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滅びた国の王女は魔王城をうっかり堕落させる~異世界で快適発明ライフ~  作者: 幽々子由馬


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第9話 最終話

ここまでニーナにお付き合い頂きありがとうございました!この子はとっても動かしやすく書いてて楽しかったです!

第9話


 工房の中に、金属の触れ合う軽い音が響く。


「よーし……あとちょっと……!」


 机の上には、組み上げられた箱状の装置。

 そこに冷石をはめ込みながら、ニーナは満足げに頷いた。


「これで――冷蔵庫、完成目前!」


 弾む声。

 いつも通り、楽しそうだ。

 その様子を、少し離れた場所から見つめる影があった。


「……」


 魔王は、何も言わずに立っている。


 無造作にまとめたミルクティー色の髪。

 腰に揺れる工具ベルト。

 落ち着きなく動く姿。


 ――随分と、元気になった。


 思い出すのは、瓦礫の中に倒れていた、小さな人影。


 呼吸は浅く、意識もない。

 そのまま放置すれば、遠からず命は尽きていただろう。


「……」


 近づき、様子を見ると、


「……人間か。」


 それも、まだ若い。

 なぜ生きているのかも分からないほどの状態だった。

 だが、生きている。

 魔王は、その人間の傍から離れる事が出来なかった。

 数日間、瓦礫の残るその場所に留まり、最低限の処置を施し続けた。


 水を与え、魔力で傷を癒やし、呼吸が安定するまで見守る。

 ただ、それだけのために。


「……」


 やがて、かすかに、指先が動いた。

 浅かった呼吸が、わずかに整う。

 ――命が、繋がった。

 それを確認してから、魔王は立ち上がる。

 

 このままでは、再び虫の息だ。

 ならば――場所を変える必要がある。


 魔王は、一度城へと戻った。

 静かな部屋を一つ、用意する。

 余計なものは要らない。

 安静にできるだけの空間があればいい。


「……」


 準備を終えると、静かに目を閉じる。

 そして――座標を定める。


 あの場所へ。


 魔王城の広間、大理石の床に、淡く光る紋様が浮かび上がる。


 転移陣。

 それは“繋ぐ”ための術。


「……来い」


 その声は、ほとんど音になっていなかった。

 あとは、目を覚ました時に分かればいい。


 光が弾けた――あの時。

 転移の衝撃で、わずかに意識を取り戻したその人間は。

 恐怖と混乱の中で、こちらを見上げていた。


 ――あの時の視線を、今も覚えている。



――――――

 

 

「――できた!!!」

 

 弾む声が、現実へ引き戻す。

 視線を戻すと、ニーナが振り返っていた。


「見て見て!完成したよ!」


 得意げに胸を張る。

 そこにあるのは、四角い箱。


 あの時、瓦礫の中にいた人間と――同じ人物とは思えない。


「これが冷蔵庫!」


 ぱん、と軽く叩く。


「中に入れたものを冷たく保つ装置です!」


 いつも通りの説明。

 いつも通りの調子。


「ラムナ!これ中に入れて!」


「は、はい!」


 渡された器の中には、白く冷やされた甘味。


「……これが、アイス……」


 恐る恐る口に運ぶ。

 そして。


「……!」


 目を見開いた。


「……冷たい……甘い……」


「……おいしい……」


 完全に堕ちた。


「でしょ!?」


 ニーナは満足げに笑う。


「これが文明の力だよ!」


 どや顔で言い切る。

 その様子を、魔王は静かに見ていた。


「……」


 何も言わない。

 だが、その光景を悪くないと思った。


 ひとしきり騒いだあと。

 ニーナは満足げに伸びをした。


「よし!」


 そして、当たり前のように言う。


「じゃあここで発明続けるね!」


 振り返る。

 赤い瞳が、静かにこちらを見ている。


 短い沈黙の後。


「……勝手にしろ」


 それだけだった。

 それだけなのに。


 むしろ、それは。

 ここに居ていいという、許可のようなものだった。


「やった!」


 ニーナは満面の笑みを浮かべる。

 

「……もう一つ、よろしいでしょうか」


 ラムナが遠慮がちに口を開く。


「いいよ!」


 ニーナは即答だった。

 冷蔵庫の扉を開け、冷えたアイスを器へ盛り付ける。


「はい!みんなも遠慮せず食べてね!」


「……失礼いたします」


 恐る恐る受け取る魔族たち。

 スプーンでひとくち、口に運ぶ。


「……っ!?」


「な、なんだこれは……!」


「口の中が……冷たいのに……甘い……!?」


「頭が混乱する……!」


「だが、止まらん……!」


 ざわざわと広がる動揺。

 そして――。


「おかわりはあるのか!?」


「順番を守れ!!押すな!!」


「おい貴様、それ三つ目だろう!!」


「言いがかりだ!!そちこそ我の分より多いのではないか!?」


「いや、喧嘩しないでね!?」


 ニーナがすかさずツッコむ。

 しかし喧騒は止まない。


「これを毎日食べられるのか……?」


「いや待て、我々はもう戻れないのでは……?」


「こんなものを知ってしまったら……!」


「もうあの生活には……戻れない……!」


「大げさだよ!?」


 完全に手遅れだった。

 気付けばニーナを先頭に、アイスを求める魔族達の行列画出来上がっていた。


 ラムナは静かにスプーンでもう一口すくい、


「……これは、業が深いですね」


 ぽつりと呟いた。

 誰も否定しなかった。


  喧騒から少し離れた場所で、魔王は差し出された器を見下ろした。

 「はい、魔王様の分!」と渡されたそれは、バニラアイスというらしい。

 乳色に輝くそれを、スプーンでひとすくいして口に運んだ。


「……甘いな。それに冷たい」


 ――悪くない。


 これからも、発明して、騒いで、巻き込んで。

 この城は、きっと少しずつ変わっていく。

 

 ――悪くはない。


 そんな日々が不思議と、悪くないと思えた。


 

 その日。


 魔王城に、初めて冷蔵庫が導入された。


 そして――


 魔王城は、さらに堕落していくことになる。

 

 

 おわり

お読み頂きありがとうございます。少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。

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