表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いと麗しき公爵令嬢  作者: 遊鳥
魔物使いと麗しき公爵令嬢
2/4

中編



 そうして盛大な見送りの後、魔王討伐の旅に出た俺たちだったが、国王や重鎮の選んだ『最強のパーティー』とやらが最悪だった。

 王宮騎士団からは二人の男。神殿からは幹部見習いの女。高名な魔導師の男。

 やつらは気位だけは高く、義務よりも権利を主張するような貴族の典型だった。

 下町出身で、この一月で『魔物使い』の肩書きを得たばかりの俺はもとより、一領地の騎士団長の息子である勇者アルベルトも散々見下された。

 しかも偉そうにするだけで動かない。使用人は魔王討伐に連れて行けなかったので俺を使用人扱いする上、やつらには目にはすでに魔王討伐後の栄光しか目に映っていないようだった。俺にすら僅かにある愛国心や正義感は無いのか。


 俺とアルベルトが最初の町で音を上げたのを笑わないでくれ。

 持ち前の話術で「あなた方のような素晴らしい人間こそ国王陛下の側に居て国を守るべきだ。汚れ仕事は俺たちがやるから安心して欲しい」とそれっぽい事を言っていい気分にした後に撒いた。

 聞く所によると、やつらは俺たちに切り捨てられた事にすら気付かず、誇らしげに王都へ戻って行ったらしい。


「しっかし、ツェリが居るだけでパーティーの雰囲気が随分変わったな」アルベルトが感慨深そうに言う。

「ああ。今までのむさ苦しい旅が華やかになったよな」

 アルベルトに同意する。殺伐とした荒野に妖精の薔薇園が現れたような感じだ。

「おや、あたいは女扱いしてくれないのかい?」

 婀娜っぽく俺に語りかけるのは女だてらに傭兵をやっていたカルラだ。『やっていた』と過去形なのは彼女が無償で魔王討伐に参加しているからだ。

 真っ赤な髪の毛を高く縛り、女の曲線を活かした鎧を身に纏っている。こいつがパーティーに加わったのは旅に出て三ヶ月ほど経った頃か。酒場でアルベルトに絡んだかと思ったらいつの間にか仲間になっていた。

「お前は規格外だ」にべもなく言う。

 なにせ天性の女好きなのだ。

 特にかわいい女の子には目がない。

 俺はこいつ以上に女の趣味があう人間を見たことが無い。


 だからこそ、男だらけのむさ苦しいパーティーの紅一点でいられたのだが。


 ああ、こいつに姫さんを見せたくなかったよ。

 重ねて言うが、俺とこいつの女の趣味はかなり似ている。

 その証拠に姫さんを見るカルラの目は爛々と光っている。


「お前、姫さんに変な真似するなよ?」

 念のためカルラにだけ聞こえるように釘を刺すと、「あんたにだけは言われたくない」とカラカラ笑われた。

 なにが悲しくて女相手に警戒しなくちゃいけないんだよ。

 最近は色々あって美少年姿で長く生きているエルフのクルトに標的が定まっているようなので安心したいところだが……。


 それにこいつには魔王討伐に加わる理由がある。

 本人は隠しているつもりらしいが、どうやら特定の上級魔族を探しているようだ。こいつは知られたくないようなので俺たちは知らない振りをしてやっているが、その目的がある限り下手にパーティーの和を乱す真似はしないと信じられる。


 一番警戒すべきはこいつだ。

 俺はちらりと親友を見る。

 騎士階級のくせに食事をする様がやけに品のある色男。

 紺色の髪は短く、繊細で整った顔立ちをしている。顔や雰囲気、背の高い俺といつもつるんでいた事から背の低く華奢な印象を与えていたこいつだが、この一年で身長もそれなりに伸びて堂々たる体躯の男になった。

 生半可な剣士には似合わないドラゴンスケイルもさり気なく着こなしている。


 そんな親友が誇らしくもあり、姫さんと並んで絵になるのが悔しい。


 俺はこいつの事を親友だと思っているが、出会うのが思春期を迎える前で良かったと思っている。

 外見で格差が現れる思春期の頃に出会っていたらきっと殺意が沸いていた。


 俺とアルベルトが出会ったのは近所の剣術道場だった。

 弱虫・泣き虫・根性なしの三拍子揃った俺の性根を叩き直すために親に連れて来られた道場にこいつがいた。

 後になってなぜ騎士階級の家の子息がこんな下町まで剣を習いに来ているかを聞いたが、アルの父親(つまり公爵家の騎士団長)の恩師が引退して開いている道場だからという。

 どうりであのじいさん強いわけだ。


 そんな顛末でアルと知り合い仲良くなったが、もともと根性なしの俺が長く続けることは無かった。

 逆に考えるとアルと未だに親友であるという方が奇跡だろう。

 アルは町が襲われたあの日まで、律儀に道場に通い続けていたのだから。


 俺はと言えば根性なしのヘタレ野郎で下町でも有名だったから、旅に出た当初は様々な失敗をした。

 その最たるものが今俺の向かい側で黙々と酒を飲んでいるヴァルターだ。


 ヴァルターとの出会いは二箇所目に訪れた町で廃墟の悪霊退治を頼まれた時に遡る。

 臆病な俺はもちろん嫌がったが、国王が選んだ勇者の仲間を撒いてアルベルトと二人旅をしていた頃だったのでやつを一人で行かす訳にはいかなかった。

 景気付けに酒をかっくらって廃墟に入ったが、恐怖のあまり飲み過ぎた。

 そして、廃墟にあったトラップでアルとはぐれた時に、恐怖を薄めるためにまた飲んだ。

 酔っ払いの完成だ。


 俺の相棒、火イタチのチーは酒の匂いを嫌がり隠れてしまった。

「姫さん……」すでに口癖になった呪文が出る。

 いや、探しているのはアルベルトだが。


 酔っ払った俺は一人でいるのがますます怖くなり、仲間を探した。

 その時歩いていたプレートアーマーのヴァルターに親しげに声を掛け、意気投合した俺たちは共に酒を呑みながらアルベルトを探した。

『ヴァルター』は俺が酔っ払って付けた名前だ。なにせあいつは喋れない、名乗れないからな。

 だが奴が喋らない、兜を脱がない時点で気付くべきだった。


 そう、奴こそが廃墟のボス・Aランクモンスター『死霊の鎧』だったのだ。


 合流したアルベルトは驚いただろう。

 なにせ迷子になった親友と倒すべき敵が一緒になって呑んだくれていたのだから。


 ついでにヴァルターも内心驚いていたに違いない。

 俺が思うに、廃墟で具体化した『死霊の鎧』は、今まで殺意むき出しで殺しにかかってきた人間は見ても、酔っ払って陽気に親しげに、しかも酒を勧める人間に出会った事が無かったのだろう。

 勝手にヴァルターなんて名前も付けられたし。

 まぁ、それがきっかけで仲良く旅をしているのだから人生なにが起こるか分からない。


 なにはともあれ俺とヴァルターは誓約を交わしパーティーの一員になり、やつは酒を好むようになった。

 あのがらんどうな甲冑の中のどこに酒が入るかは永遠の疑問だが……。


 ヴァルターについて言っておかなくていけない事がもう一つある。

 それは、もともと甲冑に宿った魂なので甲冑が破壊されたらもう二度と戻らない事だ。


 最初の頃はヴァルターが傷つく度に大騒ぎだった。

 やれ肩甲が取れた。やれ兜が潰された。やれ鉄靴が砕かれた。これでは歩けない!


 しかし、問題はすぐに解決した。

 もともと魂が甲冑に宿っただけのヴァルターだ。新しい甲冑に入ればいい。

 だが甲冑もタダではない。大事な仲間を失う恐怖からは逃れたが、今度は大事な金を失う恐怖に怯える日々が始まった。


 ヴァルターの正体はもちろんパーティーの仲間内だけの秘密だが、新たに加わった姫さんにもこの事は伝えなくてはいけない。

 だが、姫さんにヴァルターの正体を言うのはまだ先だな。

 姫さんは繊細そうだしな。

 メンバーに慣れてきたら言おう。


「あーそうだツェリ。こいつは人間じゃないんだ」

 そう言いながらヴァルターの兜を取り、中身が無いことを見せるアル。


 てめぇ! 待て! このアル野郎!!!

 いきなりそんな事を言われる姫さんの気持ちを考えろ。


「まぁ!」

 驚く姫さん。当然だ。

「こいつはなー。俺たちが依頼された廃墟の悪霊退治のボスだったんだが、ルーカスが戦わずに仲間にしたんだ。今では強力で頼りになる仲間さ」

 ヴァルターの方にグラスを向けながらアルが言う。

「そうだったの。凄いわねルーカス」きらきらした瞳で俺を見る姫さん。

「わたくし神獣も先ほどの戦いで初めて見たわ! 貴方は立派な魔物使いになったのね」


 でかした! 親友!!! さすが勇者だなっ!


 俺の目線は姫さんに釘付けだったが、視界の端でアルベルトが親指を立てているのはなんとなく見えた。


 気分が良くなった俺は酒を追加した。

 ふと体をテーブルに戻す時にヴァルターと視線があったのでニヤリと笑う。

 こいつもどさくさに紛れて酒を追加したからな。





前作のお嬢様視点を見ると、認識の違いに色々笑えますw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





・───・───・───・


ぽちっとして頂けると、とても励みになります!
【ファンタジー・サーチ】
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ