アシュレーンの魔女
春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。詳細は遊森 謡子さんの3/23活動報告にて。
また、参加者一覧3/26活動報告
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/126804/blogkey/402926/にて。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
「ねぇ、調べてくれた?」
「調べるって、何がさ」
「決まってるでしょ、あのデニス・ガーランドのことだよ」
「ああ」
あたしの言葉に、フレンはめんどくさそうに返事する。
「やっぱり調べてくれてないんだ」
「もちろん、ちゃんと調べたさ。でも、彼は名前以外、出生も年齢も謎の作家なんだ。簡単には分からないさ」
フレンはむくれるあたしの言葉にそう返すが、絶対にあれは本気で調べていないと思う。
あたしの名前は神部千鶴、22歳。大阪からこのアシュレーンに飛ばされてきた。その割には関西弁じゃないのは、あたしが今しゃべっているのがオラトリオ語だからだ。たまたまそれが英語に似た言葉だったので何とか意志疎通できたんだけど、それでも、今みたいにすんなり会話できるようになるには半年位かかったんだけどね。好むと好まざるに関わらず約8年勉強させられたことを、この時ばかりは感謝したよ。
因みに、あたしがこの世界にきたのは都合5回目の小説新人賞の一次落ちの残念一人カラオケで、毎年ゴールデンウイークにやるアニメ映画でも使われた有名な讃美歌の一番高音部分を歌っていた時だった。
いきなり、バラエティ番組のカラオケ採点企画でボーダー点を割ったみたいに床が抜け、あたしは真っ逆さまに落ちていき、アシュレーンの魔法使いフレン・ギィ・ラ・ロッシュの上に落下した。確かに上のラの音なんて踏ん張ってもなかなか出ないから声がひっくり返ってたのは認めるけどさ、
『テダム(こっちの豚とイノシシの間のモンスター)が降ってきたのだと思ったぞ』
はないんじゃない?
ま、当然行くとこもなかったあたしは、なんか結構魔力があるらしいって事で、そのままフレンの弟子になっちゃったりしたんだけどさ。
で、なんであたしがそのデニス・ガーランドという正体不明のおっさん(本当におっさんかどうか分かんないけど)に拘っているかというと、ずばりその作品。彼の「異世界とりかえばや物語」のトリップ先の記述にモロ地球……絶対にあれは東京だと思われる部分があるのだ。
更に、主人公がちゃっかりその異世界からせしめてきた乗り物は明らかに自動車で、その描写は想像で書いたものとはとても思えない。
「デニス・ガーランドは絶対に異世界人だよ。あんなの日本を知ってないと絶対に書けない。
主人公のビクトールは何度もオラトリオと日本を行き来してるんだもの。帰れる方法を知ってるはずだわ」
と続けて力説するあたしに、
「縦しんば百歩譲って彼が異世界人だったとしてもさ、何度も帰ってるのはあやしいと思うな。帰れないからオラトリオで物なんか書いてんだろ? 帰りたい願望が筆に出てるって考える方がおまえ、普通だろ。
だから、見つかって話聞いてもショック受けるのが関の山だぞ。止めとけ」
と言うフレン。
「それより、今はビーノを探せ、早くしないと日が暮れちまうぞ」
フレンは俯いたままそう続ける。あたしたちは今、痺れをとる薬の原料であるビーノという実を探している。見た目ラディッシュのこの実は、栽培できない事もないんだけど、なぜだかそうすると薬効が薄れる。土が問題なのかと思ってここの土を持って帰ってもダメ。草にもストレスとかあるのかねぇ。
で、このアシュレーンは昼間はともかく、夜になると飛んでもなく冷えるのだ。オラトリオの南に位置するアシュレーンより北のガッシュタルトの方が温暖だなんて詐欺だ。きっと北と南の単語が逆になってるんだよ。
「それに、夜になると……ほら、言ってるそばからもう来ちまった」
フレンがそう言ってため息をつく。グルニエという狼もどきのモンスターの後ろにいるのは……
「象か、珍しいな。冷えてきたからな。上の方の餌が減ってんだろ」
象! 象ってね、あれはどう見てもマンモスだよ、マンモス!! あ、マンモスも平ったくいえば象の仲間か。そんなことは言ってらんないわ、あたしも戦闘態勢に入らなきゃ。あたしはポケットからソレを取り出すと、
<DesK>
と高らかに叫んで、エア机をだし、ソレを開いて滑らかに,
【Pturodhunei Althcues Velra Madan Quetulfeana】
と、打って念を込めてエンターキーを押す。その途端、
<ペトロデュナ アルスケス ヴェラ マダ クウェトルフェーニャ>
と美しい発音の詠唱文言がソレから吐き出され、言霊が炎の矢となってグルニエに突き刺さる。
「よっしゃ一匹! ワープロ検定一級舐めんなよ!! げっ」
ガッツポーズをしてあたしの武器-キーボード式の電子メモ-を見ると、バッテリー不足の表示を出している。
「フレン、ヤバい、バッテリー切れ」
「バカ、薬草採りに行くときには、ちゃんと確認しろっていつも言ってんだろ」
「だって、これさ、一個目のゲージはあっと言う間に減るくせにそれから結構使えんだもん」
「ったく、口が減らない。俺が引きつけるから早く換えろバカ」
グルニエに電撃を与えながらフレンがそう怒鳴る。
「バカバカ言うなバカ。こんなもん、あんたの魔法で永久に使えるようにしてくれたらいいでしょ」
バカって言う奴が一番バカなんだからね。
「それができたらおとぎ話だ」
「ファンタジーとおとぎ話とどこが違うのよ!」
「知るかそんなもん! 作者に聞け!!」
そうこうしてる内に予備電池との交換が終わって、あたしは再び念を込めてキーボードを叩き、一匹一匹と片づけていく。そして、最後に残った象改めマンモスもどきをやっつけた。グルニエほど攻撃性はないけど、こっちでも貴重品なのよね、象牙って。しっかりいただいて、クエスト終了。
「はぁ~、終わった」
「ご苦労さん。ほれ、チーズ、前のを貸せ」
フレンはあたしから空の充電池を受け取ると得意の電撃魔法で充電する。
「けどさぁ、何か納得いかないよ。フレンさぁ、千鶴が発音できないのになんであのへんてこりんな詠唱文言がすんなり言えるのさ」
「さあな、俺は普通だ。お前の舌の回りが悪過ぎんだよ。お前には、<Desk>が関の山だろ」
そう言われると身も蓋もない。
そう、私にはかなりの魔力があって、魔道書も読める(魔力のない者には読めないらしい)のに、いかんせん、その読んだ文字を正確に発音できないのだ。巻き舌に、息だけの音なんて日本語にはないもんね。
術が発動されないのならまだしも、妙に歪んだ術が発動されてしまうのに業を煮やして、フレンはあたしが向こうから持ってきた電子メモに打ち込んだ文字を発音させる魔法をかけたのだ。
自慢じゃないけど10分間に720文字、ワープロ検定1級のあたしは、会話するのと同じ速度で文字入力できる。けど、なんだかなぁ……
Cheeze Camanvale(神部千鶴)
夫フレン・ギィ・ラロッシュと共にアシュレーンの医療に貢献した魔法使い。
彼女は、並行世界からトリップしてきた異世界人。不慮の事故でトリップしてきたことになっているが、界渡りをしたフレンが、彼女に一目惚れをしてこっそりと召還したという噂があるが確かでは……
「ちょ、ちょフレン、今の話ほんとうなの!! あんたホントは界渡りができるの? ってか、あたしとっくに帰れるって訳??」
「いや、その、あの、これはだな、作者の、そう作者の陰謀で……」
「問答無用っ!」
「ぎゃあ~あ~!!」
「よっしゃぁ、一匹退治! ワープロ検定一級舐めんなよ!! それからっ、そこでポチポチ原稿打ってるたすくっ!……」
ぷつっん――――
-この物語は恐怖を感じた作者によって強制終了されました。-
「武器っちょ企画」に参加してみました。
ちなみに、「稀代の魔術師」のサイドストーリーにもなってます。
前から、アシュレーンの話は書きたかったんですよね。
あと、この主人公の名前は、実は私の過去のPNなんですが、かんべちづるが彼らには言いにくいらしく、カマンベールチーズになってしまっております。
あー、楽しかった。