我が妹の危険性レポート
作品完成日:2006/10/24
えぇと、何から書いていけばいいだろうか。
真琴が初めてお兄ちゃんと呼んでくれたときのこと?
真琴の初めての反抗期のときのこと?
真琴が照れデレからデレデレに変わったときのこと?
いや……どれも普通に可愛すぎて話にならん。
ダメだな。
こう、もっと真琴の危険性を伝えられるような――
あ。
あれなんかいいかも。
*
「誕生日だね」
真琴が突然に言った。
俺が珍しく机に向かっているときのことである。
普段学校以外では開けることのないカバンからノートを取り出して、今まさに勉強という名のどちくしょー悪魔と大激闘してやろうとしていると、その激しく火花を散らせまくってもしやこれが引火の原因になるのではないかというほどに白熱しようとするノートと俺の間に覗き込むようにして、真琴の顔がひょっこりと現れた。
つまり宿題をしようとしているところに真琴登場。
そういうことだ。
わおびっくりだとか、そんなんはどうでもいい。
(誕生日?)
今日、誰かの誕生日だっけ?
俺の記憶上、今日という日に産声を上げたベイビーな野郎は、少なくとも俺の周りじゃ一人しかいない気がするのだが。
聞くと、
「やだなぁ、お兄ちゃんのだよぉ。今日はビックリさせちゃうから楽しみにしててね」
その可愛らしい顔をにんまりと笑顔に変えながら言った。
とりあえず思うのが、真琴可愛い。
違うか。
そして一度の思考停止。
再起動。
えぇと……普通、今からビックリさせてやろうとする誕生日の本人に「誕生日だね」とか言うものなのか?
目の前で「ビックリさせちゃうから」とか言うものなのか?
大胆不敵な可愛すぎて世界が滅んでもおかしくないような笑みを浮かべるのか?
俺が思っていたデフォルトのサプライズ誕生日といったら、誕生日のことに触れないようにして本人にサプライズをプレゼントするものだと思う。
例えば俺が「今日って俺の誕生日だよね?」と聞いたら無視をして、そのせいで落ち込んでる俺に思いっきりクラッカーの嵐を浴びせてサプライズ。
たしかこんなものがサプライズ誕生日の定番だった気がするんだが。
まあ真琴らしいっちゃらしいズレ方だろう。
らしくても困るんだが。
「それでね、」
そのくるんとやや緩いパーマを当てたような栗色の髪を揺らし、真琴がぷるんとした唇を動かす。
「ケーキ作るから一緒に作ろ?」
口に人差し指を当てて言う。
可愛い。
論点違うか。
また思考停止。
再起動。
ふざけてる。
絶対真琴はふざけてる。
どこの家庭に誕生日の本人にケーキを作らせるふざけた風習があるというのだろうか。
たぶんこれを真琴に言ったら「ここにいるよ?」と言いそうなので言わないでおく。
はぁ……。
真琴は妙に天然だから困る。
まぁ可愛いからオールオーケーなのだが。
よく分からんが、自分の誕生日ケーキを作る野郎と言ったら、独身の寂しい野郎かまたは単にケーキを作るのが好きな野郎だけだろう。
俺、どっちにも当てはまってねえ……。
真琴恐るべし。
「さ、作りに行こっ」
真琴はそう言って、俺が自室で宿題をしようとしているにも関わらず、腕を掴んで俺を引きずっていった。
ずるずるずるずる。
これ、宿題出来なかった理由になるのかな……?
*
「卵にグラニュー糖、薄力粉……あとバターだったっけ?」
俺に聞くなと言いたい。
激しくそう訴えたい。
真琴が言うには、「俺をびっくりさせるくらい」の苺ショートを作るらしい。
こうしてびっくりさせることを予告してくる方がびっくりだ。
キャミソールの上に母さんから勝手に借りたエプロンをしてコックさん気取りの真琴。
どこで買ったのか、あの白くて長い立派なコック帽まで着けている。
妙に誇らしげな顔をしているが、そういう顔はケーキを作り終えてからして欲しいものだ。
「じゃあ……真琴、いっきまーす!」
どこにいくんだお前は。
キャミソールのため腕まくりする必要性など塵たりともないに関わらず、それでも格好つけるためか腕まくりの真似事だけをする。
突っ込むべきことだとひしひしと肌に感じてはいるんだが、そのときのやる気満々の顔といったら……。
もうね、兄としてはなんとも言えないわけですよ。
だから生暖かく見守る俺。
その間に卵を手に取り、それを机の角にぶつける真琴。
そう、威勢よく。
問題なく砕けた。
「お、お兄ちゃん……えぐっ」
「わ、分かった。卵は俺が割ってやるから泣くな! 大丈夫、卵にヒビを入れようとしてそのままぐちゃりと叩き割ることぐらいよくあるさ!」
「ふぇぇ……」
なんでこいつは卵叩き潰したくらいで泣くかな……。
しかもガチ。
気遣うのはこっちなんだぞ。
まぁ可愛いからお兄ちゃん頑張っちゃうけど。
建前仕方なしに本心デレデレに真琴が割った卵を台拭きで拭き取ってやり、まだ真琴が持っていた残りの卵を取り上げた。
割ってやるとか言ってしまったが、俺は料理経験がない。
作ったことがあるのはカップ麺くらいなもの。
そんな俺がケーキを自作? ハハッワロス。
俺は真琴の二の舞にならないように慎重に卵をキッチンの角に軽くぶつける。
小気味のいい衝突音と、割れる音。
そこに出来たヒビに指を突っ込んで真っ二つにすると中身がとろーっと出てきた。
意外と簡単かも。
と思ったのはつかの間。
油断した隙に殻の欠片が中身と一緒にボールイン。
ものの見事に吸い込まれていってしまった。
殻入り卵の完成! って訳にもいかんか。
「ありゃりゃ……」
真琴、お前が言うな。
はぁ、めんどくせぇ。
今度はボールの中に手を入れて、その入ってしまった欠片を取り除く。
一個、二個。
順調にいったのはそこまで。
三個目。
何をどう違えたか知らん。
でも黄身が割れた。
うわ、と思いながらなんとかその黄身まみれの中から最後の一欠けらを見つけ出す。
拾い、ゴミ箱に捨てた。
が、まだ指にとろーっとした黄身がへばりついている。
うぇ、なんか気持ち悪い……。
そう思って手を洗おうとすると、
「お兄ちゃん」
真琴が、
「はむっ」
指を咥えてきやがった。
ぺろぺろと指を舐めてくる。
しかも、ちょっと頬を緩めながら。
……Oh。
……落ち着け。
クールになるんだ俺。
とりあえず深呼吸。
はい、吸って、吸って……
吸って、吸ってぇ、すっ……すt……
げほっげほっ!
む、無理っ!
このベタなギャグの深呼吸は無理っ!
ならしなきゃいいじゃんとかいう突っ込みは門前払い。
おい真琴。
はむっ、はねーよ。
あっちゃいけねぇぞ?
分かるか真琴。
お前は何がしたいんだ?
もしかして豚肉をひもでしばって燻製にすると美味いあれのことを言いたいのか?
それともとっとこしてる尻尾の短いネズミのことを言いたいのか?
考えている間にも俺の指を咥えながらペロペロと舐めてきている。
なので、その咥えられた指を奥に突っ込んでみた。
見事にむせ返った真琴。
「何するの、お兄ちゃんっ!」
涙目になっている真琴。
むしろその言葉は俺が声を特大にして叫びたいのだが。
まあ特大にして叫ぶとご近所さんに迷惑がかかることは重々承知なので普通に、
「お前は何がしたいんだ?」
ん~とね~。
可愛らしく小首を傾げながら真琴は言う。
「黄身が勿体なかったから?」
卵をこぼした真琴が一番言っちゃいけない言葉を。
しかも何故疑問系?
ブームなの?
ねえブームなの?
「それにおいしいよっ」
えっへんと胸を張る真琴。
でも張るそれは薄い。
本当にお前は何がしたいんだ?
勿体なくてうまいならさっきぶちまけた卵も這いつくばりながらぺろぺろ舐めとけよ。
試しにそのことを言ってみると、
「ダメだよ、汚いもん」
出来ればその常識を兄にも向けて欲しいものだ。
もっとも、それは十年かけてようやく達成できるほどのことであろうことは知っている。
だから俺は特に突っ込みもせず、何故か真琴が手渡してきた料理本を見ながらケーキを作り始めた。
まあ、焦がしたのは言うまでもない。
*
「いっただきま~すっ!」
俺の隣の席に着きながら、律儀にも両手をしっかり合わせて言う真琴。
なにをどう行動を間違えたか、頬に生クリームなんて付けちゃって。
そりゃあもう可愛いったらありゃしない。
こちらこそいただきたいくらいだ。
もふもふと焦がしてあることに無頓着であるかのようにケーキを頬張る真琴。
素晴らしくおいしそうに表情を緩めた真琴が、気付いたのように「あっ」と言って俺を見てきた。
もしかしてやっと焦げてることに気が付いたのか?
そう思ったが、様子から見て違うよう。
「ねぇねぇお兄ちゃん?」
「どうした? おかわりならいくらでも食えよ。俺はひとかけらたりとも食いたくない」
特にこの焦げてクソまずいケーキなんて。
「違うよぉ~」
顔に「そこまで食いしん坊じゃないよぉ~」と油性マジックで書いたような顔をしながら真琴は首をふるふると振った。
黄身まで舐めてる時点でその汚名はペンキでお前の顔に書かれてるがな。
「お兄ちゃん、裸エプロンって好き?」
ずっこけた。
そりゃあもう吉本新喜劇の如く盛大にすってんころりんと。
どこでどうやって足を滑らせたんだか自分でも分からない。
「な、何だって!?」
「だから、裸エプロンだよぉ。お兄ちゃん知ってるでしょ?」
そりゃあ知ってるともさ。
裸エプロン――
それは、男のロマン。
全裸状態でつけるエプロン。
唯一の着衣。
それが体を動かすたびにチラチラと要所が見え隠れするチラリズム。
あ、今見えた!
も、もうちょい……エプロン邪魔!
くそっ、め、目のやり場が……!
どれをとっても素晴らしい。
これにぐっとこないやつは男じゃない。
男として認めない。
また全裸の代わりにパンツ一丁で着るタイプもなかなか乙なものがあるのだが、それは置いておこう。
「あ、ああ……」
イマイチ言葉の意味が読み取れないので、曖昧に頷いてみせる。
真琴はニッコリと笑った。
「お兄ちゃんのために裸エプロンになってあげようかなって思うんだけど」
「ていっ」
「痛っ」
とりあえず期待に胸を膨らました感満々のキラキラした瞳を携えたその額にチョップを喰らわしておいた。
かなり軽くやったはずなのに、それでも痛そうに額をさすっている真琴に追撃の手を繰りだろうかと思ったりしたが、見てる分には可愛かったりするのでやめておいた。
「痛いよぉ、お兄ちゃん……」
う~と呻きながら上目遣いに俺を見てくるあたりからして、こいつは無自覚型悩殺人兵器と見える。
――誕生日のお祝いに、裸エプロンになってあげる~。
あぁ。
そんなの、嬉しすぎるプレゼントじゃないか。
……いや、贈与されるつもりは毛頭もないが。
うん。
可愛くて男心鷲掴みなプレゼントだけれども、そんなことはいかん。
「お前な」
ぽんっと真琴の頭に手を乗せながら言う。
「もっと体を大事にしろよ」
「健康だよぉ~」
意味を完全にはき違えた真琴はなぜかぷりぷり怒っているが、とりあえず真琴のくせ毛がひどくてパーマをかけたようになっている頭をわしわしと撫でてやる。
見た目の割にはさらさらとした触り心地で、撫でてる方も、そして見れば撫でられえる方も気持ち良さそうだった。
俺の誕生日パーティ(総勢二名かつ一切の盛り上がりに欠けて雰囲気も何もあったもんじゃない)は真琴がケーキを完食するまで続いた。
*
「おに~いちゃんっ」
俺はこれから寝ようとベットの前に立っていると、後ろからの軽い衝撃を受けた。
その正体が真琴である事は余裕で予想がつく。
後ろから抱きつくように甘えてくる真琴の体をしっかりと受け止めながら、ベットの横においてある時計を見て現在の時刻を確認する。
日付変更線間近。
こいつはいつまでハイテンションのままなんだ。
内心嘆息しながら、用件だけは聞いておく。
「あのねあのねっ」
肩越しに飛び出してくる顔を真横に見ながら、ゆらゆら揺れる真琴の体をしっかりと支えている俺はいい兄だと思ったりする。
「ボクをオンナにしてっ」
唐突に訝しげなことを時間もタイミングもあったもんじゃない状態でほざいてくる真琴は悪い妹だと思ったりする。
えぇと、それは――
「どういう意味かな?」
「ボクとえっちしよっ」
……Oh。
本日三度目の思考停止。
再起動。
天然な真琴が、何故そこら辺はしっかりとした意味合いを持ってそう言ってくるのだろう。
自分の兄にそういうこと言ってる時点で天然が度を越えてるんだか、はたまたブラコンの域に達してるんだかは分からないが……。
まあ常識外れだ。
「お前、えっちの意味を知ってるのか?」
「知ってるよぉ。えっとね、男の人と女の人がキスとかしてね、それでね、裸になってね、体を重ねちゃったりしてね、男の人のアレを女の人のアソコに……きゃーきゃー!」
一人で勝手にはしゃいだ挙句、俺の肩をばしばしと痛いくらいに叩かないでほしい。
何をどうしてお前はこうなんだ?
「ってわけで、お兄ちゃんに貞操を差し上げたいと思う次第なのですよ!」
突然口調を変えた挙句に貞操ときましたか、この恨むべき妹は。
まあ話の内容的には放っておけないことが盛りだくさんでどこをどう突っ込むべきなのかさっぱりだが、とりあえず話以外で突っ込むべきところが一つあるので、そこから攻めておく。
「お前、服着てないな?」
「うんっ」
だろうなぁ……。
通りで背中にぽちっとした突起物的存在を感じ取れたわけだよなぁ……。
この状況で興奮しないのは男としてどうかと思ったりもするのだが、そこは相手が妹であるいう点をフル活用して理性で歯止めを利かせている。
俺、超頑張ってね?
「何で裸なんだ?」
「そりゃあね、本番をするから準備しとこうと思ってっ」
あらあら。
大変準備が宜しいことで。
なんでこう変な所に気が回ったりするのだろうか。
誰に似た?
親父?
お袋?
まあどっちでもいいが。
えぇと、どうしたものか。
切に悩む。
一端の男としてここは快く真琴の素晴らしい提案をのみルパンダイブで襲い掛かるべきか。
はたまた一端の常識人として妹の貞操を守り、俺の理性を貫くべきか。
いや、本当は悩んでる時点で常識人として逸脱してるよな。
あー……じゃあこうしよう。
「あのな、真琴」
俺の肩に顎をのせている真琴の頭に手を置きながら言う。
時折幸せそうな顔で俺の頬に頬を擦り付けてくる姿を見て、嬉しそうに頬を緩めた真琴を見て、背中に感じるぽちっとしたものを想像して、俺の決心が緩みかけたのは生涯の秘密だ。
墓まで持っていこうと思う。
「男というのは、確かに裸で興奮する。だけどな、本当の男っていうのは女の服を脱がすことで興奮するんだぜ?」
ごめん日本全国の健全なる本当の男子諸君。
「そうなの?」
くりっとした可愛い瞳で俺を見つめる。
「ああそうだ」
完全に嘘というわけではないが、本当の男の全員が全員脱がすことによって興奮を得るのかどうかについて知らない。
が、とりあえず頷いとく。
そうなんだぁという文字をきらきらと浮かばせた瞳で見つめてくる真琴の目を見て、俺の決心がまたもぐらぐらと、父親に買ってもらった自転車に早く乗りたいあまり買った当日に自転車練習なんて始めた子供の運転する自転車のようにぐらぐらと揺らいだ。
なんの比喩だか知らんが。
まあ結局あれだ。
俺が好きなんだから他言を気にする必要なんてないんだ。
文句は受け付けねえ。
俺理論最高。
そういうことだ。
それと、どうあっても靴下を脱がすことはタブー。
お兄さんとの約束だゾ☆
「俺も本当の男の一人だ。だからえっちをするのであれば、きちんと服を脱がすことから始めなくちゃ気が済まないんだ」
ほほぅと、もうその瞳からは俺の理性を丸ごと喰らい尽くすかのような、悪魔のきらきら光線が降り注がれているが、まあぎりぎり言うことは全部言ったので、俺の世界最高を誇る理性に感謝しておく。
どういう観点で世界最高なのかは俺自身知る由もない。
「じゃあ、ボク服着てくる~」
ぴょこんと俺の背中から降りた真琴は、そのままスタスタと俺の部屋から出て行く。
もちろんこれは背中に感じていた真琴の体重がなくなったのと、足音、ドアの閉まる音を聞いて判断したことであって、決して振り向いて初々しい真琴の柔肌を見てなどしているわけがない。
うん。
頭に焼きつくようにして残った肌色の残像の余韻に浸ってる場合でないことに気が付くと、俺は急いでドアに駆け寄り、そして鍵をかけた。
そう、これが俺の目的。
いや裸を見ることでなくて。
恐らく、というより確率的には九割の確率で、口で「ダメだ」と言ってもしつこく食い下がってくるだろうことは見えみえなので、こうしてテキトーな理屈を捏ねて部屋から追い出し、鍵を閉める作戦にしたのだ。
まあ理屈というか本音というか。
もうしばらくしたら真琴の「ひどいよお兄ちゃん~っ!」という悲痛な声が聞こえてくること間違いなしだが、そこで欲望――じゃなくて情に流されてドアを開けてしまったら最後、人としての道から大きく逸れることは、より間違いない。
ここはしっかりと明日に備えて寝るべきだろう。
うん。
元々するべきことだったし。
そう思い、俺は床につく。
干した布団というほどではないが、それでも昼間のうちに窓から差し込む日光で温められたのだろう。
いつも以上にふかふかのベットがじわぁと俺の疲れを取ってくれる。
さて休もう。
もう休もう。
明日も、無事に真琴の貞操を魔の手(主に俺)から守れるように――
「お兄ちゃんっ」
「うおっ!?」
な、ななな、なんで真琴が俺のベットに入って……!
「鍵閉めるのなんてずるいよぉ。もう、一々ピッキングしなくちゃいけなくて面倒なんだからぁ」
いやいや、自分の兄の部屋にピッキングしてまで入ろうとするなよ。
しかも気が付いた時には、既にベットの中に入り、後ろから抱きついてきている状態。
超密着。
どちらの汗とも知れぬそれが、ぬらりと垂れた。
「お兄ちゃん……ボクの初めてをあげる。優しくしてね?」
……人捨てちゃダメですか?
いやいやいやいや。
落ち着け。
ひたすらに落ち着けよ、俺。
クールになるんだ。
クールにならざるを得ないんだ、俺!
ここで人を捨てたら今までの十八年間、もろもろにパーだ。
一時の感情に流されるな、という言葉を聞いたことがあるけれど、まさに今がそれ。
流されたら終わり。
分かるか、俺。
しっかりしろ、俺。
負けるな、俺。
耐えろ、俺。
「ねえ、まだぁ?」
真琴らしからぬ色っぽい声色が、じわぁと頭の中に染み渡っていく。
我慢……我慢……。
理性を保つんだ……!
嗚呼……。
背中に感じる柔らかい肌の感触。
温もり。
肩甲骨の辺りに感じる二つの突起は、やはり真琴のあれなのだろう。
小ぶりの胸が伝わってくる。
柔らかすぎる真琴のももが足に絡みついてくる。
薄桃色に染まっていく意識――
(っだぁ! 良い男良い男!)
頭をがりがりかきむしり、脳内に良い男を想像する。
背中に妹なんていない!
抱きついてなんかない!
頭にあるのは阿部さん!
うほっ、良い男!
アッー!
だからこんな気持ちになってるのなんて嘘!
ありえない!
ありえないんだぁっ!
結局、真琴の体を背中に感じること小一時間。
それの興奮を冷ますのに小一時間かかって、俺の寝不足は確実なものとなった。
……宿題の存在に気が付いたのは、朝、真琴がいつも通りに作ってくれた飯を食べてからのことである。
*
さて、ここまでで俺は筆を置こうと思う。
分かっていただけたであろうか。
これが我が妹である真琴。
その危険性である。
これを読んだ皆さんも、是非とも甘えん坊な妹には気をつけてもらいたい。
もし不安ならば俺の方から「糞味噌テクニック」を貸し出ししてあげよう。
あれはいいぞ。
ノンケなら萎える。
そして笑える。
先に述べた実績を見れば、その効能は分かっていただけることだろうと思う。
さあ、甘えん坊の妹を持つ諸兄らは今すぐ俺に連絡を!
まあそんな特異な妹、いるかどうかは一切合切知らんが。
この授業の後、国語の先生にこっ酷く叱られたのは言うまでもない。




