリ若しくはマルテテスにこのことを聞いていたら、この後の歴史も大きく変わっていただろう。
しかし、そんなことはサキも柏崎も知らない。
「そういえば、私も聞きたいことがあったんですが、その前に名前を聞いていいですか?」
柏崎はサキにまだ名前を聞いていないことを思い出してそう尋ねた。
(サキって名前はヤーブを倒した英雄。だとするとサキという名前じゃ変なんですかね?
でも、その割に私が生きていた頃はそういうことを言われなかったような?)
サキはコームの反応を思い出し、この世界でサキという名前を使うべきではないかもしれないと考えていた。
そのため、今、せっかく仲良くなった人々にサキと名乗ったら変人扱いされるのではないかと恐れた。
サキはどう答えたものか、少し考えていると自分の故郷のことを思い出す。
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常和国大都市 大都福音専攻大学付属高等学校 AD1997.7.10
「いやあ、呼んでおいて遅れるなんてすみませんね。サキ君。」
長髪の男?が××××、サキにそう謝る。
「...サキって言うな。先輩。」
サキは長髪の男?、先輩にそう言う。
「あれ?でも、君そう呼ばれてませんでしたか?白畑さんとかに。」
先輩が疑問に思う。
「あれはからかわれてるんだよ...××××で苗字と名前の一文字ずつとって『サキ』。女みたいでやだ。」
サキは先輩に自分のあだ名の由来を教えた。
「そんなに嫌なんですか?よしっ!では、僕が新しいあだ名を考えてあげましょう!!」
先輩は新しいあだ名を考える。
「俺は普通に名前でいいんだけど...というか、急ぎの用じゃなかったか?」
サキは先輩にそう尋ねる。
「うーん...よし!決まった!!君のことは今日からキノと呼ぼう!!
いい名前だろう?使ってもいいですよ。お金を取りたくなるくらい。完璧!!」
先輩は自分の考えたサキの新しいあだ名を自画自賛する。
「キノも女っぽい。却下。」
サキは先輩の案を冷たく拒絶する。
「ええー。いいあだ名ではないですか、その可愛らしくて。...あっ。」
先輩は思わず狙ってあだ名をつけたことを漏らす。
「帰るぞ!俺!帰る!!」
サキは泣きそうになって先輩から逃げる。
「いや、待って!ごめん。本当に!!」
先輩はサキを謝りながら追いかける。
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テロドヌス前 P1286年11.26
「...キノと呼んでください。」
サキは柏崎の問にそう答えた。
「キノですね。わかりました。」
柏崎はサキの考え込んでいたのを見て、名前を知られたくない事情があると思い、あえて深く聞かずにそう言った。
その通りなのだが、柏崎とサキとの事情に対する認識が大分違うことに両者ともに気づかない。
「それで質問というのは、」
柏崎はサキに質問をしようとする。
しかし、
「どうだ、神官殿!!エノピオクはこのように男女の仲をより深めるスポーツであるのだ!!!
まだお主もエノピオクに興味を抱かんか?」
マルテテスのメアリにエノピオクの魅力を訴える声にまたしてもかき消された。
「す、素晴らしいです!!マルテテス殿!!
極限状態の男女がお互いを助け合うことでより深い愛へと近づくのですね!!!
柏崎様!!素晴らしいスポーツ、エノピオクを一緒にやりましょう!!!」
メアリはマルテテスに洗脳され、柏崎にエノピオクを奨める。
「やらんわ!!ベルウどうした!!!」
柏崎は質問よりメアリへの対応を優先する。
そんな感じでサキ一行はテロドヌスへと向かう。
サキはその光景を遠目で眺め、微笑ましそうに見つめていた。
(それにしても、)
サキは柏崎の戦いを思い出していた。
(柏崎君の剣の型は、あの頃の、常和にいた頃に戦った侍の型に似ていたんですけどねぇ。感が鈍ったかな?)




